猫竜也番外 最強?


昼休みに学食前の庭で、シゲはいかに最近の竜也が可愛らしいかを語っていた。
それをうんざりした表情でも聞いてくれるのは見た目を裏切って意外と人が良い三上。
「もー、ほんま可愛えんよっ。皿割ってごめんなさいーて、耳がへたーってねとんの!くあーっ、鼻血もん!!」
「やめろ、変態」
「もう、俺位猫馬鹿なんもいないんやない!?なあ、三上さん!」
三上の暴言すらも右から左に聞き流しながら、自らの猫馬鹿を主張したシゲに、ふいに三上がにやりと笑った。
「甘いな、シゲ」
その不敵な笑みに、シゲは緩みきっていた頬を若干締めた。
「なに、その顔」
握っていた拳はそのままに問うと、三上はにやにやと口端を上げて甘いなと繰り返した。
「お前まだ知らないんだな、ウチの大学一の猫馬鹿野郎・・て、あぁ、丁度居たぜ」
そんな存在を露程も知らないシゲは、指された背後を聞き捨てなら無いとばかりに勢い良く振り返った。
「何!?」
その先には木の下で佇む一人の学生。肌の浅黒い、どこか茫洋とした感のある彼は、首を上げて枝を見上げている。
「何してんだ」
さほど離れていない位置なので、彼の言葉はシゲにもよく聞き取れた。ただ、彼が話しかけている対象の姿は全く見えない。
「るっさいな!猫は木登りするもんだろ!」
返って来た声は生意気盛りの少年といった印象だったが、気のせいか若干震えている。
「また下りられなくなったのか?」
どうやら、飼い猫が木に登って下りられなくなっているらしい状況を想像して、猫を大学に連れて来ている学生の存在にシゲは軽く瞠目した。
そして微かな敗北感を感じるシゲの目の前で、彼らは周囲の注目を物ともせずに会話を続けている。
「違う!!ここの眺めがいいから、ここにいるんだ!」
眺めといっても食事をする学生か学食の中しか見えないだろうそこは、どう考えても景観が良いとは言えない。ただ下りられなくなっただけなのだろうとはその場に居た誰もが思ったが、その学生は軽く嘆息しただけでそれ以上その事実には触れなかった。
「下りられないわけじゃないぞ!下りたくないだけなんだからな!」
「分かった」
そしてその学生はあくまで自分の意思で下りないのだと主張する木の上の猫に向けて、両腕を広げて見せた。
「もうすぐ午後の講義が始まる。翼がいないと寂しいから、下りてきてくれよ」
臆面も無く言ってのけたその台詞に、散々竜也の可愛さを主張してきたシゲもさすがにぎょっとする。
「・・・・仕方ねぇなっ」
周囲からまたか・・という苦笑が漏れる中、大きく枝を揺すってその学生の腕の中に落ちてきたのは茶色い柔らかそうな髪を持った、色白の大層可愛らしい猫。
「お前のために仕方なくだからな!」
抱きとめた学生の肩に爪を食い込ませてしがみ付く猫に、ありがとうと笑いながら踵を返したその学生とシゲの目がふと合った。
「・・・・」
顔見知りでも何でもないためそのまま通り過ぎるその背中を見送り、シゲは小刻みに肩を揺らしていた。
「な、すげえだろ?法学部の黒川だっけな。ウチの大学一の猫馬鹿だって有名だぞ」
おかしそうに彼を紹介してくれる三上の言葉に、シゲは揺らしていた肩を大きく仰け反らせた。
「俺も竜也連れて来たるーー!」
この叫びが呼び水となり、大学内全体で猫を見かける機会が増えたかどうかは、また別の話だ。




猫竜也番外編。そんなにマサツバを出したいかとまそん、な話。
皆猫とか犬(これも擬人化)連れて大学来てたらいい。そんで教授たちが頭を悩ませてたらいい(笑。

(初出2004.11.19/再録2004.12.7)