シゲ&水野幼馴染パラレル 3 (1と2はSS「そして、さざなみ」として焼き直し済み)


「佐藤、ノート」
「好きやで」
返って来た応えに竜也は呆れて、その秀麗な眉を顰めもせずに無表情で繰り返した。
「数学のノート、早く出せ」
何故だか竜也が先生に頼まれてクラス分を集める事になったので集めたはいいが、シゲを始めとするグループが提出してない事に気付いて、シゲを囲む一団体に近付いて促したのだが。
「たつぼん、好きやでーー」
「変なあだ名を勝手につけるな、ノート」
いつの間にかおかしな呼び方をするようになったシゲを軽く無視して、他のメンバーに目を向けると彼らは素直にノートを出してきた。
「ん、サンキュ。ほら佐藤、お前の早く」
渡されたノートを抱えてシゲを見下ろすと、彼は激しく不満げな顔をしてむくれていた。
「佐藤」
「なーんでそういう呼び方するかなーーー。たつぼん、俺こないに好きなのに」
「お前の日本語は全く理解できない。どこがどう繋がるんだ。いいからノート」
竜也が図書館に居る日には必ず入り浸るようになって、そういう日は何故だか一緒に帰ることが多くなって、そしてシゲの水野を呼ぶ呼び方が、いつの間にか彼独特のものになっても、竜也の態度は変わらなかった。
心底面白く無いといった風情で頬を膨らませるシゲに、周りの友人たちがニヤニヤと笑う。
「好き」
「ノート」
「すっきやでー、たつぼん」
「佐藤」
全くかみ合わない会話を続けながら、いつしか二人は意地になる。
シゲはノートを出そうとはしないし、竜也は絶対にそれ以外を口にしない。
「水野、こいつ阿保やから電池切れるまで、ずっと言い続けんでー」
揶揄するように口を挟むのは、シゲの自称親友直樹。
「うっさい、誰が電池で動いてんねんボケ。俺はたつぼんへの愛で動いてんのや」
直樹を睨みつけてから、シゲはにっこりと竜也に向かって笑う。
「安上がりで良かったな。ノート」
無表情に哀れみをプラスしたような目で見下ろされ、シゲは眉をしかめて口を尖らせる。
小学生かお前はと竜也が言いそうになったと同時に、シゲはガタンと椅子を蹴って立ち上がった。
「佐藤成樹は水野竜也が大好きです!!」
いきなりそう叫びだし、直樹達だけでなくクラス中がシゲに注目する。
「好きです、水野君!」
「やかましい、佐藤!やめろ、気色悪い!」
ここのところ事あるごとにシゲが”たつぼん、好き”を繰り返していたので慣れたつもりだったが、さすがに叫ばれると恥ずかしく、竜也はシゲの口を塞ごうと慌てる。
するとシゲは今度は竜也に向き直って、それでも声を張り上げて主張する。
「好きなんですが!」
「佐藤!」
竜也が耳まで赤くして怒鳴ると、シゲも負けじと怒鳴り返す。
「好きって言うとるやんか!!」
「あー、もう!」
シゲの暴走には慣れっこになりつつあるクラスメイトの、微笑ましく見守るような、それでいて呆れた様な視線に負けて、竜也が先に白旗を揚げる。
「好きだよ、だからさっさとノート出せ、あほシゲ!!」
するとシゲは途端ににんまりと笑って、満足げに数学のノートを取り出した。
「勝ちーー」
誇らしげに笑うシゲからノートを受け取りながら、竜也はつい一瞬前までの赤かった顔など無かったかのように冷静な表情に戻ってふん、と鼻を鳴らした。
「こんなもんを盾にしねぇと俺から告って貰えねぇのかよ、お前は」
そして口端を上げて笑うと、自分の机に乗せておいた他のクラスメイトの分と一緒にそれを抱えて教室を後にした。
どうやら、竜也が恥ずかしかったのはクラスメイトに注目されることであり、シゲの告白に応えた事に関しては、それを回避するためだけに取られた処置で、特に何も思うところは無かったらしい。
「・・・・・やばい、男前や・・・・・」
何事も無かったの様に教室を後にする竜也の背後に残されたのは、言われた台詞内容に傷付くよりもその男らしい表情にノックアウウトされた約一名と、そんなシゲを哀れみの目で見つめるクラスメイトたちだった。
「・・・お前、ほんまに相手にされてないんちゃうの・・・」
クラス中の心を代弁した直樹の台詞も、竜也の出て行った扉を見つめて改めて惚れ直した・・と呟くシゲには聞こえていなかった。

シゲと竜也の未来に、合掌。

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あははー、シゲ水ですよ!(言い張る。