シゲ&水野幼馴染パラレル 6


ある日の放課後、竜也が放課後図書室当番である日には当然の光景になりつつあるように、シゲは図書室の窓際の席で眠っていた。
初めは本も読まずに何しに来てるんだと思いはしたが、たつぼんと帰る為に待っとるに決まってるやんか!と恥ずかしい位に力説されてからは、ぎゃーぎゃーと煩く話しかけられるよりましだと諦める事にした。
そう多くは無い利用者の貸し出しを受け付けながら、自分も趣味の本を読んでいると引き戸を開く音がして、思わず顔を上げた先にはシゲと同じ位図書室の似合わない男、直樹が居た。
「よ」
「どうしたんだ、珍しいな」
直樹は片手に文庫本を持ってカウンターに近付き、それを竜也に差し出した。
「お前が前読んだ事無いて言うてたやつ、渡すの忘れてたわ」
差し出された文庫本は、確かに以前竜也がまだ読んだ事が無いと言っていた司馬遼太郎の一冊で、竜也は表紙に踊るタイトルに思わず頬を綻ばせた。
「サンキュ」
今読んでいる本もそろそろ終わりだったんだと嬉しそうにそれを受け取る竜也耳に口元を寄せ、直樹はおかしそうに窓際を指した。
「相変わらず待っとんの」
気持ち良さそうに上下するシゲの背中を眺め、竜也は肩をすくめてみせた。
直樹はその動作に笑みを漏らして、周囲に聞きとがめられない程度の声音で秘密を語るように楽しげに口を開いた。
「水野、自分意外とあいつ気に入っとるやろ」
「・・・あぁ?」
何を急に言い出すんだと竜也が眉をしかめる先で、直樹は一人合点のいった表情で頷いている。
「やー、てっきりシゲの一人相撲で終わると思ったんやけどなぁ。まあ親友が報われるんは俺も嬉しいんやけど」
良かった良かったと訳知り顔で納得する直樹に、竜也は何のことだと不機嫌そうに返す。
すると直樹は口端をにやーと持ち上げて、口元を手の平で覆いながらおかしそうに喉を鳴らした。
「せやかて水野、昼休みの当番全部変わって貰ってるんやろ?そん代わり放課後増やしてんねやろ?」
シゲと昼飯食えて一緒帰れて良かったなぁと続ける直樹に、竜也の頬が珍しく紅潮する。
「それにこないだ、シゲの陰口叩いた奴のロッカー凹ませたんやて?豪気やねぇ」
「なん・・っ」
何故知っているのだと竜也が瞠目すると、直樹は誤魔化すように企業秘密やと笑う。
その表情に竜也は深呼吸を一つして、普段の冷静な表情を取り戻した。
「言うなよ」
何を誰にとは言わずとも察した直樹は、勿論と目を細めて笑った。
「これ以上あの阿保の頭春にしてたまるかい。けどそん代わり一個教えてや、どこがええの?あれ」
普段はそうでもないけれど、竜也の前ではカッコ良さの欠片も無い友人の平和な寝姿を視界の端に捉えながら、直樹は理解できないと首を捻る。
竜也も確かにと頷きながら、時たま揺れる金髪を見て目を細めた。
「カッコ良かないけど、可愛いじゃん。犬みたいで」
昼飯を共に食べれなかったら垂れる耳が見えるし、図書室当番の無い日でも偶に竜也の方から一緒に帰ろうと誘えば、千切れんばかりに振られる尻尾が見えるようで、それが可愛いんだと笑った竜也の台詞に、直樹は妙に納得してしまった。
「忠犬シゲやね」
「そう、可愛いだろ?」
男への褒め台詞では無いなーと寝ている友人を多少哀れみながら、直樹はカウンターに座る竜也を見下ろす。
シゲが忠犬になるのは竜也に対してだけだと、恐らくこの本人は気付いていない。シゲがやたらと纏わりつくのも竜也だけだということも、きっと知らない。
シゲは元々人懐こいのだと、思い違いをしているだろうと直樹は知っている。けれど、それをわざわざ教えてやるような義理は無い。
それを知った時に竜也がどういう反応を示すのかは分からないが、そんな誤解をされたままの友人が偶に凹んでいる姿というのは中々楽しい。
「ま、暫くは捨てんといてやってなー」
だから暫くはこのまま眺めている立場で居ようと、直樹はそれじゃあと踵を返した。
「あぁ、本サンキュー」
すっかり読書友達になりつつある直樹に短く礼を告げて、竜也は図書室を後にするその背中を見送った。
そして最後に壁時計に目をやって、もう少しシゲを寝かせてやれるなと思い、読んでいた小説をもう一度開いた。


竜也もシゲが好きなんですよという・・。
犬に対しての認識ですが(爆。

11月16日