準利で喜怒哀楽+α
哀
準サンと和サンが仲良いのって、バッテリーだからっていう以前に、趣味が合うからってのがあるんだと思う。趣味が合うから、バッテリーとして以外にもより仲良くなれてるんだと思う。
そういう意味では、オレは和サンを追い抜けやしない。だって、準サンとオレはさして趣味が合わないから。
「ホント、当たりでしたよねっ」
「そうだなぁ、面白かったな」
映画の後のファーストフードで昼飯を食いながら、映画の感想を和サンに語っている準サンはとても楽しそうだ。和サンも、準サンの言葉に深く頷きながら、自分の感想を述べている。
オレはといえば、冷えて油でシナシナになったポテトをもそもそ食っている。
オレは元々映画というものがそう好きではなくて、だから準サンが和サンの方にばっかり話をするのは仕方無いと思う。
オレと二人で映画に行っても、オレは準サンの感想に相槌は打てるけど、そこから会話が盛り上がるような返し方ができないから、今日準サンが和サンを誘ったのも当たり前といえば当たり前だ。
誰だって、膨らむ会話の方が楽しいに決まってる。
「利央は、途中で寝てたな」
和サンが苦笑してオレにも話を振ってくれるけど、言葉どおり寝てたオレは準サンの冷ややかな視線に誤魔化すように笑うほか無い。
「ったく、金払って何しに行ったんだか」
呆れた表情の準サンに、よっぽど言ってやろうかと思ったけどさ。
二人で映画に行ってもきっとオレは寝ちゃっただろうけど、でも、その後で準サンがオレにどこそこが面白かったのにと話してくれる、それが楽しみだったんだって。好きな人が、好きな事について話しているのを聞くのは大抵の人は好きなんじゃないかと思う。
「兄ちゃんが昔、クラシックなんて金払って安眠を得る為に行くようなもんだって言ってたよ」
でも和サンがいるこの場で、オレがそういうことを言うのを準サンは嫌がるだろうから、どうでもいい話でお茶を濁しておく事にする。
「クラシックと一緒にすんなよ。なんで映画館のあの音量で寝れるんだ」
そう言われても、元々じっとしてるのが苦手だから。じっとして画面を見詰めるよりは、何か身体を動かしていたい方だから。
「まー、お前の金だからいいけどな」
そう言ってまた和サンとの会話に戻ってしまった準サンに内心溜息を吐いて、オレはポテトを咥えて窓の外を行く人たちをぼーっと見ていた。
なんだか、自分がここにいる必要なんてこれっぽっちも無いんだよなぁなんて思えてきて、ちょっと切ない。
さっさと食べて、帰っちゃった方がいいんだろうな。なんていうか”切ない”っていうのが、”和サンが妬ましい”とかいう感情に変わる前に。
準サンとは意味が違うけど和サンもやっぱり好きだから、和サンにそういうドロドロしたことを思うのは、凄く辛い。
「あー、すっげ美人」
二人の会話の中身なんて大して耳に入ってこなくて、窓を通り過ぎるちょっと好みだなって女の人とかを、オレはぼんやり見てた。
利央は映画とか観てるとどんな映画でも寝ちゃうタイプっていうのが、内輪設定(内輪って。利央は和サンのことも好きだから、和サンに嫉妬するのが利央にとっては凄く辛いことだと思います。
8月31日