準利で喜怒哀楽+α
喜
その日の練習の前に、いきなり準サンが言い出した。
「利央、土曜の練習午前中だけだろ、遊んでやろうか」
オレは一瞬まじまじと準サンの顔を見つめて、準サンが居心地悪そうに眉を顰める辺りでやっと応えることができた。
「え、なんで!?」
「なんでってなんだよ、てめぇ」
準サンは心外だというように首を傾けて不機嫌そうに口元を歪めたけれど、今まで準サンが遊びに誘ってくれたことなんて殆どないし。いつも大抵オレがしつこくしつこくお願いして、何とかお許しを得るってのがオレ達の形なんだって思ってたから、オレの驚きも仕方無いだろ。
驚かない方が不自然だと、オレはつい恨みがましい口調になっていた。
「だって、さぁ。和サンと個人練習とかすんのかと思った」
そう、いつだって準サンの優先順位の最高位は和サンで、だから土曜日もてっきりオレが煩く言わなければ準サンは和サンを誘うと思っていた。
そしたら案の定、準サンは少し面白く無さそうに唇を尖らせてこう言った。
「オーバーワークになるから止めろって言われた」
やっぱり彼の中の対人関係のピラミッドの頂点は揺らいでなんかいなかったと再確認したオレは、大してショックも受けなかったけれど一応呻いておいた。
「・・・とりあえずは、先に和サンだったんすね」
慣れてはいても、少しだけ悲しいことは事実だったから。そうすれば準サンの、黒い瞳の中にホンの少しだけバツの悪そうな表情が浮かぶことを知っているから。
「文句あんのか、てめぇ」
口調だけは素っ気無く尊大なまま、でも目元が少しだけ紅い準サンの、そういうところが好きだと思う。
「無いデス」
オレの機嫌が少し下降したからって簡単に謝ったり露骨に罪悪感に歪んだりしない、身勝手な強さも好きだから。
「で、遊ぶの、遊ばないの」
どっちでもいいけどと続きそうなその口調で、でもその続きが出て来ないことが、嬉しい。
和サンが先でも、その後がオレだから。
「遊びます、遊んで下さい」
準サンにとって和サンがどれだけ特別か知っているから、そのすぐ後ろに持ってきてもらうことだけでも、結構嬉しいことだったりするんだ。
「最初からそう言え」
そう言って伸ばされた指が、今日もオレの髪を梳いていったことも、嬉しかった。
「うぃーす」
利準か利→準ぽいけど、準利ですよ!!(笑。