準利で喜怒哀楽+α




「んじゃ、オレここで」
店を出たところで軽く頭を下げたオレに、和サンが驚いた表情を向けた。
「え、帰るのか?」
いつもいつも、門限ギリギリまで遊んで帰りたくないと言うのがオレだから、和サンがびっくりするのも無理はないと思うけど。
「んー、うん、今日はねぇ・・・」
この後カラオケに行っても買い物に行っても、多分楽しくないと思う。でもオレがそんなんだったら、多分準サンも和サンも気にするだろうし。
普段は何も考えてないみたいに言われるオレだけど、これでも一応、色々考えてるんだ。かといってもっともらしい理由付けもできないオレは、どう誤魔化そうかと迷ってしまう。
すると、和サンの隣で準サンが何か不機嫌そうに腕を組んでいた。
「用事でもあんのか」
「ん?んーん、別にィ・・・」
準サンが腕を組んでる姿を見ると、なんかこう、ちゃんと言わなくちゃって気になる。刷り込みみたいなものなのかな、でもごめんなさい、今日は言えません。
「んーと、でもオレ、今日は帰る、よ」
言ったらだって、準サンは呆れるだろうし和サンは困るだろうから。
オレ、準サンも和サンも好きなのは本当で、できることならこんな自分でも馬鹿だと思う感情なんて口にしたくない。
そしたら準サンが、平坦な声で言った。
「ふーん、折角キャッチボールでもしようと思ってたのに」
オレはえ、と目を見開いた。
「どうせ、持ってきてんだろ?」
そう言って、準サンはオレの肩から下がっている鞄を指差す。
確かにそこには、財布のほかにはミットしか入ってない。いつもそうというわけじゃないけど、準サンとかと出かけると、偶にボールに触りたくなるから、今日は和サンもいるしもしかしてと思って朝突っ込んだんだ。
「帰んの?」
そう言って少し意地悪そうに笑う準サンに、オレは少しだけ感動した。
分かってるけどさ、別に準サンは深く考えてなんていないってさ。でも、なんか、もしかしたら少しだけ、和サンとばっかり喋って放って置いたオレを、気にしてくれてるのかって思った。
分かってるよ、オレの思い込みだって。でも、頬が熱くなった。
「・・・キャッチボール、する」
「んだよ、結局帰らないんじゃねぇか」
そう言った準サンに膝で軽く蹴られたけど、それは全然痛くなかった。
「じゃあ、公園行くか」
そして3人で歩いて公園まで移動して、結局門限ギリギリまで遊んでまだ遊びたいと言ってオレは和サンを困らせた。
やっぱり、和サンと準サンと野球するのは楽しい。ちゃんと九人揃って、する野球ならもっと楽しいんだよな。
そう思ったら、明日の部活が楽しみになった。


野球さえあれば、大抵のことは機嫌が直っちゃう利央とか、単純でいいなぁと。部活だって楽しいばかりじゃないでしょうけど、それでもやりたいなぁと思っちゃうのが好きなことだと思うので。


8月31日