シゲ&水野魔法使いパラレル 前


 とある世界には魔法というものがも当たり前に存在していて、そこの世界の子供たちは当然の如く学校でそれを学んでいるわけであるが、ここ桜森学園もそんな学園のひとつである。
 そんな、十歳から十六歳までの義務教育にあたる六学年の子供たちが学ぶこの学園には、一人の有名人が存在する。
 容姿は秀麗、頭脳は明晰、どのような事態でも冷静さを失わず、魔法の能力は四学年にして既に卒業生をも凌ぐと言われ、故に教師からの信頼も生徒たちからの羨望も一手に引き付けるその少年。
 名を、水野竜也という。
「水野、この間の眠らせ薬の実験レポートは素晴らしかったぞ」
「水野君、今日の火炎魔法の実技はお手本をまた頼むよ」
「悪いんだけど水野君、今度低学年の子に変身術基礎の補習をしてくれないかな」
 朝寮を出て登校すれば教室に辿り着くまでに最低教師三人には呼び止められ、誉められたり頼まれごとを承ったりする。そんな時でも水野は決して嫌な顔一つせず、目尻の下がった瞳を柔和に綻ばせて薄い唇に緩やかな弧を描く。
「はい、先生。喜んでお役に立たせて頂きますので、いつでもお声をかけて下さい」
 さらりと揺れる茶色い髪が病的では無いにしろ白い肌を滑らかに浮き立たせ、暖かな陽光がその色を引き立たせる。
 かといって、そんな教師からの絶対の信頼を鼻にかけた少年かといえばそうではなく、水野が教室に入ればそれに気付いたクラスメイトたちが次々と挨拶を投げかけてくる。
「おはよう、水野」
「はよー、水野君」
「はよ。なあなぁ水野、今日の数字学の宿題見せてくれない?難しくてさ」
 一人ひとりに律儀に挨拶を返す水野に一人の少年が近づいて拝むように手を合わせると、水野は席に重たい鞄を下ろしながら苦笑した。
「おはよう、高井。またか?」
 高井は特徴的な大振りの鼻を隠すような位置で手を合わせながら、頼むともう一度哀れっぽく懇願した。
 すると、元々それにあやかろうとしていた生徒は少なくなかった様で、すぐに高井の背後で他数人が同じ様に手を合わせた。
 その様子に呆れた様に嘆息しながら、水野は鞄の金具を外す。そして中から薄い紫色の指定のノートを取り出して、肩に掲げてみせる。
 それがペラペラと揺れる様子にクラスメイトたちはおぉ・・と感嘆の声を上げたが、水野はにっこりと笑って空いた片手を前に突き出した。
「俺が苦労して書いたものをただで見せるわけにはいかない。ノート見せな、少しでもやってある奴には虹の粉一袋で見せてやるよ」
 最近生徒たちの間で流行っているお菓子は、一袋の値段も大した額ではない。その上、水野がクラスメイトたちのことを思って、ノートを見せろと言うのは最早分かりきった事だったので、水野に向かって手を合わせていたクラスメイトたちは一斉に自分の机に走った。
「サンキュー、水野!」
「助かったー、俺、今日当たるんだよ」
「後で私が分からなかったとこ、説明お願いしていい!?」
「あ、おい、ちょっと詰めろよ!見えないだろ!」
 ノートを次々と水野の机に乗せたクラスメイトたちは、早速隣の机の上にノートを乗せてそれを覗き込もうと必死になっている。しかし人数が結構な数になったので輪に混ざりきれない生徒もいて、狭い机にまるで折り重なるようにして生徒が群がる形になった。
「おまえらなぁ・・・」
 ぎゃーぎゃーと押し合いを始めたクラスメイトたちの様子に水野は一つ嘆息して、左の人差し指をその人だかりに向けたかと思うとそれをくいっと上向きに翻す。生徒の間から小さな声が上がって、その後水野の薄紫のノートがフヨフヨと不安定に左右に揺れながら天井に向かって浮いた。
「仕方無ぇなぁ、本当に・・」
 そのまま指をくるりと回転させると、まるで糸でも繋がっているかのようにノートも回転して開いたページを黒板に向けた。
 そして水野は指をそのままにして席を立ち、ノートの背もたれをポンと軽く指で叩いてやる。すると、ノートはまるで映写機に変わったかのようにページに書かれたことを黒板に大きく映し出した。
「すごーーい!」
「水野、愛してる!」
 争う必要も無くなったクラスメイトたちは一斉に机にノートを広げ、自分が解けなかった問題を写し始める。時折ページをめくりながら一心不乱に宿題を片付け始めた彼らを一瞥して、水野は仕方ないなと言う様に肩をすくめて席に戻った。
「さすがだね、上級学年魔法もお手の物?」
 ふいに射した影に顔を上げると、そこには常に彼と学年主席を争う少年がいた。


ハウルとハリポタの影響かなぁ・・。




(初出2005,1,8/再録2005,5,21)