初めて見たその涙に、銀時は動揺してしまった。 「し、んぱち?」 泣くのを見るのは、これが初めてじゃない。侍だ男だと豪語する割に、この子供は涙もろいのだ。感動しては泣き、悔しがっては泣き、時には怒りが過ぎても涙を流す。 しかし、こんなに静かに涙を流す新八を見るのは初めてだった。 閉ざされた瞼から、あふれ出す雫。 聞こえてくるのは嗚咽ではなく、寝息。 銀時が仕事探しも兼ねての散歩に出て帰って来たら、洗濯物を畳み途中の新八が和室で居眠りをしていた。日々細々と万事屋の家事をこなしてくれているその眠りを妨げるのは忍びなくて、銀時はそっと襖を閉めようとした。しかしその時、彼が握り締めたまま突っ伏しているのが自分の着流しだと気付き、いくら助手でも涎を垂らされては堪らないと(結局それだって洗うのは新八なのだが)、それだけそっと抜いてしまおうと和室へ踏み込んだ。 そして、覗き込んだ新八の頬に涎は垂れていなかったが、涙が流れているのを見たのだ。 「しんぱち?」 そっと呼ぶが、応えはない。ただ頬を伝う涙が、心配したとおり銀時の着流しを濡らしていた。 だが銀時にそれを厭う気は毛頭起こらなかった。ただ声も無く、ハラハラと涙を流し続ける新八を、哀れに思った。 「ガキが、きつい泣き方してんじゃねぇよ」 泣くのなら、いつものようにズビズビと洟を垂らして派手に泣けばいいのに。そうしたら、ひねくれた性格上真っ直ぐに慰めてやることはできないだろうが、からかうなりその場を誤魔化すなりして、気を紛らわせてやることだってできるのに。 「なあ、お前の駄眼鏡っぷりはもうよく知ってるんだぜ?今更俺に見られて恥かしい事なんて何もねぇんだからさ。こんな風に・・」 言いながら、銀時は当初の目的どおり着流しを新八の手から抜き取ろうとする。まるでそれに縋るように握り締めて離さない新八のまだ細く頼りない指に、銀時はそっと片手を重ねた。 「俺の知らないところで、知らない理由で泣いてんじゃねぇよ」 少しその指を撫でてやると、俄かに新八の指先から力が抜けていく。そして、銀時の指に気付いたのか着流しから手を離して今度はそれを握り込んでくる。 「新八、何の夢を、見てるんだ?」 じわりと、指先に生温い水が染みてくるのを銀時は感じた。 |