家族と思ってくれていい。あの眼鏡はそう言ったけど、家族って何? いや、そりゃ俺だって木の股から生まれたわけじゃねぇし、母ちゃん的なもんがいなかったわけじゃねぇけどさ。 でも、家族っつったらあれじゃん?まず親父がいてお袋がいて、女と男の子どもが二人くらいいて、親父の稼ぎが大した額じゃなくてもお袋が遣り繰り上手で食卓は質素だけど旨いもんが並んでて、月に一度位は家族揃って外食とかしてんの。 そういうのが、まぁ日本の良き家族像だと思うわけだ。 で、良く考えろ。万事屋にはまず親父がいない、いや俺は違うぞ、断じて。まだ二十代だし、結婚だってしてねぇ。そうだ、だからここにはお袋となるべき女もいねぇ。 かろうじて神楽と新八でガキ二人は揃ってっけど、ついでにいやぁ可愛くは無いが犬もいるけど。 このメンバーで構成できる家族ってのはなんだ?三兄妹ってとこか?でもなぁ、神楽も新八も、妹とか弟って感じじゃねぇんだよな。本当に弟妹がいたわけじゃねぇから、どんな感じかもわかんねぇけどよ。 「あ、銀さん、また無意識に糖分摂取を図ろうとしてる!」 「あ?あぁ〜、ちげーよこれはあれだ、俺の手がまるで吸い寄せられるようにこの板チョコにだな、ていうか、寧ろチョコが俺を呼んでてぇみたいなぁ」 「キモイ口調やめてください」 そう言って新八が、俺が無意識に手にしていた板チョコを棚に戻す。 今日は昼間に仕事が入ったので、夕方万事屋揃ってスーパーに寄ったんだった。 「キモイってなんだコノヤロー、社長に向かってどの口たたいてんだこのヒラが」 「社長なら財政管理くらいしてくださいよ、誰がこの零細会社遣り繰りしてると思ってんだ。あ、神楽ちゃん酢昆布は二個までだよ、今日はお肉買うんだから」 俺と同じ様におやつに手を伸ばしていた神楽を、新八が諌める。 ていうか、こら。俺は全面禁止で神楽は少量ならば許可って、どういうことだ。 「何不貞腐れてんですか、アンタは仕方無いでしょう。昨日桂さんに団子奢ってもらってたの知ってますもん」 「ゲッ、なんで知ってんの」 「偶々見かけたんです、だから今日はおやつなし。二日に一遍ですよ、医者に止められてんだから」 うーるせーなー。こいつ、本当に何でこんなにうるさいんだろう。家族と思えって、こういう意味?頼んでもねぇのに家計管理みてえのもしてくれちゃって、人の健康まで気をつけて、ちょっと実入りが良かった日には心持ち豪華な飯作って・・・。 て、あれ? 「新八、そんなに銀ちゃんのコト心配してたら、嫁さんみたいアル。銀ちゃんますます本当の結婚から遠ざかるネ」 「変なこと言わないでよ、神楽ちゃん。僕だって銀さんにイイ人がいれば、こんなことまで面倒見ないよ。て、そんなことより、神楽ちゃん食べ歩きはダメだってば、行儀悪いよ」 「うるせーよ、お前私のマミーかよ」 「こんな子、持った覚えも育てた覚えもありません」 「こんな子ってなんだヨ、私だってこんな眼鏡のマミー嫌だヨ」 「全世界の眼鏡をかけたお母さんに謝れ!」 コロコロと犬の様にじゃれ合ってる二人を尻目に、俺はちょっととんでもない事に気付いてしまった。 おいおいおい、これっておかしくね? 親父の稼ぎが大した額じゃなくてもお袋が遣り繰り上手で食卓は質素だけど旨いもんが並んでて、月に一度位は家族揃って外食とかしてんのが日本の良き家族像だと思うわけだけど、それってなんか、こう、今のオレタチ?みたいな? 新八は掃除洗濯炊事、殆ど今じゃこなしてるし、神楽は遊びまわりつつも時々家事の手伝いみてぇなこともしてるし、そんで俺はといえば、一応社長として仕事を取ってきたり稼いできたりしてるわけで・・・。 え、ちょ、これって、なんかこう・・・。 「新八ぃ」 「なんですか?」 「ちょっとさ、お前マジで嫁に来い」 「目ェ開けながら夢見てんじゃねぇこの天パ」 あんだよ、家族と思えっつったのお前じゃねぇの。だからこの際、日本の良き家族像ってのを作るのも悪くねぇかなと思ったんだよ。 だってなんか、だらけた親父としっかりもののお袋と、小うるさいガキとペットと、揃いそうなんだもん。 |