【銀新】セロリ。(2)
近藤勲の場合。

「浮気の定義?うーん、それはちょっと、難しいなぁ。人それぞれだとは思うんだが、俺の場合はあれだな、お妙さん以外をこの目に映してしまった時点で、もうそれは浮気だな!あ、お姉さんお茶おかわり!」
あんたそれ、今現在進行形で浮気中ですよ。
僕はそう思いつつ、自分の言葉に酔っているらしい近藤さんには言わなかった。何となく、こんな答えが返ってくるんじゃないかとは思ってたんだ。アプローチの手段はともかく、この人は一途に人を好きになるタイプだってのは、分ってるし。
銀さんとは、ある意味対極だ。感情を素直すぎるくらいに表に出せる、少し鬱陶しい位。
銀さんの、どうでもいい事ばっかり大袈裟に騒ぎ立てる鬱陶しさとは、またちょっと違う。
「近藤さんは一途ですねぃ。俺だったら一つ寝の一回や二回は、男の甲斐性と思いやすけどねぃ」
今日は土方さんじゃなくて、近藤さんと見回りらしい沖田さんが、隣から近藤さんの皿の団子に手を伸ばしながら口を挟んできた。

沖田総吾の場合。

「え、それって浮気って言うか最早二股とか、そんなレベルじゃないんですか」
一つ寝の一回や二回って、それもう浮気っていうか完全に気持ちが移ってるよね!
全く理解できないって気持ちが顔に出てたんだろう、沖田さんは串を左右に振って、リズミカルにちっちっち、と三回舌打ちをした。
「気持ちなんざ伴わなくても、一つ寝くらいできるのが、人間てもんでさぁ。大体、浮気って言葉は本命がいてこその言葉だろうがぃ。だったら、身体だけいくらフラフラしてたって最後には自分のトコに戻ってくるんだって、本命はどーんと構えてりゃいいんじゃねぇですかい」
「総吾ぉ!お前そんな年でそんな割り切った恋愛してどーするんだぁ・・・
!」
純情ゴリラ、じゃなかった、近藤さんが目に涙を溜めて沖田さんに恋愛と言うものは!と熱弁を振るい始めた。
僕と沖田さんの年はそう変わらないはずなのに、周りが年上だらけの沖田さんの環境のせいなのか、時々十は年上の人の様に思える。
「恋愛ねぇ・・・・そんなもん、どんな味がすんのかも忘れちまいやしたねぇ。芋侍には縁の無い話でさぁ」
串を皿に放り投げて、沖田さんは大口を開けて欠伸をする。
黙っていればもてそうな顔をしてるのに、今一この人に浮いた話しが無いのはやっぱりドSな性格のせいだろうなぁ。
沖田さんのクールな言い分は、彼の性格を考えればとても納得してしまう。でも、それとは別に僕はちょっと心配になってしまった。
「沖田さんらしいですけど、でも僕、浮気性の男に神楽ちゃんを任せる気は無いですからね。高給取りだし強いし、条件としては充分ですけど」
ともかく、ここでは余り収穫は無さそうだ。
僕は近藤さんに強く揺さぶられつつも、目を丸くしてこちらを見上げてくる沖田さんを無視して、その場を後にした。
そして数メートル進んだところで、いきなり呼び止められる。
「もしそこの少年、何かお困りのようじゃの。宜しければこの経験豊富な易者が」
「・・・・・何してるんですか、桂さん・・・」
「桂じゃない、易者だ」
そこには、怪しさ満点の鼻眼鏡をした桂さんがいた。