【銀新】セロリ(3) 桂(易者)の場合。 「ふむ、浮気の定義か」 「はぁ」 呼び止められてそのまま通り過ぎることもできず、僕は結局易者に扮した桂さんの目の前に座ってしまった。すぐ近くに近藤さんも沖田さんもいるのに大丈夫なのかと思ったけど、この人呼び込みのバイトとかもしてるしな。大丈夫なんだろうな。 「まぁ一般的には、他所の女とチョメチョメしたらもう浮気なんだろうがな」 「チョメチョメってなんですか、その表現の方が恥かしいです」 銀さんと同じ位の年だと思うのに、桂さんの言葉には時々意味不明の言葉が混じる。とりあえず、今は一々ツッコを入れている場合じゃない。 「ともかく、桂さん個人的な話を窺いたいんです」 「桂じゃない、易者だ」 「どっちでもいいよ、もう」 このやり取りを挟まないと話しができないんだから、面倒くさい。今の僕にはあんまり余裕が無いんだから。 「俺個人と言われると・・・。気持ちと肉体は切り離して考えてしまうからな」 「他所の女の人とイチャついても、浮気じゃないんですか?やっぱり、気持ちが無くてもそういうコトってできちゃいますか」 「いや、少し意味が違うのだが」 易者の付け髭を一撫でして、桂さんは一つ咳払いをする。 「惚れた腫れたという年を戦場で過ごしたせいか、いつ死ぬか分からぬ身ではおいそれと思いは告げられず、だからこそ本当の想い人は胸に秘めたままで、肉体的な問題は切り離して処理していたという者が、殆どだったからな。もしくは、明日死ぬともしれぬ身で、この身だけでも結ばれたいと思い詰めた相手を慮って、こちらの気持ちは伴わぬままで関係を持ったことも、ある」 桂さんの言葉は、それを経験してきただけの重みがあった。確かに、戦場ではのんびり好いた惚れた、浮気だ二股などと騒いでる暇なんか、無かっただろう。きっと、その日その日で精一杯だった。 「そう、ですよね・・・・」 きっと、銀さんも同じ様な日々を過ごしていたんだろう。別に、僕以外の誰かと関係を持った持たないなんて事に、腹は立たない。そこまで子どもではない。だけど。 「じゃあ、銀さんもそうなんですかね・・」 もしかして、あの人が僕に応えてくれたのは、桂さんが今言ったように、思い詰めた相手を慮って・・・・てコトだったんじゃないのかな。 「うん?銀時?」 「いえ、良いんです。お邪魔しました」 もしそうだったら、僕は今まで自分は銀さんの恋人になれたんだと思い込んでいたけど、違ったんじゃないかな。 うわ、とんだ赤っ恥だ。 急に、くすぶっていた怒りが羞恥に変わって、僕はそそくさと席を立った。 桂さんが背後で何かブツブツ呟いていたけど、そんなものに付き合っている暇は無い。 どうしよう、もしかして浮気されたなんて考えこそ、僕の勝手な言い分だったんじゃないかな。銀さんにとっては、僕は浮気も何もそんな事を言う資格の無い存在なんじゃないかな。 「おい、そこの泣きそうな眼鏡」 鼻の奥がツンとして、乱暴に擦っていた僕に、後ろから声がかけられた。 「え?あ、土方さん」 ホント、何でこの人たちこんなに桂さんの周りをいつもウロウロしてるのに、捕まえられない以前に気付かないんだろう。 |