【銀新】セロリ(4)
土方十四郎の場合。

「土方さん」
呼び止められてまた足を止めた僕を、いつもどおり瞳孔開き気味の目で土方さんが見下ろしてくる。
「沖田の野郎見なかったか」
「あ、さっきあっちで近藤さんと」
「そうか」
一緒でしたと言う前に、土方さんは納得してしまったらしく短くなった煙草を携帯灰皿に押し付けて、新しい一本を取り出した。
「で、お前は何シケた顔して歩いてんだ?」
「沖田さんは良いんですか?」
てっきりそのまま沖田さんの元へ斬り込んで行くものと思っていたのに、落ち着いて煙を吐き出した土方さんにびっくりする。
「近藤さんが一緒なら、問題ねぇよ。で?」
で?と言われても・・・。あ、でもこの人がある意味銀さんに一番近い気もするな、本人達は凄く嫌がってるけどこの人たちはよく似てる。
「えーと、今街角アンケート的なものを取ってまして・・」
「よっぽど仕事がねぇのか、お前のトコは」
うわ、凄い哀れむ目をされた。
「いえ、個人的なものです・・・。あの、土方さんは浮気ってどこからだと思いますか?」
「あぁ?」
いきなりの質問に、土方さんの眉間に盛大に皺が寄る。不思議に思っただけなんだろうけど、最高に凶悪な表情になってる。これ、僕が警察に捕まってる図に見えるんじゃないだろうか。
「浮気ねぇ・・・。また小難しいことを聞いてんな。あの白髪が浮気でもしたか」
「はぁ!?」
何で!?この人何言っちゃってんの!
「あぁ?おめーらそういう仲なんだろ?あの白髪、何を勘違いしてんだかやったら俺を牽制してきやがるし、うぜぇんだよ。つーか、あいつが浮気したんなら叩き斬れ、簀巻きにして川へ投げ込め、身元不明死体で処理してやる」
「え、え、え、いや、浮気なのかどう、か・・・」
流れで銀さんとそういう関係だって認めちゃったけど、これってどこまでばれてんだろ・・。姉上に知られたら、殺される!
「んなもん、てめぇが浮気だと思ったら浮気なんだよ。そういうもんだろ。彼氏が女と二人で遊びに行っても平気な奴もいりゃあ、連絡先聞くだけでも嫌って奴もいらぁ。その辺の他人に聞いて、どうすんだよ」
う・・・・ごもっとも。
そうなんだ、本当は分かってるんだ。こんなの誰に聞いたって、答えなんか出ないって。だって、僕は、嫌なんだ。銀さんが、酔っ払っているからって僕がいる場で女の人に抱きつくのが。銀さんが本気で気移りしてるかどうかなんかじゃなくて、ただ気分が悪いんだ。
「怖ぇのは分かる、自分とそいつとの価値基準が違って喧嘩になっちまったらとか、考えちまうんだろう。けどな、そこを真っ直ぐ突っ込んでいかねぇでどうすんだよ、お前侍だろうが。逃げてんじゃねーよ」
にしてもあいつが相手かと思うと、どーでも良くなってくるな。
そんな事を言いながらも、土方さんはちゃんと応えてくれた。あぁ、前言撤回、銀さんとなんか全然似てない。子どもっぽかったり依存するものがあるところは似てるけど、土方さんの方がずっと誠実なんじゃないかなぁ。
「そ、ですね。はい、ぶつかってみます」
「ったく、将来あるガキをたぶらかしてなぁ。てめぇら、まさか最後までいってねぇだろうな?てめぇまだ16だろ?淫行罪ってのがあんだからな?」
「はっはい!」
それって何歳から良いんだっけと焦りつつ、最後も何も一通りとは言えなかった。
「まぁいい、愛想が尽きたら真撰組に来いや。中々鍛え甲斐ありそうだからな」
そう言って、土方さんが乱暴に僕の頭をガシガシ掻き混ぜた。
「うわ、ありがとうございま・・・」
「はーいそこのセクハラ警官、今すぐソノ手を離しなっさーい、よっと」
ドゴォン!
「うわぁ!銀さん!?」
「あぁ!?てめぇこの、白髪ァ!」
やる気の無い台詞と共に、見慣れた木刀がアスファルトにめり込んだ。