2 寂しがり / シゲ水 「プライドなんて捨ててみせろ」 F


 ベッドに腹這いに寝転んだまま、携帯を手に取る。パカ、と片手で開けてアドレス帳を開く。「サ行」を選択して画面を凝視し、諦めたように嘆息して初期画面に戻して携帯を閉じる。
 そのまま携帯を持った手をだらりとベッドの下に降ろして、重力を感じながらブラブラ揺らしてみる。そうして床板の木目をぼんやりと視線でなぞりながら、そう言えば名字を変えてないなと改めて思う。
 再び腕を持ち上げて仰向けになり、またアドレス帳を開くまでの手順を繰り返す。「サ行」の知り合いがずらりと並んでいるが、どうしてもその人物のところを選択できない。
 そのままその人物をスルーして、違う人間のアドレスを呼び出してみる。メールの宛先に記入してみるけれど、当然用事なんて思い浮かばなくて、件名を空欄にしたまま下らないことを聞くメールを送ってみる。
『なあ、終業式いつ?』
 送りたい文章はそのままに、送るべき相手を変えたそのメールは滞りなく送信され、程なくして返信がくる。
 日付だけを記入したそっけない画面は下の方へ大分行が空けられているらしくて、ボタンで下の方へ画面を移す。
「・・・あーーー・・・」
 そして最後に記入されていた一文に、脱力して携帯を持った手で顔を覆った。
『金髪に送り間違えてんじゃないの』
 見透かされる自信なんて、あったに決まっている。あの見た目だけは可愛らしい一つ上のDFに、気付かれないわけが無いのだ。
『ごめん』
 何と返していいものやら分からず、それだけを記入してまた送る。すると今度はメールよりも長い振動が指に伝わってくる。それが着信を知らせるものであることに気付いて、慌てて通話ボタンを押す。電話の主は、メールの相手。
「もしもし」
『お前ね、くだらないことしてないでさっさと連絡すれば?』
 開口一番痛い所を突かれて言葉に詰まる。その隙を縫って、彼お得意のマシンガントークが展開された。
『何で俺が大して親しくも無いお前に、終業式の日を確認されるんだっての。金髪に送りたくて送れなかったのがバレバレなんだけど。そんなヘタレの相手をさせられて俺物凄く機嫌悪いんだよね、すればいいだろ、うじうじしてないで。メールするなと言われたわけじゃあるまいし、どうせお前のことだから”俺からするなんて寂しいって言ってるみたいで悔しい”とか言うくっだらない理由なんだろうけどね』
 図星なので何も言い返せずにいると、電話の向こうで盛大に溜息を吐かれた。
『あのな、お前いくつだよ。そんでもって金髪とどれぐらいの付き合いになるわけ?いい加減、下手なプライド捨てれば?持ってても無駄なプライドは、ほんっとうに迷惑なんだよね』
 心底呆れたという口調でまくしたてる相手に、もうこちらはひたすら恐縮するしかない。
「ごめん・・・」
『あ、柾輝風呂から上がってきたから、切るぞ。・・ったく、メンタルもう少し鍛えろよな。試合でも未だに出てるじゃねぇか・・あぁ、今入る・・。じゃな、もう下らないことしてくんなよ』
 溜息と共にそう告げられ通話が切られる直前に、呟いた。
「ありがとう」
 相手に聞こえたかどうか分からないまま通話は切れ、知らず緊張していたらしい身体から大きな溜息が漏れる。そして、言われた通りにもう下手な医事を張るのは止めようと決心し、また身体に力が篭もる。
 今度こそアドレス帳から誤魔化さずに選択し、件名入れずに本文だけ記入する。今さっき送られてきたメールを真似をして。
『なあ、終業式いつ?』
 そのはるか下に一行だけ。




『寂しい』




 無事に送信されたことだけを確認すると、結局アドレス帳の名字を変える事はやめて携帯を放り出した。
 そのまま枕に顔を埋め、返信が早く来ることを願い、着信はどうかありませんようにと願ったのは、やはり捨てきれないプライドだろうか。










 人名を極限まで出さないでいこう、と何か拘ってみました。(何で。最低限確定できるようちょろっと出演させてる人も居ますけど。
 電話のお相手「大して親しくも無い」とか言ってますけど、個人的には先輩風を吹かして何だかんだと突っ込んでてくれると嬉しいなぁ。
 これはお持ち帰り可です。