5 困ったなぁ / ヒムアリ 「存在理由」 F


 インターホンを鳴らす。十秒ほど待っても中からは何の音も聞こえてこない。
(また寝てやがるのか)
 小さく溜息を漏らしながらもう一度鳴らしてみようと腕を持ち上げると、中からゴトゴトと微かに音がして火村は上げかけた腕を下ろした。
「あー、火村ー・・?」
 ガチャリという音さえも気だるげに聞こえそうな位疲れ切った表情で、アリスが玄関を開けた。
 火村は、アリスを押しのけるようにして玄関に入り靴を脱ぐ。勝手に奥まで上がっていく火村を咎めることはせずに、アリスはのろのろと玄関の扉を閉めた。
「悪いんやけど、も少し寝かしてくれ。今朝原稿上がったばっかりなんや」
 髪もぼさぼさでヒゲは伸びっぱなし、加えて顔色も良くないアリスは大きな欠伸をしながら、ソファにどさっと倒れこんだ。
「本物のアリスに申し訳なくなる様な格好だな」
 ソファの脇に立って疲弊したアリスを見下ろして、火村は嘆息と共に呟いた。幸いアリスはその暴言が耳に届いていなかったのか、早くも寝息を立てそうになっている。
「アリス、寝るならベッドに行って寝ろよ」
「んーー・・・」
 ベッドで寝た方がゆっくり伸び伸び眠れるに決まっているし、仮眠ではないのだからその方がいい筈なので、火村は軽くアリスの肩を揺するがアリスは嫌がるように眉をしかめた。
「ここでええって・・。君、ここに居るんやろ・・・?」
 火村がアリスの家に来たのはもう両手の指でも足りないくらいの回数になるが、大抵はこのリビング兼ダイニングに居る。それ以外に居る場所が無いからだ。アリスのベッドルームに居る事も無い訳ではないが、それは少々状況の違う時だ。
「まぁ、そうだけどな」
「せやったら、ここがええ」
 言いながら本格的に瞳を閉じてしまったアリスの寝顔を、火村は思わずまじまじと見つめた。そしてアリスの言葉の意味を胸中で反芻してみる。
「あのなぁ・・・・」
 髪はぼさぼさ、ヒゲは伸びっぱなしで顔色も最悪。それでも原稿から開放されたのがよほど嬉しいのか、アリスの寝顔は穏かだ。
 火村はアリスの髪を乱暴に掻き混ぜて、ソファを背もたれにして座り込んだ。背広の内ポケットから煙草を取り出して、咥えてから火をつける。
 そして深く吸い込んで大きく紫煙を吐き出しながら、背後から聞こえてくる気持ち良さそうな寝息と肩に触れたアリスの体温に、火村は苦笑いを禁じえない。
 こんなボロボロの状態の男をこうも愛しいと思える自分はもう末期だなと、学生時代から何度繰り返したか分からない諦めの溜息を漏らした。
 彼が目覚めたら、好きなものでも作ってやろう。そう思って、火村は主に自分のために用意されている灰皿に煙草の灰を落とした。










 えーと、折角なので自分が書けるCPは書いてみようと持ってます。一応ヒムアリもジャンルに掲げてるし(停滞具合にも程があるが。
 おっさん同士は、結構書いてて楽しいです(え。
 お持ち帰り可ですが、どなたか持って帰ってくれるのかしら・・・。