9 傍にいて / シゲ水 「熱帯夜」 F


 竜也は息苦しさを感じて目を覚ました。暫くじっと息を殺して目を凝らしていると、目の前の闇の中に人間の背中のシルエットが浮かび上がる。それは中学時代からよく知った相手だと認識して、竜也は知らず詰めていた息を吐き出した。
 嫌な夢を見た。
 隣の男を起こさないように注意して身体を起こすと、首に襟足の髪がべったりくっついているのに気付いて、眉をしかめながら手の平で汗を拭う。
 もう夏も終わりそうな季節だというのに、この気温は何だろう。隣に人が寝ているせいでその温度は更に増しているのだとは思うが、もう一緒に寝ても熱くない時期かと油断したのだ。
「ん・・・?」
 小さく息を漏らして、隣の男が寝返りを打って竜也の方を向いた。
 起こしてしまったかと焦って見下ろせば、暗闇に慣れた目に男の瞼が開かれているのが見て取れた。
「悪い、起こした?」
「いや・・なしたん?」
 当然だがまだ半分眠っているような声を出しながら、シゲは緩慢な動きで竜也の方に腕を伸ばしてくる。その手が上体を起こした竜也の膝に乗せられて、竜也は何でもないよと囁いた。
「ちょっと、嫌な夢見ただけ」
 そう言うと、シゲは眠りに戻ろうとはせずに欠伸を噛み殺した。
「どんなん?」
 二人で抱きあった後にシャワーを浴びて汗を流した筈のなのに、竜也のパジャマは汗で濡れてそれが更に冷たくなってきていた。
「ん・・何か、女の子がただずーっと鞠ついてんの。周りが上水中でさ、高井とかが一緒にやってた。言うと下らないけど、何か不気味だったな・・・」
 苦笑した竜也に夢とはそういうものだろうとシゲも笑って、竜也と同じ様に身体を起こす。
「水、持ってきてやろか?」
 シゲの目も慣れて、竜也が酷く汗を掻いている事に気付いたのだろう。そう言って立ち上がろうとするシゲを竜也は思わず引き止めた。
「いらない」
「せやけど、ごっつ汗かいてんで?」
 水分摂った方がええやろ?と宥めるように静かに言うシゲに、竜也はとてもくすぐったい気持ちになる。中学、高校、プロサッカーと二人の所属する社会が変わるにつれて、この男は自分に甘くなっていくなと竜也は汗で張り付いた前髪を掻き上げてくれる優しい男を見つめた。
「いらない、側に居てくれればいいよ」
 この男の優しい指と目が、暗闇の中で唯一縋れるものだと思った。
「そう?」
 シゲはそれ以上何も言わず、壁に背を凭れ掛けて竜也の隣に腰を下ろした。
 竜也も同じ様に壁に背を預けて座ると、シゲの肩と二の腕が竜也のそれらに触れた。確かに感じる他人の熱い体温に、竜也は無言で壁にかかっているシゲの上着を見つめていた。シゲも何も言わず、そこに居た。
 そして、どちらからともなく寝息が漏れ始めその部屋に朝日が満ちるまで、二人は身体の片側で独りではない夜を過ごした。
 









 シゲ水、一応大人ヴァージョン。シゲも竜也も素直に甘々でいってみましたvでも余りにも素直だと可愛さが何だか浮き立ちませんね、やはり意地っ張りな子が偶に素直な方が可愛い気がします、中学の竜也とかね(サド気質か?
 お持ち帰り可です。
 あぁ、やっとここまできた・・・・。