文化祭も終了して数日、学園はあっという間に日常を取り戻していた。野球部の遅刻者は以前同様ほぼゼロになり、利央のダンス練習も終了した。 しかし利央の方は、まだ通常営業再開というわけにはいかなかった。 文化祭一日目、教室で最後までとはいかないとはいえ抱き合ってしまった利央は、その後まんまと準太にお持ち帰りされ、最後までいただかれてしまったのだ。 その上準太がどう双方の親を丸め込んだのか、その後の一般開放二日間は準太の家から通う羽目になってしまい、当然その間、夜は準太の好き放題にされた。 文化祭自体は盛況に終わったし特に問題も発生しなかったが、利央の下半身には少々被害が残った。 部活が通常通りに再開してからはさすがに通常の生活を取り戻した利央だが、それでも身体の方はまだそれに追いついてはいない。 「あー・・・腰が痛い・・・」 屋上で腰をさすりながらパックの牛乳を啜り、利央はコンクリートに視線を落として呟いた。 「まだ言ってんのかよ、情けねぇな」 向かい合ってコンクリートの上に胡坐をかいた準太が、まるで他人事のように言い捨てる。利央はその言葉にパックを握り潰し、半眼になって準太を睨み付ける。 「あのねぇ、誰のせいさ!」 「お前の体力の無さ」 しれっと言い放った準太は不満そうに眉根を寄せた利央を面白そうに眺めたが、しかしその表情は彼の背後に迫ってきた人影にすぐに引っ込められる。 「酷い男だなー、利央」 頭上から突然声をかけられて、ストローを噛みながら利央は首だけを仰向けた。 「棗、お前も昼?」 文化祭初日、利央を襲いかけて準太に一掃された彼は、それでもその後変わりなく利央と硬い友情を結んでいた。 「いや、俺はもう終わった。利央がここにいるって聞いたから」 そう言って準太に一言も断り無く利央の隣に腰を下ろした棗に、準太は手にしていた空の弁当箱の蓋を乱暴に閉めた。 「お前、よくそういうことが言えるな」 利央のことは諦める、せめて友人ではいたいからと改めて彼が準太に言ったのは、文化祭終了日だ。準太も利央の友人関係にまで口を挟む気は無かったし、利央が棗が自分をどう見ていたかを自覚しただろうから、うかつなことはしなくなるだろうと思った準太は、それについて黙認することにした。 ところが、だ。 「何がですか?俺と利央は親友ですよ、大好きな友達と一緒にいたいのは当たり前じゃないですか」 棗は、友情という名目で前以上に利央に接近するようになった。 「お前、単なる友達が大好きとか言って、気持ち悪いと思わねぇのか?」 「全然、俺は正直に言ってるだけですから」 面と向かってライバル宣言をされるよりも、性質が悪いと準太は胸中で舌打ちをする。友達だと言われてしまえば、準太にはそこまで利央を束縛する権利は無いし、そこまで狭量な男にはなりたくない。 端から見て棗が利央を友情以上に見ていることは確かだったが、彼が”友情だ”と言い張り、また利央がそれを信じている以上、準太には嘴を挟む権利は無い。 そう、告白までされて襲われかけた利央本人が、棗は自分の想いに諦めを付けてまた友人のポジションを取ったのだと、信じて疑わないところが準太の頭痛の種にもなっている。 「利央、てめえいつまでその馬鹿に付きまとわれてんだよ」 人の気持ちがそんなに簡単に切り替わるかと、考えの浅い後輩を詰る様に睨め付けると、利央は噛み潰したストローを口から出してパックを丁寧に畳みながらきょとんと準太を見やった。 「付きまとわれてるって、何さ?」 放課後の練習後はさすがに無くなったが、朝練の後やこんな風に共に昼食を摂っている時、それは準太と利央の二人だけの時もあったし野球部員の何人かの時もあったが、どちらもほとんど必ず棗はそこに現れた。 「一歩間違えれば、ストーカーだぞストーカー」 勿論、利央が準太と二人でいる時の方が、棗の利央に対するスキンシップの度合いは高くなる。彼は利央が手に入らないと悟り、友人の立場を出来得る限り利用して準太へ嫌がらせをすることを決意したようだった。 利央や準太に対して危害を加えようとするよりは健全とは言えるが、それでも性質が悪い。 「何言ってんの?俺も棗も男だってぇ」 その男に告白されて襲われたのはつい数日前だろうがと、その暢気な頬を抓り上げてやりたくなった準太は、そうする前にひくりとこめかみに青筋を立てた。 「てめえの言う友達ってのは、真昼間からワイシャツに手ぇ突っ込む奴の事を言うのか?あぁ?」 いつの間にか利央に密着した棗が、その肩を抱きかかえるようにしながらワイシャツを捲り上げていた。 三人がいる場所は日陰になっていて、他に屋上で昼食を摂っている生徒達からは死角になっていたが、そうでなくても棗は多分人目を気にしなかっただろう。 「え?あれ?棗、何してんだよ」 「友達同士のスキンシップ?」 あくまでも友情と言い張る姿はいっそ潔いが、それでそうかと頷ける程準太はお人好しではない。 「そう?」 「うん、そう」 ただし、利央はその位のお人好しだが。 「こっの・・・!」 準太は今度こそ利央の頬に手を伸ばし、思い切りその柔らかい頬を容赦なく抓り上げた。 「ちったあ学習しろ、このドアホ!!!」 高く晴れ渡った青空に、準太のよく通る怒声が響き渡った。 待った無し問答無用のデッドヒートは、まだまだ続いていきそうだ。 end. よ・・・ようやく、終わっ・・・・た・・・・・・(バタリ。 一番可哀相なのが、何故かふられた棗ではなく準太だというのはどうなのか。いい加減、本気で準太ファンに怒られる。十万ヒットお礼なのに、お礼になっていない(爆。 カッコイイ準太ファンの方、申し訳ありません土下座。愛され利央が好きな館林としては、それはもう楽しかったです。て、自分の趣味だけじゃやっぱりお礼になってな・・(自爆。 半年近くかかってしまいまして、すみませんでした。気長なお付き合いありがとうございます、今後とも、こんな気紛れ運営ですがよろしくお願いいたします! |