慎吾はパックジュースのストローを噛みながら、目の前の後輩を呆れた顔で見ていた。 「オレだけぇ?知らなかったのってー、なんだぁー」 目の前の利央は拗ねた口調で言いながら購買で買った弁当をかき込んでいるが、正直言って慎吾の食欲は失せた。 昼休み、食堂で顔を合わせた後輩が聞いてくれと勢い込んで言うので、コンビニで何か面白い新製品でも見つけたのかと思った慎吾は、彼の口から飛び出した言葉にひたすら頭痛を覚えた。 『オレ、準サンと付き合ってたんだって。慎吾サン知ってた?』 性質の悪い冗談だと思ったのだが、話を聞いてみるとどうやらこの後輩、本気で今まで自分が準太と付き合っていることを知らなかったらしい。 「お前だけっていうか、お前が知らないことがおかしいと思うんだけどな?」 付き合っている当人が、付き合っていることを知らないという事態はどうやったら起こせるんだと、確か三年前に既に報告を済ませてきた準太に向かって慎吾は嘆息する。 「だってー、一言も言われてなかったもん」 それも凄い話だよなぁと、慎吾は目を遠くにやる。一言も言わずに三年間、どんな付き合いをしていたのかは余り考えたくないので置いておくとして、まぁでも、結果的には利央も自覚したことだし、良かったんだろうなぁと自分を納得させることにする。 「まぁ、あれだ。丸く収まって良かったな?」 「まぁねぇー」 全く熱意を感じられない間延びした答えを返す利央に、本当に良かったと思ってるのかと疑ってしまった慎吾だが、その疑問は口に出される前に飲み込まれた。 「利央、慎吾」 食堂の入り口から、他学生である和己と準太の姿が見えたからだ。和己は素早く慎吾と利央の姿を見つけて近付き、振り返った利央も和己を見た瞬間嬉しそうに頬を緩ませたが、その隣に準太がいることを認めると軽く瞠目した。 「和サン・・て、あれ、準サン。どしたの、珍しい」 確かに彼がこの大学まで足を運んだことは無くて、利央が目を見張るのも仕方無い。しかし準太は驚かれるのは不本意だというように眉を顰め、利央の隣に腰を下ろしながら低い声で悪いかと呻いた。 「悪いなんて言ってないじゃんか、どうしたのって聞いただけでしょー。なんかあったの?」 そうして見ている分には、前とは何も変わっていないように慎吾には見えたのだが、次に待ち受けていた展開に思わず我が目を疑って固まってしまった。 「別に、お前午後から無いんだろ?どっか行くかと思って」 利央はその言葉に一瞬ぽかんとして、けれど瞬く間にその顔には華の様な笑みが広がった。大学生にもなった男にそんな形容詞はどうかと頭の片隅で冷静にツッコんだ慎吾だが、それでも元々日本人離れした彫の深さである利央の満面の笑みには、思わず目を奪われる威力があることは事実だ。 「準サン、オレの講義覚えてんの?」 嬉しくて堪らないといった様子の利央に、準太は苦虫を噛み潰した様な顔で当たり前だと答える。 「お前みたいな、脳みそ皺なしと一緒にすんな」 その表情はまるで怒っているかのようだが、付き合いの長いその場の人間にはそれが単なる照れ隠しであることは嫌でも分かる。そう、嫌でも。 (おいおいおい、勘弁してくれよ・・・) 利央が自覚したところで、そんなに浮かれている印象は無いのだから大して状況は変わらなかったのかと考えていた、その認識は甘かったとつくづく思った。 「オレだって、準サンの講義は覚えてるよ。今日、午後から講義あるでしょ?サボリ?」 今までの完全な意志の疎通ができないでいた状態で付き合っていた頃とは違い、確実に両想いだと判明した彼らの雰囲気はもう、なんていうか、甘い。 「るっせ、生意気」 そう言って鼻をつまむ準太の表情も、痛い酷いと訴えている割には頬に笑みが刻まれる利央の顔も、もう全てに花が舞ってるかのようだ。 「お前ら、こっちの存在忘れんなよ・・・」 そして、ここがどこなのかも忘れないでくれと、慎吾は本気で頭を抱えたくなった。その隣では、きっと誰よりも神経が図太い彼の恋人が、微笑ましい光景を見守る親の様な表情で座っている。 「お前ら、ますます仲良くなったなぁ」 はっはっはと爽やかに笑う和巳に、苦渋の表情を浮かべる慎吾。そんな先輩二人にお構い無しに、ギャンギャンとじゃれる準太と利央の周りには、今日ものどかな陽光が降り注いでいた。 end. 終った・・!!!馬鹿みたいにシリアスで始まっておいて、馬鹿みたいなノリでまとまった!!満足!(おい。 最後の二人、甘すぎて書いてて気持ち悪くなった!(爆。慎吾さん、あなたが正しい。きっと今後一番苦労人なのは、慎吾サンだ。 |