影踏み









 お前がどこで誰と何をしようが、オレには関係が無い。
「利央って、カッコイイよね」
 早く捕手として一人前になってくれりゃあ、それで良いんだ。
「背ぇ高いし、スポーツできるし、頭はちょっとバカだけどそれはそれで、可愛いしね」
 部活をサボらず日々精進して、早くオレを満足させるリードができるようになりゃあ、それで良いんだよ。
「それに、ボーっとしてるけど優しいし」
「その二つがどうくっつくのかよくわかんないけど、確かに一見女子にぶっきらぼうなくせに、荷物もってくれたりとかするよね」
 なのになんで、こんなとこでオレはお前の評判なんて聞いてなきゃいけないんだ。
「下心無いとこが、良いんだよねー」
 下心なんて、あるわけねぇだろあのバカに。計算して行動することなんて、無理なバカだ。だからこそ、まだまだ試合での駆け引きが下手なんだけど。
 あー、昼休みに礼拝堂で一眠りなんて考えなきゃ良かった。くそ暑い中屋上で太陽に焼かれながら昼寝なんて冗談じゃねぇと思ったけど、こんなとこで飯食う奴がいるとは思わなかった。
 しかも、それが利央のファン(自分で言いやがった)だなんて、まったくついてねぇ。
「私今日、朝下駄箱で会ったもんね」
「えーっ、良いなぁ!」
 何が良いんだ、オレなんて毎朝毎日着替えだって見てるっつの。て、何を対抗してんだ、オレは。
「あー、野球部のマネジやりたいなぁ」
 誰がやらせるか、バーカ。あいつ狙いって分かってる奴を、ほいほい入れたりするかよ。ここでオレに聞かれたのが運の尽きだな、そんな奴絶対にお断りだね。
 でも別に、それは利央狙いだからとかが理由じゃなくて、そんな軽い理由でマネジやられるとこっちが迷惑するからって理由なんだ。誰に言ってんのか、わかんねぇけど。
「今度試合あるよね、見にいこ!」
 スタメンで出られるかどうかは、確率低いけどなー。和サンがいる限り、あいつの出番なんて爪の先ほどの確率だ。でも最近は、和サンの引退を考えてかあいつが出ることも、増えたけど。
 でもそしたら、こいつらは黄色い声上げて応援すんだろうな。そしたらあいつも、気づくのかな。自分のファンがいるなんてこと、あいつは今のところ知らないだろうけど。
 どうでも良いんだけどな、あいつがどこで誰に騒がれようと、どこで誰に告白されようと、試合さえきちんとこなしてくれりゃあ、可愛い彼女ができたって構やしねぇ。
 練習中に、キャーキャー騒ぐような女だったら、別れさすけどな。
「でもキャッチャーだと、顔見えなくてつまんないよねー」
 バカか、こいつら。所詮利央の顔目当てかよ。まあ確かに、あいつは無駄に見た目は整ってっけどな。睫毛なげえし鼻たけえし、まず彫が深いしな。野球部だから身体だって鍛えてるし、背だって高い。そのくせ取り澄ましてるわけでもなくてすげぇ油断した顔で笑うから、一部ではアイドル扱いされてんのも、オレは知ってる。あいつは、知らないだろうけど。
「普通の守備位置にならないかなー」
 なるわけねぇだろ、あいつはキャッチャーやりたくて野球してんだ。そりゃ、たまに別のポジションで出ることもあるけど、基本あいつはオレの球を取る為に野球部入ったんだよ。
 それにあいつらは、知らねぇんだ。試合中、防具から覗くあいつの目がどんだけ綺麗かって。真正面であいつに向かって投げてる、オレにしか見えてねぇもんな。
 それと、たまにバッターが打上げる球を取る為に防具を取るその一瞬が、良い。
 ・・・・・・・・待て待て待て、何考えてんだオレは。
「でもさぁ、今日利央来ないのかなー。いっつも昼にはここに来るって聞いてきたのになー」
「うーん、待ち損かなぁ」
 何、こいつら。マジで利央狙ってんの、わざわざこんなとこであいつ待ってんのかよ。
 信じらんねぇ、何であんなガキが良いんだ?そりゃ見てくれは良いかもしんねぇけど、まるきりガキだぜ?野球バカだしただのバカだし、付き合ったりなんかしてもこいつらが期待するような彼氏には、ならないと思う。
 別に、どうでも良いんだけどさ。あいつがどこの誰と付き合おうが、振られようが、振ろうがさ。早く一人前のキャッチャーになってくれりゃあ、それで良い。
 良いはずなんだけど、何かさっきからオレの思考回路は何かおかしい。
「あれぇ?準サン??」
 うわ、利央本当に来たのかよ。
「きゃあ、利央だ!!」
「やった、マジ利央だ!」
 あー、うっせ。
「え?誰・・・」
「お前のファンだってさー」
 その時のあいつらの顔、オレはなかなか忘れないと思う。あいつらから見たら、寝転んでたオレは見えてなかったはずで、誰も居ないと思ったからあいつらは色々勝手なことを言えたんだよな。
「やだっ、高瀬先輩じゃん!」
 おーおー、オレも有名だねー。多分、利央と組んでるピッチャーって程度の認識だろうけど。
「い、いこ!!」
 ふん、折角待ってたのに話すチャンスが無くて残念だったな。あんま走ると、太い足の先にあるパンツ見えんぞ。
「何、あれぇ?オレ、嫌われてンの?」
 お前、人の言葉聞いてたか?お前のファンだってつってんじゃん。
 ま、そんなこと知らなくて良いんだけど。
「しらね、それよりお前、祈りに来たの」
 一応キリスト系の学校だけど、利央ほど熱心な生徒って実際日本じゃ貴重だと思う。奴は家もキリスト教だから、オレなんかとは違って授業以外でも聖書を開いたりするのかもしれない。
「うん、準サンは?」
「昼寝だよ、でもお前が来たなら帰る」
 来るかとは思ってたけど、待ってたわけじゃないんだ。
「なんで!?失礼じゃん、それ!」
「うるせえな、嫌いなんだよ」
 お前が祈ってる姿を見るのは、嫌いなんだ。まるで野球よりも神様に、全て捧げてるみたいだから。オレに投げることよりも、神様に祈ることの方が重要だと思ってるみたいだから。
「はぁ?え、オレのことぉ!?」
 ばーか、勝手に勘違いしてろ。
「ちょっと、待ってよ準サン!嫌いって、オレのこと!?オレなんかしたぁ!?準サンってば!!」
 お前なんて、嫌いでも好きでもねぇよ。たださっさとオレの球を満足に捕れるようになってくれりゃ、良いんだ。
 だから別に、お前がどこで誰と何をしようが、どんな女と付き合おうが、どうでも良いんだ。
 お前なんて、オレには部活以外では全く関係が無いんだ。
「準サン!待ってよ!!」
 それなのに、何でオレはお前に呼ばれただけで、立ち止まっちまうんだろう。
「ねえ、オレ何かした?」
 そんなもん、オレが知るか。お前は神様に祈ってれば良いだろ、何追っかけてきてんだよバカ。
「準サン」
 どうでも良い相手のはずなのに、何でかオレはお前に呼ばれるともうそこから身動きが取れないんだ。
 あぁ、畜生。お前なんて、ただのバカな後輩だ。
「畜生」
「準サン?」
 呼ぶな。
「準サン、どしたのさ。大丈夫?」
 お前はその声で、神様に祈ってれば良いんだよ。
「準サン、少し礼拝堂で休めば?顔色、あんま良くないよ。夏バテ?」
 そしてお前が祈る姿を、ボーっと見てろってのか。
 あぁ嫌だ、お前に簡単に呼び止められる自分が嫌だ。お前なんて単なるバカな後輩なのに、お前に呼ばれると、俺はまるで影踏みで掴まったみたいにその場から動けないんだ。
「準サン?」
「うるさい、呼ぶな」
 お前に呼ばれると、オレは何だかたまらない気持ちになる。このまま振り返ってしまいそうな、それとも走り去ってしまいたくなるような、たまらない気分になるんだ。
 あぁ畜生、利央のくせに。和サンにまだ遠く及ばないリードしかできねぇくせに、背ばっか伸びてまだまだ筋肉足りないくせに、ベンチ入りしてる回数の割になかなか試合に出れないくせに、呂佳さんにこの間無理矢理ホラー映画付き合わされて半泣きになったくせに。
 本人にぶつけたら十割の確率で泣き出すであろう悪口雑言を心の中で撒き散らしながら、オレは仕方なく振り替える。
「大丈夫?」
 そこには、まるで犬みたいな顔で心配そうに肩を落とした利央がいて、オレはとりあえず深呼吸をする為に空を仰いだ。
 畜生、今日も綺麗に晴れてやがる。放課後も、思いっきり野球ができそうだ。
 








 えーと・・・・・リハビリです(苦笑。
 準サンも利央も無自覚で、でも多分準サンの覚醒(って)は近い感じ。
 むー、もっとマメに文章書かなきゃ駄目ですな!仕事に負けてる場合じゃないよ!!