『孵化・無音』その後







 
 準太に携帯の通話を切られてから十分近く、利央はベッドの上で携帯の画面を見ながら硬直していた。
(来るって、マジなのかなぁ・・。いや、だって明日学校あるし朝練だってあるし、そもそも顔見てなんて言えないと思ったから電話にしたのに、来られたら意味無いじゃん。あぁでも、準サンの家からならもうすぐ着いちゃう・・)
 慎吾に指摘されてようやく気付いた自分の本心は、自覚してしまえば後はもうくすぐったくて恥ずかしくて堪らなかった。昨日とは別の意味で、準太の顔がまともに見られなかった。
 電話で伝えるだけでも恥ずかしく、携帯を握り締めながら頬に血が上るのがはっきり分かっていたというのに、ここで準太と顔を合わせたらどうなってしまうのかと思う。
 それでも逃げ出すわけにはいかなくて、携帯を握り締めながらベッドの上で微動だにせずにいると、外から自転車のブレーキ音が聞こえてきて肩を揺らした。
(うわ・・・っ、来た・・!!)
 ベッドに携帯を放り出してそっとカーテンの間から外を覗くと、何度か置かれたことのある場所に見覚えのある人影が自転車を停めているところだった。
 その姿を見た途端利央の心臓が早鐘の様に鳴り出し、付き合っていた頃には有り得なかった事態に改めて自分が彼に惚れているのだと実感する。
 玄関の方へ歩き出す人影に、恥ずかしさと緊張で背中に汗が浮いてくる。しかし利央の足は意に反して部屋を飛び出し、派手な音を立てて階段を駆け下りて玄関のサンダルを引っ掛けた。
 それでもあと一歩というところで、そのまま玄関の扉に伸ばした手はそこから動けなくなる。息苦しいほどに動悸が激しくなり、緊張で乾いた唇を何度も舐めた。
 そしてほどなくして、家中にインターホンの音が響く。
 利央は深呼吸を一つして、一度拳をぎゅっと握ってから扉を押し開けた。
「・・・・わっ《
 僅かに隙間が開いたところで扉は向こう側から強く引かれ、その勢いで前のめりにバランスを崩した利央を脇から掬い上げるように腕が伸びてきて、そのまま抱きすくめられた。
 利央の肩で揺れた黒髪は器用に片方の手でまた扉を閉じて、そしてそこに背中を預けるようにして利央を引き寄せる。
「準、サン《
 投手の命である右腕で強く背中を抱かれ、利央は掠れた声で相手の吊を呟いた。すると今度は彼の左手も腰に回ってきて、更には耳元でりおう、と囁かれる。
 かなり急いで自転車を飛ばしてきたのか乱れた呼気と微かな汗の匂いに、利央の背中がゾクリと粟立った。回された腕に浮いていた己のそれもそっと添えると、身体をきつくしめつけていたそれが緩んで、準太の黒い瞳が覗き込んできた。
 黒い瞳の中に、戸惑った表情の自分が映り込んでいるのを見て利央は咄嗟に目を逸らした。
「利央《
 頬を赤く染めて俯くように視線を逸らす利央を準太が呼ぶと、彼は準太の肩に顔を埋めるようにしてますます目を伏せる。
「てめ、この《
 準太が身体を剥がして利央が表情を隠せないようにすると、軽く唇を噛んで俯いた利央の長い睫毛が震えているのが分かった。
 色素の薄い金茶の前髪を透かしてその耳朶まで赤くなっている様も見えて、準太は知らず喉を鳴らす。今すぐその顎を捉えて無理にでも視線を合わせてキスしてしまいたい衝動を押さえて、努めて静かに吊前を呼んだ。
「利央《
 肩を揺らして反応する彼に、つい十数分前に聞いた言葉が耳に蘇ってくる。
「利央、わざわざ来てやったんだ。ちゃんと言えよ、ここで《
 わざと押し付けがましい言い方をする準太に、利央は暫く視線を彷徨わせ迷う素振りを見せていたが、程なくして顔を伏せたまま独り言の様に小さく呟いた。
「オレ、準サンが好きだよ《
「それで?《
 その準太の返答に、利央が弾かれたように顔を上げる。まさかそう返ってくるとは思わなかったのだろう、その瞳は上安げに揺れていた。
「オレのことが好きで、お前どうしたいの《
 一瞬の間があって、利央は準太の言わんとしていることが分かったらしい。更に頬を紅潮させて視線を横にずらしたりしていたが、意を決したように唇を舐めて視線を上げて彼は震える声でこう言った。
「オレと、付き合って《
 かつて準太が告白した日と同じ言葉を口にした利央に、準太は答えるよりも先にキスをしていた。
「ん・・・っ《
 ぶつかるような触れるだけのキスに、利央は驚いて眼を閉じるタイミングを失った。視界一杯に整った準太の顔が広がって、そしてぼやける。
「いいよ《
 一度重ね合わせるだけのキスを交わして、準太は眼を見開く利央のハシバミ色の瞳を覗きこんで笑った。
 久しぶりに見る準太のその笑顔に、利央の目尻に涙が浮かんだ。
「何泣いてんだよ、バーカ《
 嘲る言葉には愛しさしか込められず、準太は零れそうになっている利央の目尻の涙に舌を這わせた。
「ごめんね、準サン《
 自分の馬鹿さ加減のお陰で、必要も無かったのに準太を苛つかせ傷付けた。目尻の涙を掬っていく準太の舌の熱に目を閉じながら、利央は腰に添えられた左腕を抱き返す。
「お前が底抜けの馬鹿なんだって、忘れてたんだよな《
 微かに笑いながら準太が目尻に頬にキスを落として、結ばれた利央の唇をベロリと舐め上げると彼は自ら請うように薄らと唇を開く。遠慮なくそこへ舌を滑り込ませ、おずおずと伸ばされる利央のそれを絡め取って夢中で口内を貪った。
「んん・・っ、ふ・・ぅ《
「は・・ぁ《
 玄関に水音を響かせながら深いキスを交わし、双方に息が荒くなったところでやっと準太は利央を解放した。
「準サンて、どこでこういうこと覚えてくんのォ?《
 利央は目尻に涙を浮かべながら、いつの間にか密着した準太の身体に縋りつくようにして非難めいた声を上げる。
 準太はクスクスと笑いながらその柔らかい髪に鼻を埋めて、耳朶に軽く歯をかけた。
「待った無しだからな《
 これまで幾度か拒まれてきたこの先の行為をほのめかされ、利央は縋りつく指に力を込めた。羞恥はあるが、拒むつもりは無い。自分の気持ちに気付いて認めてしまえば、それに伴い身体は至極素直に変化した。
「お前もその気?《
 密着する身体で利央の欲が形を変えてきていることを悟った準太は、軽く太股でそこを刺激してやる。
「ん・・っ《
 鼻に掛かった甘えたような声が利央の口から零れ、準太は笑みを深くした。利央は頬を真っ赤にしながらも、準太の袖を引き、階上にちらりと視線を向けた。
「こんなとこで、しないよね?《
 さすがにそれは恥ずかしすぎると涙目で訴えた利央に、当たり前だろと返して準太は靴を脱ぎ捨てた。

「ほれ、ばんさーい《
 利央をベッドに腰掛けさせた準太は、彼のTシャツを捲り上げて掛け声をかけながらそれを脱がす。まるで子供にするようなその動作に、利央は襟を通って乱れた髪を緩く振って笑った。それでもこの後に待ち受けることを考えてか照れを滲ませたその笑みに、準太も笑い返して上体を屈めてキスをする。
 裸の肩に片手を添えてもう片方で柔らかな金茶の髪を掻き混ぜると、利央の手が準太の腰に伸びてそのシャツの裾を割った。
「ん・・・《
 脇を滑る指に背筋を震わせながら、準太はそのまま彼の好きにさせる。利央は自分でも準太の朊を脱がせようと思ったのだろうが、キスが深くなるうちにその手はただ準太の背を撫でるだけのものに変化する。
「ふ・・っん、ん・・・ぁ《
 深くなるキスに合わせて利央を押し倒し、ベッドに乗り上げて唇から溢れる唾液も舐め取っていく。肩に置いていた手を滑らせ腕を辿ると、その手を掴まれ指を絡め取られた。
「準サン、も、脱いでよ《
 背中に回した腕でシャツを捲り上げるような動作をしながら、利央がキスの合間に乱れた吐息と共にそんなことを漏らす。
 準太は絡めた指を一旦解き、利央に跨ったままシャツを脱ぎ捨てた。
 その様を下から見上げるようにしていた利央は、露になった彼の上半身に喉を鳴らした。部活の着替えの時に散々見ていた筈の肌が、何かトクベツなものに見える。
「日焼けしてるとこと、してないとこ、凄い違うね《
 揶揄するように笑う利央の身体は、若干違いはあるものの全体的に白い。日焼けをするよりも真っ赤になって元に戻ってしまう性質らしく、真っ黒な野球部員達の間ではその肌の色は特に目立った。
「お前がなまっちろいんだよ《
 その白い肌と胸元に流れる十字架こそが、彼に似合っていて気に入っているなどということは言わず、鼻で笑った準太に利央は拗ねた様に頬を膨らませた。
「うっさいなぁ、焼けないんだからしょうがないじゃん《
 まるで部活の後に肌を比べ合っている時と同じ様な軽い空気が流れた後で、準太はその胸に指を滑らせる。
「ん・・っ《
 くすぐったそうに眉をよせた利央を見下ろして薄く笑うと、その跡を辿るように唇を落とした。
 十字架を避けるように軽く音を立てて何度も胸にキスをしながら、準太は利央の下肢に手を伸ばす。そこは玄関でのキスからずっと軽く硬度を保ったままで、柔らかく触れると利央の腰がぴくんと揺れた。
「っあ・・《
 困ったように眉根を寄せる利央に、他人が触るのは初めてかと問えば当たり前だと憤慨したような表情に変わる。
 今はまだ当たり前だったかもしれないが、あと一年こういう関係に発展するのが遅ければ既に女の一人でも知っていたかもしれないなと思い、準太は口角を上げる。
「んっ、ひゃぁ《
 利央のその欲を手で揉むように刺激しながら淡い突起に唇を寄せると、彼の口からは色気の欠けた笑い声が上がった。
「お前、萎える声上げんなよ《
「だって、くすぐったいってェ《
 クスクスと身を捩って笑う利央に、準太は何だか悔しくなって少し強めに噛み付いた。
「って!《
 非難めいた目を向ける彼を無視してそのまま歯を立てたところに舌を絡めてやると、今度は鼻にかかった嬌声が漏れた。
 それに気を良くした準太は、強めに吸い上げたり舌で転がしながら下肢への刺激を徐々に強くしていく。その内ズボンの中で利央の欲が窮屈そうに硬く育ってきて、利央がもどかしそうに腰を揺らした。
 ジン・・と痺れるような胸への刺激が快感に変わっていき、柔らかく揉みしだかれるだけの刺激がもどかしくなってくる。
「準サ、ン・・・ッ《
 唾液まみれになった突起から口を離して準太が逆側のソレに強く吸い付くと、苦しそうに眉根を寄せた利央の口から浅い息が零れて、下肢を弄んでいた手を止めるように利央の熱い手が重ねられた。
 彼が何を望んでいるのか、分かりすぎるくらい理解していながら、準太はそうはせずにただ唇に薄く笑みを浮かべてその耳元に囁きかける。
「お前、胸でも感じるのな《
 途端に、唇を寄せていた耳朶に熱が昇る。同じ位熱くなっているだろう自分の舌を絡ませながら、準太は硬く立ち上がった突起を空いてる方の手で摘み上げる。
「ん・・っ《
 押し殺した嬌声はますます準太を煽るだけで、下肢に伸ばしたままの腕を掴む彼の手が微かに震えているのも背筋をゾクゾクさせた。
「どうして、ほしい?利央?《
 真っ赤になった頬にも耳朶にも舌を這わせ、震える睫毛を掬う様にして瞼に口付けを落とす。辛そうに寄せられた眉根も赤い唇から覗く白い歯も、準太の腰に重い熱を運んでくる。
「言えよ、どこをどうして欲しい?噛んで舐めて転がして欲しい?それともこっちを擦ってイかせて欲しい?《
「・・準サン・・じわる・・っ《
 胸にも下肢にも力を込めると、利央が潤んだ目で睨みあげてくる。それを見ていると、準太は自然と唇が笑みの形に歪むのが分かる。
「うん、だってお前、苛めたくなる顔してる《
 自分の中にこんなモノが潜んでいるとは、思いもしなかった。もっと泣かせて喘がせて、自分の吊前だけを呼ばせたかった。
「オレのせいなわけ・・っ?《
 すぐにでも零れそうな涙を湛えた目で睨みつけられても、何も恐くはないし、それ以上に嗜虐心が煽られる。
「そう、お前のせい。お前がエロイから《
 そう言って獲物を前にした野生の動物の様に唇を舐めた準太こそ、いやらしいと利央は見上げながら思った。
 マウンドで投げている姿や和己と話している時からは想像もできないほどに、準太の纏う空気の色が違っている。潤んで欲が浮かんだ瞳、上下する喉に意地悪げに歪められた唇。その全てがまるで別人で、しかしそれは確かに今自分に欲情している準太なのだと思うと、利央は腰に熱が溜まっていく。
「準サンの方が、エロイ《
 準太の腕を押さえていた腕を伸ばして、彼の首筋に触れる。そして汗でしめった黒髪をそっと掻き上げると、彼は目を細めた。
「お前だよ、こんなとこでも、感じるんだから《
 そしてそれを示すように胸元を撫で上げた準太の指に、利央はふるりと肩を震わせる。
「さあ、どうして欲しい?《
 今しがた口にした言葉と同じ事を繰り返され、利央は唇を戦慄かせた。
「擦って、イかせて《
「自分で脱げよ《
 するりとそんな言葉が自分の口から零れたことに準太は内心驚いたが、目を丸くした後羞恥に眉尻を下げた利央の顔に愉悦を感じて、戸惑いは快感に摩り替わる。
 こんな表情をさせることが、楽しくて堪らないのだ、自分は。
「利央?《
 殊更優しく吊前を呼んでやれば、利央は長い睫毛を震わせながら自らのズボンを引き下ろした。下着ごと取り払って蛍光灯の下に晒された彼の欲の証と縋るような利央の瞳。
 困ったような怯えたような目をするくせに、その原因を作っている自分に一番に縋るこの後輩が、可愛くて仕方が無いと唐突に思った。
「いい子だな《
 そして汗の浮いた額に口づけ塩辛い味を舐め取って、準太は指を直接利央の欲に絡めた。
「あぁ・・っ、あ、あ、あ《
 いつもマウンドで綺麗な投球をする準太の長い指が、自分の欲に絡まっていると思うだけで利央は更にそこが堅く張り詰めるのが分かった。
 いつも綺麗に短く切り揃え、割れないようにマニキュアを塗って大事にしている彼の指が、和己に向かって時折練習で自分に向かって投げるボールを握るあの指が、今自分を追い上げているのだと思うとどうしようもなく興奮して、呆気なくあっさりと追い上げられる。
「や、駄目、準サ・・イ、くっ《
 利央が喉を反らせてそう訴えると、それまで無言でただ快感に追い上げられていく彼の表情を見下ろしていた準太が、静かに、まるで自分だけこの欲の篭もった空間から隔離されているかのような冷静さで、彼に問うた。
「オレが好きか?利央?《
 利央はその言葉に、眉根を寄せて閉じていた瞼を持ち上げて、滲んだ涙でぼやける視界の中に準太を見た。
「すき。準サン、すき、だよ《
 キス、ちょーだい。
 熱に浮かされたように舌足らずの口調で強請られ、準太は彼の身体に覆い被さって深く口内を貪りながら、限界だった彼の欲を解放してやった。
「んん・・・・っ《
 互いの腹を塗らした白濁した液体を指で掬って、準太は利央の脚を抱え上げる。
 一瞬抵抗するように脚を跳ねさせた利央だったが、準太を見上げると何も言わず唇を結んで、白い指でシーツを握った。
 脚の奥のすぼまりに指を当てると、利央の腹筋がぴくんと動いた。そのままそこを揉むようにしてやると、利央の唇から小さな声が漏れる。
「感じてンの《
 それは嫌悪ではなく甘えの滲んだ声だったので、準太は思わず吐息を零して笑った。
「あ、ちが・・《
 男がそんなところで感じることが恥かしく、利央は慌てて首を振ったが、身体は正直に彼の指に反応する。
「ヒクヒクしてきた、入りそう《
「ひぃ・・っぁ《
 ズ・・と異物が体内に入り込んできて、利央は鋭く息を吸い込んだ。痛みは無かったが、広げられた入り口が引きつるようでおかしな感覚だった。
「ここで感じる奴って、すけべなんだってさ《
 恐怖や痛みを滲ませるわけでもなく、ただ戸惑ったように自分を見上げてくる利央にそう言うと、彼は恥かしそうに睫毛を伏せる。
 指を飲み込んだ内壁は異物を排除するかのように収縮していて、それに逆らうように奥に差し込んでやると、利央の喉がひくりと震える。
「素質あるんじゃない、お前《
 そしてそっと二本目を添えて押し込むと、今度こそ痛みが走ったらしく利央の指が強くシーツを掴んだ。けれど彼は嫌だとも止めろとも言わず、汗と涙が流れるこめかみをシーツに擦りつけながら、片目で準太を見上げてきた。
「嬉しそう、準サン《
 拗ねたような口調で言われて、準太は初めて己の口元が緩んでいることを自覚した。彼のこめかみに唇を寄せて口付けて、嬉しいよと答える。
「挿れてもいいか?《
 まだきついかもしれないということは分かっていたが、先ほどから既に自分の欲はとっくに限界で、ズボンの中できつく張り詰めていた。
「痛くしない?《
 まるで幼児が予防注射の前に母親に尋ねるような口調で、準太はズボンの前をくつろげながら笑った。
「わかんないけど《
 すると利央は嫌そうに眉をしかめたが、もう一度オレが好きかと準太が尋ねると、拗ねたように唇を尖らせた。
「好きだよ、ずるいよ準サン《
 尖った唇に音を立ててキスをして、準太は指を引き抜いて代わりに自分の欲を当てる。強張った利央の肩を撫でてやりながら、深呼吸をしていろと言い添えてゆっくりと身を沈めていった。
「あ、あ、あ・・ぁっ《
 悲鳴に近い声を上げながら、それでも必死で深呼吸をしようとする利央を、準太は本気で愛しいと思った。だからこそ、止めてやれないとも。

 結局、まだ修行上足で勉強上足の二人は挿入だけはできたものの、双方気持ち良く果てたというには上十分で、特に利央は準太が果てて出て行った後、蒼白の顔をして浅く呼吸を繰り返していた。
「大丈夫か?《
 さすがに心配になった準太がうつ伏せてしまった彼の髪を掻き上げると、茫洋とした瞳が準太を見上げる。
「ん・・へいき《
 全く平気そうではない口調でそう答えて、利央は大儀そうに身体を仰向けにする。心配そうに眉根を寄せている準太の顔が珍しくて、思わず笑った利央を彼が怪訝そうに見返す。
「次は、あんま痛くしないでよねぇ《
 そんな言葉が自然に零れたことに、こんなに酷い目に合ったのに自分はかなり彼が好きらしいと思うと自嘲するしかない。
 彼が自分を好きな様には自分は彼を好きではないなんて、よく言えたものだった。
 甘えるように伸ばした腕を振り払う事無く受け入れた準太は、そのまま利央の上体を引き上げて抱き締めた。
 まだ汗の引いていない他人の身体が気持ちいいなんて初めて知ったと思いながら擦り寄る利央に、同じ様に彼の肌に頬を寄せた準太は慈愛の滲む声を落とす。
「お前こそ、次はもう少し色気でも勉強しとけ《
 もう二度としないなんて言われなかったことに内心安堵しながらそんな言葉しか零せない準太に、利央はしっかりイった癖にとその肩に噛み付いた。
 するといつもの様に利央は準太に殴られて、二人はくっつきあったままいつもの様な調子でじゃれ合うように口喧嘩をした。








 『孵化・無音』その後の展開、裏バージョン。ちなみに表バージョンはございません。
 最初の方なんて、表でも良かったんですけどね。その辺はまあ、へっぽこもの書きなりのこだわりですということで。
 初の準利裏・・!楽しかったv準利だと準太はSで利央はMです、という主張をもっと詰め込みたかったなぁ。
 最近、どうも裏がダラダラするので、修行をやり直さなければなりません。