自分の家で利央と二人、対戦形式のテレビゲームをやっていた最中に彼が突然それを言った時、準太は思わずそういう作戦なのかと思った。 「準サンてさぁ」 「あ?」 戦況は明らかに利央に不利で、そのことに不機嫌になっているのか彼の声音は低かった。 「オレで勃つの?」 ガチャ。 思わず滑らせた指が不適当なボタンを押してしまい出したかった技が出せずに、準太は代わりに利央の操っているキャラクターに痛烈な一撃を浴びてしまった。 「・・・あんだと・・・・?」 その一撃で勝負が付いてしまい、利央のキャラクターが拳を上げて勝利のポーズを取っているのを視界の端に捉えながら、彼は彼を半眼で見やる。 利央はその準太の目つきと低く這う様な声音に何かしらの危険を感じて、誤魔化すように視線を泳がせながらもう一戦すべくコントローラーを握り締める。 「や、あの、慎吾サンがさぁ。準太がお前で勃たないなら、本懐は遂げられないんだぞーって言うから、どうなのかなぁって・・・」 思っただけですという締めの言葉が紡げなかったのは、準太が満面の笑みでプレステの電源を切ったからだ。 普段から彼は割りと笑い上戸であるが、こういう猫の様に目を細めた無言の笑みというのは、何かしら自分にとって都合の悪い事を考えている時が多いのだということを、利央は既に短くは無い付き合いの中で学習している。 「お前、本懐って意味知ってんの」 準太が笑みを崩さずそう問えば、利央は頬を引きつらせて僅かに上体を反らせながら、最早意味をなくしたコントローラーを握り締めて首を横に振った。 「だろうな」 ここで利央が頷いたのだとしたら、指を突きつけてお前は偽物だろうと言うくらいの確信があった準太は、そのままベッドの縁に腰掛ける。 首だけを動かしてその仕草を追ってくる利央の姿が、主人を追う犬のようでますます口端を上げた準太に、彼は怯えたように肩を揺らす。 あぁ、どうしてこの子供はこちらの嗜虐心をどうしようもなく煽るのだろう。 「試してみるか?」 「へ?」 悠然とベッドに腰掛けて微笑む準太の姿が、何だか遊び慣れてる男のようで一瞬見惚れた利央は、彼の言葉の意味を上手く把握できなかった。 「オレがお前で、勃ちゃいーんだろ?やってみれば」 どこか投げやりで勝手にすれば的な意味にすら取れるその言葉には、けれど有無を言わさぬ使役力を持っていて、利央はカーテンも引かれていない明るい準太の部屋で、小さく喉を鳴らした。 「え、でも、どうやっ、て?」 コントローラーに張り付いた様に固まっていた指を剥がして、利央がそれを床に静かに置くと、準太は自分の脚の間を指差した。 言われた通りに身体をずらしてそこに収まると、利央は嫌でも彼の意図を理解した。 準太の脚の間に腰を下ろすと、ベッドの縁に座っている彼の股間の真ん前に顔の高さがくる。 「わかんだろ?」 自分の言葉がどれだけ相手を煽る台詞なのかなんてことまでは分からなくても、さすがにそこまでお子様ではないらしい利央は、さあどうぞと言わんばかりの準太に赤面した。 「や、でも」 準太と利央が、こういう性の生々しく絡む行為をすることは実は初めてではない。明確に付き合っているという意思確認をしたことはないけれど、互いに相手が欲を交えて触れるのは自分だけだということは漠然と感じていた。 「今更だろ?」 何度も見てきただろうと揶揄するように言うと、目尻が赤くなって緩んでいた利央の目元が勝気に締まった。こんなところも負けず嫌いなのだ、彼は。そういうところが準太にとって扱いやすくてお手軽で、そしてほんの少し可愛いということは、最後に限り今のところ本人には告げる気は無い。 「ぜってー、勃たせてやるっ」 高らかに宣言した利央は一度両拳を握って気合を入れた後、当たり前だがきっちりと留められたジーンズのボタンに指をかけた。 少し苦心しながらそれを外し、ジッパーを下げる辺りで若干緊張した様に顔を伏せた利央の頭部を見下ろしながら、準太は階下で母親がテレビを見ている音を拾った。 (声、出したらやばいな) 自分はともかく、感じ始めると途端に正体を無くす利央の声は響く。野球以外ではいつもだるそうなテノールが、短く跳ねるようにして鼓膜を震わせるのも好きだけれど、今日はさすがにまずいだろう。 (あ、でも、口塞ぐんだからどうでもいいか) まだ何の反応も示さない準太自身を下着から引き出した利央が、さてどうしようと眉根を寄せている時に、彼はそんなことを考えていた。 「利央、そのまま止まられても困るんだけど?」 萎えた状態の己を握り込まれている図というのはどこか間抜けで、それを握りながら首を傾げている利央の姿も笑いを誘う。 「わかっ、てるってぇ」 上目遣いに準太を睨み付けた後、利央はぎこちない仕草で準太のそれを擦り上げる。 何度かそれを繰り返すうちに準太自身が淡く反応し始め、利央は頭上の彼の息も乱れてきたことに気付く。 「ふ・・っ」 内股が引きつるような反応を見せた準太をそっと窺うと、彼は眉根を寄せて軽く目を閉じ、利央が与える刺激を息を殺して追っていた。 (うわぁ・・・) いつもは、互いにそれなりに反応してからお互いの性器に手を伸ばしてそれを擦り上げるというような関係できているので、そうなると利央自身も自分の快感を追うことで必死になり、準太がどんな表情でいるかなんてまるで知らなかった。 長く黒い睫毛が頬に影を落として、その目尻は少し赤く染まっている。唇から漏れる息はやや揺れて、体内の熱を吐き出すように湿気を帯びている。身体を支える為に後ろに伸ばした腕の肘の内側に浮かぶ青い血管が、やけに利央を刺激した。 手の中で硬く育っていく準太自身と零れる彼の吐息に、彼が自分の与える刺激で感じているのだと思うと、何だかゾクゾクした。 「利央」 いつもより多く息の混じった掠れるような声で呼ばれて、髪を梳く様に指を伸ばされて利央は顔を上げる。 「咥えろよ」 頬を赤く染め、こめかみに汗をうっすら浮かべて額に一房黒髪が張り付いている。まるで蕩かされる前の娼婦の様でいて、そのくせ歪んだ口元がサディスティックで利央は唇を戦慄かせた。 (この人、本気でエロイ) そしてその長く器用な指に抗える筈も無く、利央は彼の望むままに猛った彼自身に唇を寄せた。 「ん・・」 滲んでいた先走りが唇に絡んで、反射の様に舐め取ると未知の味がする。決して美味しいとは思えなかったが、舌でそれをすくった瞬間準太の腰がびくっと揺れたことの方が利央にとっては重要だった。 そのまま舌を滑らせて、上下に動かしてみる。初めての行為でそんなに上手くできているとも思えなかったが、取り合えず準太が萎える様子は無いことが利央には嬉しかった。 「舐めてないで、咥えろって」 くすぐったさの方が勝るような舌の滑らせ方に、それでも準太自身が萎えないのは視覚的な刺激によるものだった。 色素の薄い睫毛を細かく震わせて、普段野球の球を握る指で準太自身の根元を支えながらピンク色の舌で必死に自身を舐め上げる利央のその様は十二分に刺激的で、ピンクの舌が絡む様子を見るだけで達しそうになり、準太はそうならないよう舌を見えないようにしてしまおうと促した。 「うー・・・」 さすがに咥えることには抵抗のあった利央だったが再度準太に頭上から促され、今まで指を絡めてきただけのそれを口内に含んだ。 そのままどうしていいのか分からなかったので、取り合えず以前見たAVを必死に思い起こしながら唇をすぼめて上下に刺激してみる。 「ぅあ・・・・」 間違いではなかったらしく準太の口から明らかな快感の声が零れた事に気をよくして、利央は口内に広がる生々しさにも耐えて必死で彼の快感を追い上げようとした。 「準サ・・っ、いい・・?」 途中で口を離して準太を見上げると、彼はまるでペットを褒めるようにして利央の髪に絡めた指でその頭を撫でた。 「早く、りおう」 直接的な答えは返ってこなかったが利央はそれだけで満足して、再び彼自身を口に含んだ。 その内準太の限界が近付いていることを感じて、利央が口を離そうとしたところで準太の手に強く押さえつけられた。 「ぐ・・っ!」 そのまま何度か無理に突き上げる様にされて喉の奥で呻くとそれすら刺激になるのか、準太はそのまま利央の口内で果てた。 腕を伸ばしてベッドヘッドに置いてあるティッシュを数枚抜き出して渡してやると、眉をしかめて口元を押さえていた利央はそれを受け取ってそこに準太の精を吐き出した。 「まず・・・」 そのまま舌を出して嫌いな食べ物を食べた後の子どもの様な表情をする利央だったが、その舌の上にはまだ準太の清が残っていて、まるで見せ付けられているようだ。 準太はついさっきまで己の怒張を咥えていたその赤い舌に指を伸ばし、怪訝そうな顔をしながらも口を開けたままそれを受け入れる利央に薄く笑った。 もしここで、自分がこの指を彼の喉奥まで突き刺したらどうなるだろう。彼は自分がそうするかもしれないという可能性については、きっと一瞬たりとも考えないだろう。 「・・ゅんさん?」 舌の上に準太の塩気のある指を乗せられ、利央は回らない舌で彼を呼ぶ。 今ここで喧嘩をしていたわけでもないので、準太がその指を彼の喉奥まで突き立てる可能性はとても低いけれど、それにしても余りにも無防備に開かれたそこに、思わず彼は爪を立てた。 「っ!」 準太の指はいつも綺麗に切り揃えられているので、さほど痛みは感じなかった。それでも刺激される痛覚に眉をしかめて、利央は彼の指を舌で押し出す。 その際に準太はそこに残っていた自分の残滓を掬い取り、利央とは視線を合わせたまま指を彼の喉に滑らせた。 ぬるりとした液体が、見上げているせいで余計出っ張った喉仏に絡む。利央が怪訝そうに眉根を寄せたまま準太を見上げていると、彼は指をそのまま離して脚を持ち上げた。 「ぁ・・っ!!」 その脚を利央の股間に持っていって指先で少し触れると、彼のそこが軽く興奮を示していることが分かる。 「お前こそ、オレの咥えるだけで勃つんだな」 ぐっと押さえつけられて、喉の奥で息を飲む。揶揄するような声音に思わず目を伏せると、己の股の間に伸びた綺麗な足の甲が見えて更に利央は堪らなくなった。 「利央、跨いで座れよ」 何度か軽くそこを刺激した後、準太は脚を離してそう言った。言われた意味がよく分からなくて目を泳がせる利央に、準太はその腕を取って立ち上がらせた後、ベッドの縁に腰掛けている自分の腰を跨ぐようにして利央の膝をベッドの縁に登らせ、利央の胸元が丁度自分の顔の辺りに来るように身体を向かい合わせにする。 「え、準サン?」 そして彼の腰を片手で抱いて、もう片方で利央自身に触れる。そこはもう熱く張り詰めていて、ズボン越しに窮屈そうに身を強張らせている。 「や、ちょ・・・・っ」 やわやわとした刺激に煽られて利央が思わず腰を揺らすと、準太は彼の胸元に顔を密着させてくつくつと笑った。 「なんだよ・・っ」 人を刺激しておいて何がおかしいのかと抗議すれば、準太は何も言わずにただ頭を振った。 そしておもむろに顔を上げて、笑った為か目元を赤くして、脱げよ、と小さく囁く。それは本当に利央にしか聞こえないような音量で、口の動きははっきりとしている癖に声は掠れ気味で、利央は身体の脇に下ろしたままの両手の拳をぎゅっと握り締めた。 「本懐、遂げてやるよ」 すげぇ良くしてやる、と蟲惑的に笑う準太に、利央は身震いがした。 マウンドでいつも真剣な顔をして、必死に和己のミットに投げ込んでいる男は、そこにはいない。 「ほら、脱がねぇとできねぇよ」 ぺろりと誘うように己の唇を舐めた準太の赤い舌に、利央は力を込めていた拳の指を解いた。本懐を遂げるというのが具体的に何を指しているのかは知らなかったが、ここまできてその続きといえば一つの意味しかないと分かっていた。そしてその為に、男同士ではどこを使うのかも。 震える指を持ち上げて、準太と自分の身体の間に手を差し込む。 ゆっくりとジーパンのボタンを外していく利央の指をじっと見つてから、準太はそこに唇を寄せた。 「うぁっ!」 湿って暖かい舌にいきなり舐め上げられ、驚いて睨み付けるように見下ろすと、彼は楽しそうに利央の指に舌を這わせて笑う。 「準サン、マジ、止めてくんないィ?」 今日の彼はどうやら上機嫌らしいが、その理由も分からないし自分はただ恥かしいだけだと自然に潤んでくる視界の中で、準太はまた嬉しそうに目を細める。 「そんなに遂げたい?」 「・・んたが、言ったんでしょぉが」 今更そんなことを言うのかと本気で泣いてやろうかとも思ったが、滲んでくる涙は悲しみからではなくて少しの羞恥とこれから起こることへの期待の混じった興奮からだと自覚していたので、利央はただ唇を噛み締めて彼から目を逸らす。 すると準太は、っかしいの、と利央には理解不能な言葉を吐いて、震える彼の人差し指に唾液を絡める様に深く舌を絡ませて、そして自分の指を利央の口元に運んでいく。 「舐めろ」 容赦なくねじ込まれた準太の指に舌を絡ませると、準太の舌が利央の指ごと股間を刺激する。 「ふぅ・・っん」 利央の口内で舌を弄ぶように動き回る指に、利央は翻弄される。 準太は細かく震える利央の指と滑る舌に背筋がゾクゾクした。空いた方の手で彼のジーパンに手を掛けると、利央もそれを助けて自ら下着ごと膝まで下ろした。 「勃ってる」 「あぁ・・うっ」 既に欲情の兆しを見せていた利央のそこは、硬く張り詰めて頭をもたげている。しかし準太は利央の口内から指を引き浮くと、その利央の欲望の証ではなく、双丘にそろりと指を這わせた。 間を割ってすぼまりを指で突付くと、利央の肩が怯えたように震える。それでも拒否の言葉が出なかったことをいいことに、準太は利央の唾液で濡れた指をそこにねじ込んだ。 「・・・っ」 利央の喉から、声にならない悲鳴が漏れる。準太も、強く押し返されるそこの狭さに眉根を寄せた。それでも止めるつもりは毛頭無くて、準太はシャツ越しに利央の胸元に舌を這わせる。 「ひゃあっ、あっ」 くすぐったがりの利央はその布越しの感触に少し笑ったが、その拍子に準太の指が更に奥まで潜り込んできてその笑い声はすぐに切なげに震えた吐息になった。 布に唾液を染みこませる様に何度もそこを舐め上げ、利央の身体の熱が徐々に上がっていくのを頬で感じる。ぷつりと立ち上がり始めたそのささやかな突起に軽く歯を立ててやると、高く悲鳴を上げる。 「馬鹿、下に母さんいるぞ」 顔を上げてにやりと笑みを浮かべてくる準太は、声を出すなと言いながら利央の中に埋め込んだ指を無理矢理増やした。 「い・・っ!」 強引に広げられる感覚に声を上げそうになるが、利央は階下から響くテレビの音に慌てて口を手で塞いだ。 その様を見た準太はにんまりと口角を上げて、痛みに若干萎えてしまっていた利央自身にも手を伸ばした。 「え、や、準サン、ちょっぁ」 更に声が漏れそうになることは勘弁してくれと言おうとした利央だったが、準太に数度軽く擦り上げられてすぐにそんなことは言えなくなる。 「気持ち良さそうじゃねーの?」 直接的な刺激のお陰か後ろのすぼまりも徐々に柔らいできて、準太は埋め込んだ二本の指を浅く出し入れする。そして、特に利央の肩が跳ねる一転を探り出す。 「ふ、んっ、んっ」 押し上げられるような圧迫感と、扱き上げられる摩擦の快感、そして思い出したように時折突起に立てられる歯の痛みに、利央の思考回路は痛みを訴えれば良いのか快感を追えば良いのか混乱しだす。 目元が赤く潤んで頬が上気し、手で塞いだ口元からは熱く濡れた息が漏れる。そしていつしか利央は無意識に、準太の手の平に己の欲望を擦りつける様に腰を揺らしていた。 「えろいガキ」 溢れる先走りを塗り込むように先端に爪を立てると、利央の目元から一粒涙が零れた。後孔への痛みはもう殆ど無く、利央の欲は限界まで張り詰めている。 「一度、イッとくか?」 利央は口元を指で押さえたまま、その言葉に必死で頷いた。本当なら先ほど利央がしてくれた様に口で愛撫をしてやりたかったが、体勢的に少しきつそうだったので仕方なくそのまま指で扱き上げて利央を追い詰めた。 「あ、あぁ、あ・・ィく・・っ」 しかし、追い上げられていく利央の表情を一つずつ逃さず見られたことには、非常に準太は満足した。 利央が吐きだしたそれを準太はティッシュで拭うことはせずに、既に勢いを取り戻している己自身に潤滑剤代わりに塗りつけた。 「利央」 吐精した余韻でぼんやりとしている利央を呼ぶと、彼は視線を下ろしてその先に準太の欲望を見て微かに泣きそうな顔をした。 「嫌だってのか?」 埋め込んでいた指を引き抜きながら思わず不機嫌さの滲んだ声で問うと、利央は小さく喘いだ後首を振って準太の首にすがり付いてきた。 まるで、この世に縋れるものは準太だけとでも言うような力の篭もった彼の腕に、準太は小さく自嘲気味に笑った。 これから彼を痛めつけるのは、自分なのに。せめてもの言い訳の様に、耳元で準サンと小さく呼んでくる利央の頭を撫でてやりながら、準太は呼び返してそして命じる。 「そのまま腰下ろせよ」 利央は準太の肩から顔を上げて、震える睫毛を伏せて覚悟を決めたように一つ息を落とした。 普段はたとえ先輩に対しても言いたいことをはっきりと言う利央の、こういう時の従順さが準太には堪らない。唇を噛み締めながら手入れせずとも形の綺麗な眉を顰めながら、そっと準太の欲望の上に跨ってくる利央が、愛しいと同時に酷く苛めたくなる。 「早くしろよ」 徐々に下ろそうとしていた利央の腰をしっかり掴んで、準太は強引に利央の中に己を埋め込んだ。 「あっ、や・・あ――っ」 大きく響きそうになった悲鳴は、自分の口で塞いでやった。口内で跳ねた利央の舌に歯を立てると、利央の爪が準太の肩に食い込んだ。 「てめ、爪立てんじゃねぇよ」 投手の肩に何しやがる、と睨み付けると利央はすぐに手を離して怯えたような目を向けた。 「あ、ごめ」 今涙が滲むほどに痛みを与えられているのは自分なのに、どうしてこの子供は謝るのだろうと甚だ勝手なことを考えて、準太は彼のまだ薄い胸を抱き寄せて顎に口付けた。 「冗談だよ馬鹿、しっかり捕まってろ。手加減なんざしねぇからな」 台詞と共に少し腰を揺すってやると、利央は鼻に抜ける息を漏らして準太に腕を伸ばしてきた。 利央は、いつも意地が悪くて素直じゃない準太が、突き放しておきながら自分を引き寄せるようなことをいう時が好きだった。そういう時の準太は、少しの間優しくなる。 「ていうか、お前、初めてのくせして結構余裕で飲み込んでんじゃん」 そういう事をさらりと言い放つところは変わらず意地が悪いと思うけれど、撫でるように耳朶を舐め上げられてそんなことはどうでも良くなる。 もっと、もっと、可愛がってと利央は準太にしがみ付いた。痛みも違和感も尋常ではないけれど、それでも彼の声に含まれる甘さと熱が嬉しい。 「動いていいよな?」 利央の呼吸がやや収まってきた頃を見計らって、準太は僅かに腰を揺らす。 「ん・・」 利央は小さく呻いただけで痛いとは言わず、ただ準太の目尻に口付ける。 (ほら、優しい) 自分が落ち着くまで待っていてくれたのだと思うと、利央はそれだけで何だか嬉しかった。目尻に口付けて耳元で早くと強請ると準太の肩がひくりと震えた。 「じょーとーだ、泣かしてやる」 挑発するように耳朶に舌を絡ませてきた利央に、準太は不敵に笑って腰を動かし始めた。 「あっ、あっ、う・・ぁ!」 下に準太の母親がいることを忘れてはいないようで利央は指で口を覆っていたが、それでも漏れる彼の押し殺した声と滲む涙に準太はますます欲情した。 「は、あぁ、あ、あ・・・ふっん」 ギシギシと揺れるベッドのリズムに合わせて利央の声が上がり、彼は準太の肩に頬を付けて涙を流した。そしてうわごとの様に準太を呼んで、準太はそれに答えるように彼の鎖骨のすぐ下に歯形を残した。キスマークよりも長く、そこに残ればいいと思った。 利央は長い手足をベッドに投げ出して、腹這いになっていた。スパークしていた思考回路が冷静に組み直されると、準太を受け入れていた場所が尋常ではな痛みを伴っている。 (早まったかな・・・) 準太に触れられるのも準太を受け入れること自体も、嫌ではなかった。ただ、この痛みはちょっと有り難くない。 「ねー、準サン」 準太はといえばベッドを背もたれにして床に座り、文庫本を捲っている。先ほどまでの情事の余韻は微塵もないつれない態度とも言えたが、文庫本を持っていない方の右手が利央のふくらはぎに伸びている。 「なんだよ」 利央の体温を確かめるようにしてペタペタと動き回る彼の手の動きにくすぐったさを堪えながら、利央はそもそも何故今日こんなことになったのかを思い出していた。 「本懐ってエッチのことなの?」 すると準太はゆっくりと首を巡らせて利央を見上げ、腕を引っ込めてあぁと呟いた。遠のいた準太の手の平の温度を惜しいとは思ったけれど、きっとそれを指摘するのを彼は嫌がるだろうと思ったので利央は我慢した。 「前からこうしたい、こうなりたいって思ってたことをいうんだよ。別にセックスだけをいうんじゃねぇだろうけど、付き合ってる奴らなら普通セックスのことだろ」 それだけを言って準太の目はまた文庫本に戻ってしまう。利央はふぅんと呟いて、準太の匂いがするシーツに顔を伏せた。 (付き合ってるんだってさ) きっと彼は無意識に言ったのだろうけれど、それがまた利央には嬉しかった。 そして少しした後、今度は頭に重みを感じて顔を捩ると、いつの間に移動したのか準太が少し横にずれて利央の髪に指を絡ませていた。 頬をぺたりとシーツに付けて準太の指に髪を梳かれながら斜め後ろから伺う彼の首筋に、自分が付けたのだろう紅い跡を発見して利央はまた一人で笑った。 「何笑ってんだ、気持ち悪ィ」 そう言った準太に頬を抓られたけれど、振り返った彼の目元が楽しげに笑っていたので利央も同じ様に笑い返した。 自分は利央に噛み跡を付けたくせに、準太が利央の付けたキスマークに気付いて烈火の如く怒るのは、もう少し後の話。 えー・・・彼らは何度お初を迎えるのだろう、きっとこれからも永遠にお初だよ(爆。 きっと翌日慎吾サンは利央に満面の笑みで「本懐遂げられたよ!」と報告されるんだ、そして物凄く呆れた顔で準太に「良かったな」と言うんだ。そして利央はまた準太に怒られるよ。 正直書きたかったのは、「咥えろ」の準サンでした! |