あなたと夜と音楽と(You and The Night and The Music. )







 


 竜也が瞼を持ち上げると、目の前に微笑むシゲがいた。
「おはよーさん」
 まだ窓の外は薄暗かったが、シゲはそう囁くと竜也の隣から身体を起こす。それを目で追うと、使用されなかったもう一つのベッドの皺一つ無いベッドカバーが目に入る。
「俺、もう行くわ。結構長居してもうたし」
 裸の竜也の肩に口付けて、シゲは竜也の髪を梳く。竜也は起き上がる事無くシゲを見上げ、自分がつけた噛み跡をシゲの首筋に見つけた。
「また、来年な」
 片目を瞑ってウィンクするシゲに、竜也は起き抜けで掠れる喉から言葉を紡ぐ。
「三月は?」
 髪を梳くシゲの手に自分の手の平を重ねながら尋ねると、シゲは瞠目した後で口元を歪めた。
「んー、分からんけど、多分無いかな。八月の方が大々的やろ、やっぱ」
 大々的という言葉も不適切な気もしたけれど、竜也はただ目を閉じてそうかと呟いた。
 シゲはやんわりと竜也の手を解くと、ベッドを軋ませて身を屈めて竜也に口付けてこう囁いた。
「たつぼん、幸せでいてな」
 重ねられた柔らかな他人の体温はすぐに過ぎ去り、次に竜也が瞳を開けた時、彼は独りだった。
 緩慢な動作で上体を起こし、竜也は膝に毛布を掛けながら部屋の中を見回す。
 窓際のテーブルには半分残ったワインのボトルと、飲み干された竜也のグラスとワインが一口残ったシゲのグラス。
 ベッドの下には、セロファンはぐちゃぐちゃになり茎だけが青々とした花束の残骸。
 そしてベッドには黄色い花びら。
 ベッドカバーごと毛布を引きずり裸足で絨毯に下りる。ひらひらと花びらが数枚床に落ちた。
 そのまま毛布を引きずりながら、竜也は冷たい窓ガラスに指と額を付けて、夜明けを迎えて薄白む空を窓越しに見つめながら、呟いた。


 
 あなたと夜と音楽が燃え上がる欲望でわたしを満たし、
わたしを炎そのものにしてしまう。
 あなたと夜と音楽がわたしをどきどきさせるけれど、
夜と音楽が終わってしまったらわたし達はどうなるのでしょう?



 夜は、明けた。
 昨夜一晩中降り続いた雨の音も、今は、止んだ。

 夜が終わり残ったのは、飲み残されたワインと散らされた薔薇の花束。
 二人を包んだ雨音が止んだ今聞こえるのは、彼の残した言葉の欠片。



 炎から人間へと帰った竜也の身体の奥から湧き出るのは、昨晩の温度だけはそのまま残した、二筋の涙。




 

END.









 はい、こんなオチ。
 分かりますかね?ちょっとファンタジーというかホラーというかミステリーというか、ギャグというか。
 え、ちょっとシゲさん!?と思ってくれれば良し。(笑。
 sada様、よろしければここまで含めてお納めください。「こんなオチ冗談じゃねー!」と思われましたら、忘れてください。
 皆様も、夢でも見たのだと思うことにして忘れましょう。