無事恋人同士らしいイブを終えた竜也とシゲは、翌日クリスマスに翼に呼び出しをくらった。バタバタとしたイブを過ごした二人はクリスマス当日位ゆっくりと過ごしたい気分だったのだが、他ならない翼の呼び出しとあれば、出向かないわけにはいかない。 「で?無事お初は迎えられたわけ?」 翼とその恋人である柾輝の同棲先に上がった矢先、開口一番翼はそう言った。 「何でそないなこと、報告せなあかんねん」 翼の部屋で床に腰を下ろしながら、シゲは眉根を寄せてベッドに腰掛ける彼を睨み上げる。しかし彼は全く悪びれない様子で声を上げて笑い、何か勝手に納得した様に頷いた。 「そういう強気な態度に出られるって事は、上手くいったんだ?良かったねー、俺のローション無駄にならなくて」 「・・・は?」 その言葉に反応したのは、竜也が先だった。素早く寄越された竜也の視線に、シゲはしまったとばかりに目を逸らしたがそれで翼や竜也が勘弁してくれるわけもない。 「どういうことですか、翼さん」 瞳に剣呑な光を宿して、竜也が翼に視線を移す。翼はシゲの昔からの友人だが、だからといってシゲの味方ではない。いつだって、彼は物事が面白くなればそれで良いのだ。 「そいつ、勝負どころのイブの前にローション切らしたんだってよ、手際悪いよな−。そんで、俺んトコに貰いにきたわけ。その代わりに、喧嘩頼んだんだけどさ」 その言葉を聞くうちに、竜也のこめかみには青筋が浮かび上がってくる。シゲはなるべくそれを見ないように窓の外に視線を逸らしたが、だからといって竜也のその青筋が消えてなくなるわけではない。 「シゲ、お前はまた、翼さんにそういうことを・・・」 お初を迎えたいからローションを分けてくれなんて、いくら親しい相手でも竜也なら言えたものじゃない。いや親しい相手だからこそ、そんな自分の性生活の話など恥ずかしくて話せない。 「いや、やって、たつぼんが痛い思いすんの嫌やなぁて・・・」 シゲと翼は、そういう下の話も含めて腹を割って話せる悪友である。しかし竜也はそういう話をされることを好まないことも、シゲは重々承知している。だから、彼にはばれないように翼の喧嘩を代わりに買って、内密に済ませておこうと思ったのだ。 「てめえ一人の話なら、いくらでも下品な話しても俺には関係ないけどな。俺は嫌なんだよ、そういう話を他人にされるのは!前も言ったよな!?」 竜也は目を逸らすシゲの頭を無理矢理自分の方に向かせ、そのこめかみを両手の拳で挟み込みながら耳元で怒声を響かせる。 「言いました、聞きました!!すんません!痛い、痛い、痛い!」 容赦なくこめかみに指を立てられて、シゲは悲鳴を上げる。翼はそんな二人の様子を楽しそうに眺めながら、無邪気な顔で追い討ちをかける。 「翌日だってのに、竜也元気じゃん。良かったなー、指三本まで慣らした甲斐があったよな」 「な・・・っ!」 翼のその言葉に竜也は耳まで真っ赤にして、そんなことまで話しているのかとシゲの首を締めにかかる。 「たつぼん、たつぼん、ちょ、ギブギブギブ!死ぬ、それは死ぬって!!」 必死の形相で竜也に許しを請うその様子は、ゲームセンター一つ破壊しかねないほど暴れた人物とは思えない程に情けない。 シゲがどれだけ残酷で手加減を知らない人間だったかを知っている翼としては、竜也の前だとまるで飼い犬・子犬同然になってしまうシゲが楽しくて仕方ない。 「翼、自分なあ!」 「翼さんのせいにしてんじゃねぇよ、この恥知らず!」 「痛いって!!すまんすまん、ごめんなさい!」 ギャーギャーと騒ぐ二人の声に、翼の背後にあった布団の山がもぞりと動いた。 「うるせえ・・・・」 布団の端から顔を覗かせたのは、翼の恋人である柾輝だ。どことなく疲れた顔をして眉をしかめている様子に、竜也はシゲの首を絞めながら目を丸くした。 「あ、お邪魔してます・・・。いないのかと思った」 この部屋を訪問する度に、翼がベッドでごろごろしていることはあってもその逆は見たことが無かった。だから柾輝の方がベッドに包まっているのには、シゲも驚いた。 「なんや、おったんや。いないのかと思ったわ」 言いながら、クリスマスにどちらかが不在なんてこと、このバカップルに限ってあるわけないかとシゲは内心肩をすくめる。 「珍しいやん、風邪か?」 シゲにとっても彼が昼になってもベッドに包まっているのは異例なことで、体調でも崩したのかと珍しく僅かでも心配して声をかけたが、いらないお世話だったとすぐに思い直した。 「いや、翼に搾り取られるだけ搾り取られて、疲れただけだ・・・」 「情けないよねー、俺より若いくせしてさ」 翼はカラカラと陽気に笑い、柾輝の肩を布団越しにバンバンと叩く。 「あ、そ・・・」 どうやらこの万年バカップルは、自分達よりも熱い夜を過ごしたらしい。勝手に言ってろとばかりに半眼で呻いたシゲは、未だに首に回っている竜也の手を軽く撫でた。 「ほんまに苦しいから、止めて。ごめんて、もうせえへんから」 こいつのこういう台詞は信用できないと思いながら、柾輝の前でこれ以上醜態を晒すわけにもいかないと竜也は渋々シゲの首から手を放す。 「お前ら、飯食ってくのか?」 一通りの騒ぎで目が覚めてしまったらしい柾輝は、欠伸を噛み殺しながら起き上がり、乱暴に髪を掻き毟りながら尋ねてきた。 「え、や」 ただ翼に呼び出されたから来ただけのつもりだった竜也は、騒いだ挙句に起こしてしまった柾輝にそんなことさせられないと頭を振る。翼もできないわけではないのだろうが、シゲや竜也がいる時には料理は専ら柾輝の役目だ。 「食ってく。どうせそのつもりやったんやろ?」 ところがシゲはしれっとした顔でそう答え、翼を見やる。彼はまぁなと言って笑い、冷蔵庫に酒は用意してあると付け足した。 「今日も相手させたら、こいつ死にそーだから。お前ら相手に飲んでてやった方が、親切だろ?」 指を指された柾輝はムッと眉をしかめ、翼の頭をぐしゃぐしゃと掻き回す。 「あんたが無駄に元気なんだ」 そして首筋に軽くキスを落として、柾輝はベッドから降りた。 「なんか入ってたかー?」 冷蔵庫の中身を確認しにキッチンへ向かう彼の背中を見送りながら、竜也はさすがだなと胸中で一人ごちる。 翼の髪を掻き回す仕草も首筋にキスを落とす動作も、まるで自然だった柾輝を竜也は密かに尊敬する。そして翼と軽口を叩き合うシゲを一瞥し、自分達があんな風になれるまでには、どれだけ時間がかかることかと苦笑した。 「どうかしたん?」 柾輝の背中を追っていた竜也の肩に、シゲの顎が乗せられる。いつの間にか腰に回されていた腕に竜也は笑って、何でもないと返した。 自分達も、少しずつだけれどちゃんと恋人同士になっているんだろう。シゲがそれを望んで竜也がそれを願えば、きっと来年はもっと自然に一緒にいられる。 「何二人の世界作ってんだ、バカップル」 翼の冷やかしにまだまだですよと内心で返しながら、竜也はシゲの手の甲を抓り上げた。 end. 長かった・・・・すいません・・・・・。クリスマスどころか、年越えた。 やっぱりカッコイイシゲでは終わらなかったか・・・・すいません。カッコイイシゲファンの皆様に、土下座。 半年近くかかってしまいまして、すみませんでした。気長なお付き合いありがとうございます、今後とも、こんな気紛れ運営ですがよろしくお願いいたします! |