南瓜。







 



編:じゃぁ、最近一人暮らし始めたんですか。
水:えぇまあ・・。
編:自炊してるんですか?常に冷蔵庫に入れて置いているものとかあります?バナナとか。
水:(苦笑)そうですね・・・。かぼちゃ、かな。
編:あの野菜の?なんか・・意外ですね。
水:基本的に手は不器用なんで料理は下手なんですけど、かぼちゃの煮つけだけは自分で気に入るものにできるんで・・・。まぁ、誰にでも作れるものですけどね。
編:うわぁ、食べてみたい・・ていうか見てみたいですね、料理してるところ。(笑)
水:普通ですよ。(苦笑)

 その記事を見つけたのは偶然だった。

 ピンポンピンポンピンポンピンポーーーーーンッ!
 けたたましいチャイムの音に、水野は読んでいた小説から顔を上げる。
「誰だよ・・・」
 眉間にしわを寄せながら小説にしおりを挟んで立ち上がると、玄関に向かう。そんなチャイムの押し方をしそうなチームメイトの顔を何人か浮かべながら、のぞき穴から来訪者を覗く。するとそこには・・・。
「シゲ?」
 考えてみれば、彼にぴったりの行動だったけれど、まさか京都に居るはずの彼がこんなところに居るとも思えなかったので、水野は驚嘆の声を上げながら玄関のチェーンをはずす。
「なんだよ、おま・・・」
 言いかけた水野を押しのけて、シゲは無言で水野の部屋へ上がりこんで行く。
「ちょっ・・おい!」
 水野が慌てて後を追うと、シゲはキッチンの冷蔵庫を開けてしゃがみこんでいた。水野は彼の行動がまったく理解できず、やや乱暴にシゲの鼻先で冷蔵庫の扉を閉めた。
「何なんだお前はっ」
 水野が呆れ声で問いかけると、シゲはぼそりと、
「ほんまにあるし・・・」
「はぁ?」
 わけが分からず首を傾げる水野に、シゲはさらに、
「かぼちゃの煮つけ・・・」
 と呟いた。

 かちゃんっ、とやや乱暴にコーヒーのカップを置いて、水野はシゲの向かい側に座った。そしてシゲが持ってきた雑誌をぱらぱらとめくる。それは数週間前に水野が受けたインタビューの記事が載っている雑誌だった。
「これが?」
 水野は黙々とコーヒーをすするシゲに問いかける。それは何の変哲もない雑誌のインタビューで、シゲの奇行とどう関係するのか水野には分からない。
「いつの間に作るようになったん?」
「何を」
「かぼちゃ」
 どうやらシゲはそれにこだわっているらしい。しかしその理由がまったく分からない。
「一人暮らし始めてからだよ。ったく、何なんだよお前。何が言いたくてしたくてここに来たんだ?」
 雑誌を閉じてテーブルの上に放り投げる水野。シゲは憮然とした表情で面白くなさそうに言った。
「何で俺が知らないん?」
 シゲの言っている意味が分からなくて、水野は返答に困る。シゲは苛立つように繰り返した。
「何で、たつぼんがかぼちゃの煮つけをマスターしてんのを俺が知らないん?」
「・・・・言ってないからだろ」
 至極当然の答えである。しかしシゲのお気には召さなかったらしい。
「何で言わへんかったん?」
「・・・・・」
 水野にもやっとシゲが不機嫌そうにしている理由が分かってきた。分かってきたが、理解できない。どうやら、水野がかぼちゃの煮つけを作るようになったことを知らなかったのが不満らしいのだが、それにしても・・・。
「言うか・・・?普通・・。初めて料理した小学生低学年じゃあるまいし、『かぼちゃの煮つけがうまくできたんだ』て、わざわざ報告するようなことか?」
 それはそうだ。そんなことする奴がいたら、それこそ会ってみたい。
 シゲも水野の言い分がまっとうであることは分かっているのだろう。まるで拗ねたように目を逸らす。
「せやかて、最近全然会われへんのやもん。ちょっとした変化も知りたいいう俺のかーいらしー心がわからんの?」
 言いながら胸を押さえるシゲに、水野はただ呆れるばかり。
「仕方ないだろ、試合が無い限りお前京都で俺東京なんだから。つか可愛らしいてなんだよ、はたち二十歳過ぎた男が気色悪い・・・」
「うわ酷っっっ。シゲちゃんのガラスのはぁとは粉々やで今っ。それが遠路はるばる会いに来た恋人への言葉なん!?自分!」
「たかがかぼちゃの話しに遠路はるばる来るなよ、お前・・・」
 水野が半眼で呻くと、シゲは本格的に拗ねだしてクッションを抱きかかえて顔を埋めてしまう。
「へ〜へ〜、すいませんでしたぁ。どうせどんな理由つけても会いたい思てたんは、俺だけですよ〜。たつぼんは相変わらずたつぼんなんやもんな〜・・、俺なんぞに十年だって会わへんくてもぜぇんぜぇん構へんのやろ、ど・お・せ。あー冷た」
 始末に終えないシゲの態度に、水野は思わず額を押さえる。そして大きく嘆息すると、
「お前明日練習は?」
「午後から」
 シゲはクッションを抱えたまま、横目でちらりと水野を見る。どうやら水野が言い出しそうなことに見当がついているらしい。というか、最初からそれを見越して今日来たのだろう。十年近く付き合っていれば、相手の行動パターンも読めて当然といえば当然なんだろうけれど、その思惑通りのことを口にしてしまう自分が、水野は少し悔しかった。
「それなら午前中に根性で帰れば間に合うな、つか間に合わせろ」
 シゲの瞳が笑う。
「何で?」
 水野は相変わらずたち性質の悪すぎる恋人に、心中で大いに嘆息しながらも観念する。
「南瓜の煮つけ、食ってみたくないのか?」
 それでも唯一の抵抗のようにそういう言い方をする水野に、シゲはクッションから顔を上げて、あまりお目にかかれない無邪気な笑みを浮かべた。
「食べたい」














自分がかぼちゃの煮つけを作っている時に浮かんだ話。
『私でも作れるんだから、ぼんにだって作れるんじゃないか?』と思って・・。
シゲのへたれっぷりがぶらぼぉ。笑。
ギャグでしかない話なので、タイトルもまぁそのままで。他につけようもないし・・。