天国の夢はもう見ない。    9.







「え・・・?」
 水野は、力の抜けきった視線をシゲに向ける。
「・・・多分、前よりは力入ってへん分、痛くない思うんやけど・・」
 シゲは既に暴発寸前の己をあてがいながら、水野の前髪を掻き上げた。
 ええ?と無言で尋ねてくるシゲに、水野も無言で頷いた。
 シゲは身を屈めて水野の唇にキスをする。すると水野は力の入らない腕で、シゲの 首に手を回してくれた。
「多分、後ろからのが痛くないとは思うんやけどな?」
 シゲが苦笑すると、水野は緩く首を振る。
「あれ、やだ・・。かお、見えない」
 水野の額に光る汗と、目尻に溜まる涙が可愛くて、シゲは深く頷いて足を抱えなお した。
「息吐いて、力抜いてな・・」
 散々焦らされた跡に達したばかりで、まだちゃんと力の入らないことが幸いしたの か、水野のそこは前よりも素直にシゲを飲み込もうとした。
「・・・っ・・ぁ・・・ふ」  それでも苦しそうに喘ぐ水野だったが、必死で息を吐いてシゲを受け入れようとす る。
 シゲが散々水野を焦らしたのも、水野が余計な力を入れる余力を奪うためだった。 それはイコール、水野の身体への負担を減らそうとしてくれたからだろう。
 最初の宣言通り、気持ち良くするためだけに抱こうとしてる。決して傷つけるため ではない、水野を試すためでもない。
 ただ、欲しがってくれている、好きだと伝えようとしてくれている。
 ぐぐ・・・と入り込むシゲの質量と、さすがにきついのか眉をしかめるシゲに、水 野は必死でシゲにしがみついて背中に爪を立てた。
「あ・・・っう・・!」
 最初のくびれまで収めきったシゲは、その後は一気に水野の奥まで身を進めた。
「あ・・・ぁ」
「う・・・・・あ、す、ご・・」
 シゲが一旦大きく息を吐いて、水野に体重を預けてくる。
 水野は自然に腰を不自然に上げる体制にされて苦しいけれど、それでも泣きそうに なったのは苦しさからではない。
「たつぼん、分かる・・?俺の・・」
「あっ。い・・った」
 緩く動かされて、まだ慣れずに痛みを感じて水野は微かに悲鳴を上げる。
 シゲはそのまま緩く動かしながら、水野の中がシゲに慣れてくるまでただ待った。
 水野の中が、まるでシゲを審査するように蠢いてくる。受け入れていいものなの か、調べられているような感覚に、シゲはそれだけで達しそうになった。
「たつ、や・・」
 シゲが少し顔を上げて水野を覗き込めば、水野は目尻を朱に染めながら、ただ頷い た。
 動いても大丈夫だと、そう言ってくれていることを察したシゲは、身体を起こすと 徐々に腰を揺らした。
「うっ、あっ・・ぁ!ひ・・っく」
 シゲが出て行くときには、中身を持っていかれそうになる。シゲが入ってくるとき には、何かを押し上げられる気がする。秘孔はひきつれるように痛む。
「くぅ・・あ」
 水野の狭さに、シゲも呻く。まるで食い千切られそうだ。
 それでも何度か抽送を繰り返すうちに、萎縮していた水野の性器も心なしか勃ち上 がってきて、ただ締め付けるようだった水野の内壁が柔らかくシゲを包み始めた。
「ふ・・うぅ・・ん」
 それに伴って、水野の声も甘くなってくる。
 シゲは、勃ち上がってきた水野の性器に指を絡めて、自分の突き上げに合わせてそ れを擦り上げてやる。
「あぁ・・っん!」
 水野の性器はすぐに復活してきて、シゲの指をまた先走りで濡らす。
「痛い・・?」
 ストロークを段々長くしながら、シゲは水野にそっと尋ねる。
 水野はシゲの背中に腕を回したまま、性器への刺激に腰を揺らし始めていた。
「ん・・・っん。へい、き・・・」
 シゲは水野が痛みを感じないように気をつけながら、話に聞いたことのある男の性 感帯を探る。
「う・・んっ、んぁ・・っ。・・・・・・あぁっ!?」
 眉をしかめて痛みに近い感覚に耐えていた水野が、突然足の指をきゅうっと丸めて 背筋を反らせた。
「ここ?」
「ぃあ・・っ!?」
 その瞬間の場所を忘れないうちにもう一度シゲが責めれば、水野は確かに快感に濡 れた嬌声を上げた。
「ここ、やね?」
「や、や・・っあ!そこ、いや・・っへん・・・・ん!」
 まるで内面から性器を擦られてるような、いやそれよりも遥かに強い快感が、水野 の尾骶骨から脳髄までを突き抜けた。
「はぁああっん・・・!」
 シゲがそこを突くと、水野の性器がぱんぱんに膨れてくる。
「よさそう、やね・・っ」
 明らかに収縮してシゲに絡み付いてきた内壁と、白い喉を晒して声を上げる竜也に 目を細めて、シゲは更に強く腰を使う。
「ふあ・・っあっ、あっ・・や・・!や・・だっぁ・・・」
 女ほどではないにしろ、水野の秘孔も潤んできて、更にはそこに溢れる先走りが加 わり、シゲの下腹部と水野の太股が濡れる。
 更には抜き差しされる度に、中で快感を貪るシゲの先走りが溢れてきて、畳に濃い 染みを作る。
「あっぁっ、あっ、ふ・・・ぇ・・うっ」
「う、あっ・・あ、たつ・・っく」
 シゲの膝が畳みに擦れる。水野の背中が畳みに押し付けられる。
 そんなこと、どうでも良かった。
 その跡が、残ればいい。ずっと。
「たつ・・ぼん・・・っ」
 全身を汗で濡らす水野をきつく抱きしめれば、水野も同じだけの強さでしがみつい てくる。
 過呼吸のように口を大きく開ける水野に、シゲはその呼吸さえ奪うつもりで唇を重 ねる。
 二人の口端から唾液が溢れて顎が濡れる。シゲと水野の腹の間で、すっかり育った 水野が擦られて、水野は全身を震わせる。
「あっ・・シ、ゲ・・!」  透明な糸を引きながら角度を変える間に、水野が息を継ぎながら、シゲにだけ聞こ えるような囁きを漏らした。
「す、き・・かも・・・っ」
 不覚にも、泣きそうになった。
「・・・・っっ」
 言葉に詰まって、呼吸が出来なくなって、シゲはそのまま水野に口付ける。
 ぱんぱんと音を立てる下半身も、呼吸の合間さえ惜しむこの口も、全て溶けて一つ になれるような気がした。
「シゲ、シゲ・・・っ」
 追い詰められるように中を掻き回されて、水野は脚をシゲの腰に絡める。
「もう、も・・・っ」
「う・・・っあ!」
 ほぼ同時に、二人は果てた。

   やっぱり跡になった水野の背中を撫でて、シゲは微笑していた。
 狭い布団に二人で横になって、シゲは水野の背中を眺める。水野の肩は規則正しく 上下していて、水野の眠りが深いことを教えてくれる。
(そら、そーか・・)
 水野の身体には、かなりな負担だったことだろう。それでも、寝息が穏かなことが シゲには救いだった。
 青く燃え盛る瞳で見つめられたとき、確かに身の内からゾクゾクするものを感じた けれど、今日の水野もかなりゾクゾクきた。
 白い肌を赤く染めて、ただ自分に縋ってくる。
 あれも、隠された水野なのだ。
 それに気付いてシゲの笑みはますます深くなる。
 水野を怒らせて、あの青い炎で身を焼かれたい、でも、あの赤く紅潮して汗ばんだ 肌で、抱きついても貰いたい。
 憎まれたくて、でも許して欲しくて、全てさらけ出して、全部受け止めて。
 こんな身勝手な想いは恋じゃない、愛なんて分からない。
 でも、友情でもない。
 ただ、水野が欲しい。どんな水野も欲しい。
(好きやで)
 それを何て伝えたら良いのか分からないから、水野の寝顔にはそう囁くしか出来な いけど。
 水野が言ってくれた『好きかもしれない』が本当に嬉しかった。
「好きや」
 シゲは無邪気に笑って水野の背中に唇を落とす。
 そして、そのまま目を閉じた。



 
 恋情じゃない、愛情じゃない。  友情でもない。  これは、きっと。  激情だ。




   水野はそっと目を開けて、背後に感じるシゲの寝息に苦笑した。
(仕方無いよな)
 気付いてしまったのだから。
 この、身勝手で身勝手で傲慢な男に、一年前からずっと捕まっているのだと。
 そうじゃなきゃ、こんなこと、許すはずが無い。
 気付いてしまった。
 シゲとの関係が終わったりしなくて良かったと、思っている自分に。
 嬉しい、と感じている自分に。
 暫くそんなこと言ってやらないけれど。
















 長かった、長かった、長かった!!
 何気に最長ですよ、これ!表も裏も合わせて!凄い・・・。さすが「お初」。
 というか、「お初に至るまでの話」て感じ・・・?

   色々とまだ未開発な感じのセックスシーンは楽しかったです。水野の胸元もまだな のね!みたいな。笑。
 シゲは最後まで不安定だったなぁ。
 サドでマゾでへタレで優しくて身勝手で我侭で尽くしタイプ・・・・?わけわか め。

 諸々反省点は多いのですが、一文でも楽しんでいただければ幸いです〜。
 山田様、遅くなりましてすみません。
 こんなものに成り果てましたが、それでも良ければ貰ってやってください・・・ ・。

 リクエストありがとうございました!

注:当時掲載してた中では、最長の話でした。