愛していると叫んで見せろ。







 生きていく上での三大欲求。
 食欲と睡眠欲と性欲。

 じゃあ、君と恋愛する上での三大欲求は何だと思う?


 0.at Musashinomori highscool
   ―確実に空いた距離はどうにもこうにも―

 部活が終わり、竜也は倦怠感に包まれながら寮に戻って来た。すっかり馴染んだ廊下に足音を響かせ、慣れるまでは入る前に必ず確認していた自分の名前の入ったプレートを、今はもう確認することなく扉を開く。
「ただいま」
 これまでの人生でこの言葉を告げずに帰ったことが無かったから、何となくいつも口から出てしまう。それに答えるのは、同室になってみれば案外嫌悪するほどでもなく、今日は自分より先に戻って行った間宮な筈だったのに。
「「おかえりー」」
 聞こえたのは、今日は具合が悪いと言って部活を休んだ筈の藤代誠二とこの場にいるはずの無い藤村成樹の声だった。
「・・・・・・・・・・・何してんの」
 間宮も当然部屋にはいたけれど、ゲーム機を繋いだテレビに向かう二人に背を向けて机に向かっていた。その上には水槽が置いてあるので、恐らくペットとして持ち込んでいるトカゲに餌でもやっているのだろう。
「遊びに来たんにたつぼん部活やから、ふらふらしとったら藤代に会うた」
 藤代が以前持って来た格闘ゲームをしていたらしく、画面の中では二人のキャラクターが対峙した格好で止まっている。
「何でゲームを持ち込んでわざわざここで遊んでんだとか、シゲお前の学校はとか、色々言いたいことはあるんだがな・・」
 荷物を肩から下ろして自分の机脇に置き、竜也は軽くこめかみを抑えてからシゲでは無く藤代に向き直る。
「藤代!お前具合悪いって休んだんだろーがっ。仮病か!?」
 普段下がり気味の眦を吊り上げて怒鳴る竜也に、藤代はコントローラーを床に落として両手と首をふるふると激しく振る。
「違うって、マジで熱っぽかったの!今もそうだって!!」
 決してサボリではないと主張すると竜也の手の平が藤代の額に当てられて、竜也の表情はますます険しくなった。
「だったらこんなとこでこんな奴と遊んでないで、さっさと寝てろ!悪化したらどうすんだ!」
 扉を指して怒鳴る竜也に、藤代の相好が嬉しそうに崩れた。竜也がこんな風に怒鳴るは、自分のことを心配してくれているからだと、授業の成績はともかくそれ以外では中々聡い彼は簡単に気付く。
「はーい」
 素直にそう返事をして立ち上がる藤代に、シゲが低い声でお大事にーと呟いた。それを見下ろして藤代はにぃっと悪戯好きの子供の様な笑みを浮かべて、またなと軽く手を上げて部屋を出て行った。
「ったく・・」
 閉じた扉の方に向かって呆れたように嘆息して、藤代が放り出したコントローラーを拾い上げる竜也の脇で、間宮がおもむろに立ち上がる。どうしたんだと竜也が視線を向けると、間宮はシゲを見下ろしてふんと鼻を鳴らした。
「どうせ泊まるんだろ、別のトコで寝る」
 確かにこの時間だとシゲが帰れないのは明白で、それならこっそりここに泊まるしかないのだけれど、何だか追い出すみたいで竜也は間宮に苦笑した。
 心苦しく思うのはシゲであるべきなのに、どうして自分がこんなに罪悪感を感じるんだと少々腹立たしく思いながら、へらへらと間宮を見送るシゲを軽く睨みつけてやった。


 1.possession
   ―君が誰のものだとか、そんなことを言いたいんではないけれど―

 間宮が出て行ってから、シゲはのろのろとゲームを片付けた。といっても、適当に部屋の隅に追いやっただけだけれど。そして不機嫌そうに睨み付けて来る竜也に向かって小さくて招きをする。
「お前、学校は」
 珍しく素直に近付いてくる竜也の手を取って、床に座り込んだまま蛍光灯を背にして逆行になるその茶色い瞳を見つめる。
「夏の体育祭、その後学校祭。単位に関係無いから休んでみた」
 さらりと言ってへらりと笑うシゲに反して、竜也はの表情はみるみる内に険しくなる。深く刻まれる眉間の皺を見ながら、シゲはどこかで安心している自分に気付いた。
「真面目になったかと思ってたのに・・・」
「無理やねぇ、そないなシゲちゃん気持ち悪いわ」
 呆れるように溜息を吐く竜也に追い討ちをかけるように言ってやれば、べちと軽く頭を叩かれる。
「馬鹿か。髪も、いつまでそんな色にしてんだよ」
 変なところでマメだなと言いながら根元まできちんと金髪のその髪を軽く梳き、シゲはその心地良さに目を細めて竜也の手を取って軽く引いてみた。
 とすんとシゲの眼前にしゃがみこんで、竜也がシゲを覗き込んでくる。久しぶりだな、と思いながらその頬に指を滑らせれば、竜也は大人しく目を閉じた。
 その瞼に口付けを落として、頭を抱え込んで肩に押し付ける。
「たつぼんかて、相変わらずやね」
 シゲが言外に含めた色を珍しく汲み取ったのか、竜也がくぐもった声で、
「何か怒ってんの」
 そう尋ねてきた。
 シゲの声に滲んだ感情を読み取ることは出来るようになっても根本的なところで鈍いのは変らなくて、シゲはそっけなく答える。
「自分、結構世話好きやろ」
 自分の質問と全くかけ離れた返答をされたと思ったのか、腕を緩めると竜也が肩に頭を預けたまま首を曲げてシゲに視線を向けるのを感じた。
 近すぎてその瞳を覗く事は叶わずに、シゲは首筋に掛かる竜也の穏かな吐息だけを感じた。
「昔は俺によく言うてたやん。夜遊びはするな早く寝ろ、遅刻するな、真面目にやれ」
 昔、と言ってもそう遠い昔ではない筈だがやけに遠くに感じる日々に竜也に言われてきた台詞の数々は、今思い出すと酷くくすぐったかった。
「風邪引くな、怪我するな、具合悪いなら無理してんな、自己管理位しろ」
 出会って間もない頃は、言われるのが凄く鬱陶しく感じたことがあった。けれど、良くも悪くも人見知り気味のこの竜也がそうまでして口煩いのは、自分を好いていてくれてるからこそだと気付いてからは、そうして言われる度に彼の意識に自分が深く食い込んでいると思い知らされるようで嬉しかった。
「今は、藤代?」
 けれど、何もそれは自分に対してだけのことではないとも、気付いていた。
 竜也は一度親しくなってしまえば、限りなく相手を大事にする。ただ感情表現が下手なのでまるで怒っているようになってしまうことが殆どの場合だけれど、それが心配からくるものだと気付いた人間は、普段は冷静に見えるこの綺麗な彼にそうして言われることが嬉しくなるのだ。
「あいつ、お前に似てんだよ。無鉄砲なトコとか無茶なトコとか、勝手なトコとかさ」
 分かっていたことだけれど、それでも、藤代にかつての自分への様に言葉をかける竜也や今嬉しそうに話す竜也を見て、それをわだかまり無く納得してしまえるかと言われれば別問題。
「俺やなくてもえーんや」
 つい、そんなことを言ってしまう。
 竜也の頭の重みが肩から離れていく。移動する空気を感じて視線を流せば、目の前に口をへの字に曲げる竜也の顔。
「何がだよ」
 少し拗ねた様なその表情を可愛いなぁと思うけれど、それで大人しくなってくれる感情でもなくて。
「久しぶりやから、我侭言わせて?」
 シゲが強請るように甘えた口調で言ってみると、竜也は口をへの字にしたまま怪訝そうに眉根を寄せた。
「何」
 その頬に指先で触れ、今度は瞼でなく唇にキスをしながらシゲは竜也の口内に息を滑り込ませる。
「俺だけって言うて?」
 舌でぺろりと唇を舐め上げてから竜也の表情が分かる位置まで離れると、竜也の目尻が赤く染まっていくのが見えた。  それに気分を良くしたシゲは、尚も促すように唇を舐めてみる。
「俺だけが好きて、言うて?」
 竜也は覗き込んでくるシゲの瞳の色の深さに眩暈がしそうになった。
 ここは学校の寮で、皆が実家に帰ったりする休日でもなくて、でも目の前に久しぶりに会ったシゲがいて、今はもう夕方も過ぎた時間で。
「妬いたのか?」
 ようやくその可能性に気付いて、竜也ははんなりと頬を染めて笑った。そして、今さっき頭をよぎった自分の今の状況の前二つを綺麗に無視する事にして、竜也はほんの少し身を乗り出してシゲにキスをした。
「お前だけだよ」
 触れるだけのキスの後に竜也が目を開けてみれば、珍しく早くも目元を赤く染めたシゲが手を伸ばしてきた。
 腰に絡んでくる腕を振り解くことはせずに、竜也は付け足した。
 藤代が単なる竜也の友人の一人でしかなく、シゲはそれとは全く違う位置に居るということをきっと本人でも分かってる筈なのだろうけれど、それを分かった上で尚且つシゲが妬いたという事実が、竜也には無性に嬉しかった。
 会っていなかった分だけその想いが磨耗することは無かったのだと、言葉よりも明確にそれを示してくれた。だから、何時も以上に素直な言葉が喉奥から競り上がってきた。
「お前だけが、好きだよ。・・・・・会いたかった」
「俺も、お前だけが好きで、お前に会いたかったわ」
 そして合わさる唇で、互いの体温が溶けた。


   2.conquest
    ―動物的な本能は存在するもので―

「ん、ふ・・・」
 久々に口内に差し入れられる他人の舌の感触に、竜也は夢中でそれを追った。重なった唇の端でシゲが笑ったのが分かったが、そんなことに一々文句も言ってられない。
 何しろ、毎日会っていた頃に比べれば信じられないほど久しぶりなのだ。顔も声も腕も。呼吸すら。
 その全てを補充したくて、一旦触れてしまえばどれだけ焦がれていたのか嫌になるほど自覚して、竜也はシゲの首に腕を絡めた。
「たつぼん、積極的なトコ悪いんやけど・・」
 透明な唾液が二人の間で糸になって蛍光灯の下で光る。既に息の上がってきた竜也に苦笑して、シゲはごめんなと腰を上げた。
「シゲ?」
 竜也が不満げにシゲを呼ぶと、シゲはニヤリと笑いながら戸口に立った。カチャリ、と後ろ手に閉められた鍵の音が竜也の耳に、何かの合図の様に淫靡に響く。
 シゲはそのまま竜也の使っている下段のベッドに腰掛けて、竜也のあごに手を掛けた。
「してくれる?」
 何を、なんてお互いに言わなくても十分分かっていた。分かっていたけれど、中学の頃より髪を短く切ったシゲの声は一層低く艶を持っていてどことなく男っぽさが増し、初めてではない筈のその行為に竜也は酷く心臓が鳴った。
 まるで初めて寝た時みたいだと変に指が震えそうになりながら、竜也はシゲの脚の間にぺたんと座り込んでそのズボンのチャックに触れた。
 まだ完全な興奮の兆しは見せていないシゲの性器は、竜也の手が触れた瞬間にふるりと震えたようだった。
「あー、たつぼんの指、気持ちええ・・・」
 そのまま軽く扱いてやると、頭上からシゲの濡れた息が落ちてくる。その熱い息が頭にかかって、竜也は己の制服の中がきつくなってくるのを感じた。
「たつぼんて言うな、て。萎える」
 そして上目遣いにシゲを見てやれば、シゲが一瞬瞠目した後に困ったように苦笑した。その表情に気を良くした竜也は、そのまま先走りを滴らせ始めたシゲの性器を口に含んだ。
「っ・・竜也・・・」
 口内に広がる青苦さを堪えてシゲの性器に舌を這わせると、シゲが掠れた声でそう呼んだ。
「・・ん、気持ちいい?」
 根元を指で扱きながら先っぽを吸い上げてやると、殆ど吐息だけの声で、
「あぁ、ええわ・・」
 そう囁かれて、竜也の背筋がぞくぞくと粟立った。
 こいつまたいい男になったなと、中学時代から思ってるだけで一度も口にしたことないことを考えながら、竜也は必死で怒張していくシゲの性器を咥え込む。
「やば、あかん、かも・・っ」
「むぅ・・っ」
 シゲの性器が限界を訴え、竜也はいきなり顔を引き剥がされた。ぴしゃ、と竜也の上気した頬にシゲの白濁した液体がかかる。
 竜也はそのまま瞼を閉じてそれを受け、シゲが大きく息を吐き出したと同時に目を開けた。
「竜也、おま・・・」
 そのまま頬に指を滑らせて、べたつくシゲの精液をわざと見せ付けるように舌で舐め取った。その余りの卑猥な行動に、シゲが目をむいて言葉を失う。
 くつろげられたままのシゲのズボンの股の間で、力を失った筈の性器がまた反応しかけるのを見て竜也は笑った。
「俺だけ、だろ?」
 竜也の愛撫で高まって、竜也の顔に吐き出して、竜也の喉に嚥下されていく苦いシゲの劣情の証。それはシゲを興奮させたのは自分だという酩酊した様な勝利感を竜也に与えてくれた。
「あーもー・・っ」
 シゲはガシガシと乱暴に頭を掻いて、頬に付いた精液を拭っていた竜也の腕を引いた。
「また淫乱になったんやないの!?」
 ベッドヘッドにあるティッシュ箱から何枚か取って竜也の頬の残滓を拭き取りながら、シゲは何だか敗北感を感じていた。
「失礼な奴だな」
 乱暴に拭われるままに任せて、竜也は楽しそうに笑う。その瞳は昔から情事にのみ竜也がシゲに見せていた以上のいやらしい色に潤んでいて、離れていたのなんて数ヶ月にしか及ばないのにこの色香の増しっぷりは反則だろうと、シゲはティッシュを適当に丸めて捨てて噛み付くようにキスをした。
「は・・んぅ」
 自分の放ったものの苦味なんて感じたくは無かったけれど、舌の根を吸い上げるように愛撫してやると竜也がベッドに上がって下肢を擦り付けてきたので、シゲはその性器を太股で刺激してやった。
「あっ・・あっ」
 布越しに何度か擦り上げてやると、竜也はもどかしそうに身を捩る。
「脱がへんの?」
 離れた唇を耳元に持って行って囁いてやると、竜也は一瞬のためらいを見せた後、自ら制服のズボンを脱ぎ捨てた。
 パサ、と竜也の制服が床に落ちる音を聞いて、シゲは竜也をベッドに押し倒した。そしてその素足の間に身体を割り込ませると、竜也の膝が微かに震えた。
「期待しとる?」
 からかう様に笑うと、竜也は耳まで赤く染めながら、
「うるせ」
 と呟いた。
 そうして恥らったかと思えば、竜也はまるでその意趣返しの様にさらっとシゲに聞いてきた。
「お前、持ってきてんの?コンドーム」
「勿論」
 今更その変貌ぶりにためらったりしないシゲは、ズボンの後ろポケットから財布を取り出して中からコンドームを取り出した。
「用意のいい奴・・・でも、いらない」
 歯で噛み切って開けようとしたシゲに、竜也はその筋肉の付いた胸板を触りながら告げた。
「は?」
 何で?まさか最後までしないつもりか?と幾分焦ったシゲに、竜也は再度照れたように視線を逸らした。
「ここ、シャワー付いてるから・・・・」
 シゲは胸に置かれた竜也の腕を取って、その指先を口に含んだ。
「・・っ」
 ねっとりとした舌が竜也の指の根元までをしゃぶり、シゲはそこに歯を立てながら口端で笑った。
「中に、出して欲しいん?」
 竜也の腹筋がぴくんと揺れたのが、捲り上がったワイシャツの裾から覗いて見えた。気付けば室内はまだ電気がついたままで、竜也の日焼けのしにくい肌が薄らと桃色になっているのがよく分かった。
「なぁ、中に、俺のかけて欲しい?」
 違う指を咥え直しながら片手で膝を撫で上げると、竜也は堪らない様子で腕を交差させて顔を隠してふるふると首を振った。
「ふ・・。まぁ、ええよ。せやったら、望みどおりにな」
 ポトリ、と竜也の頭の真横に噛み千切られかけたコンドームが落とされる。それを視界の端で追いながら、竜也はシゲがベッド下の荷物から何かを取り出す音を聞いていた。
「久しぶりやから、ちょお我慢してな」
「・・っあ、なに・・っ?」
 脚の間からシゲの体温が遠ざかったと思うと、すぐにトロリとした冷たいものが竜也の下肢に零された。
「ローション。処女対応やろ?今日は。ここ、また硬くなってもーてるし」
 ぬるりとローションを絡ませたシゲの指が、竜也の蕾を突付く。それだけで、竜也の脚に力が篭もった。
 覚えているシゲの熱と今湧き上がってくる新しい自分の熱が、どうしようもなく竜也を煽り、竜也の性器はますます興奮を示していく。
「ふ・・う」
 入り口に塗り込める様にローションを慣らし、シゲの指が竜也の中に侵入してくる。全身が粟立つようなその侵される感触に、竜也はその奥にある快感を思って鼻にかかった息を漏らした。
「辛くない?」
「ん、平気・・・」
 本当は少し辛かったけれど、自分の身体は確かにシゲの与えてくれる快感を覚えていて、それを求めて淫らに蠢き始める最奥の熱と、異物の侵入を阻もうとする蕾のじれったさに竜也は腰をうねらせて目尻から涙を零した。
「シゲ、はやく・・・」
 シゲの指が三本に増やされたのと同時に、竜也の口から思わず強請る言葉が漏れた。
「ん、俺ももう我慢きかんわ」
 目の前で息を上げていく竜也の表情と、額に張り付く髪の毛と誘うように絡められる脚と、その全てに欲情して、シゲはすっかり猛りきった性器を竜也の蕾に当てあがった。
「あ、あ、あ、あぁああ・・っ」
 極力声を抑えようとして苦しげに歪んだ竜也の声が、シゲの聴覚を刺激した。
「さすが今日は処女仕様?よく締まる・・わ!」
 全てを収めきったシゲはそのまま竜也の呼吸が整うのを待つ余裕も無く、竜也の中を掻き回す様にして動き始める。
「う、ア、あ、あぁ、あぁ・・あ、は・・」
 竜也は初め苦しげに呻いていたがすぐにその表情には恍惚としたものが混じり、竜也の腰を支えるシゲの腕に爪を立てた。
「っつ・・。何、竜也、そないに、ええ・・っ?」
 竜也の膝を深く折って殆ど乗り上げる格好で攻めてやると、竜也は喉を引きつらせて頷いた。
「いい、いい・・っ。シ、ゲ・・ぁ」
「俺も、めっちゃ、ええ・・あぁ・・・、サイコーっ・・」
 そしてキス。一つになってるように快感を分け合いながら、それでも侵入してくる互いの舌が自分は一人で愉しんでいるのではないと教えてくれる。
「竜也、最後、どないして欲しい・・っ?」
 もう互いに限界が近くなった頃、シゲが竜也にそう囁いた。ついでに耳朶を舐め上げられて、竜也はぶるりと背筋を震わせる。
「や・・おま・・っ」
 さっきしつこく聞かなかったのはこのためか、と竜也は恨みがましくシゲを睨みつけてやるが、シゲは額に汗を浮かべながら苦しそうに眉根を寄せつつも笑った。
「なぁ、コンドームも着けさせへんで、男咥え込んで・・っ、ほんで、最後は、どないして欲しい・・ってっ?」
 笑いながら腰を打ち付けてくる男に、竜也はしがみ付きながらそれでも嫌だと言うように首を振る。
「言って?・・竜也のために、抜いてイこか?な・・っ」
「あ、や・・っ」
 言いながら抜いてしまう動作をしたシゲを、竜也は無意識に全身で引きとめる。
「ほら、言うて?」
 くすくすと情事の吐息混じりに笑うシゲに、竜也は物凄く面白くない気がするけれど、彼が出て行ってしまうことを全身で引き止めた自覚は勿論あるので。
 竜也はシゲの肩口から顔を上げ、自ら舌を絡ませるキスをしてからシゲにだけ聞こえるように囁いた。
「俺の中で、イって・・・」
「もう一声」
「おま・・っ」
 赤く熟れた唇をぺろりと舐め上げてシゲが強請ると、竜也は目を真っ赤にして生理的な涙をそこに浮かべながらシゲを睨みつけたが、人の悪い笑みを浮かべるシゲにすぐに白旗を揚げた。
「俺の中に、一杯かけて・・っ!」
 どうだこれで満足かと半ば自棄になってシゲの肩に噛み付くと、シゲは嬉しそうに、うん、と応えてそれ以上に行動で応えてくれた。
「ア、ア、ア、ア・・・―――!!」
「・・う・・・あ・・っ!」
 最後まで一気に駆け上った竜也は、自分でも知らない自分の奥深くに数ヶ月ぶりのシゲの熱を迎え入れた事に愉悦の涙を零し、シゲは竜也の奥深くに己の熱を注ぎ込んだ事に信じられないくらいの快感を感じた。


   3.touch
   ―押えがたくて押えたくなくて、押えて欲しくない―

 シャワーを浴びてシーツを引き剥がしたベッドに転がって、竜也は背後からシゲに抱き締められていた。
「あぁ、ええなぁ・・・」
「何が?」
 高校生男子が二人で寝るには狭すぎるベッドなので、きっと後でシゲは上に上るか床に下りるかしなければ眠れないだろうけれど、竜也の腹で組まれている指は全く解ける様子が無いので、竜也は大人しくシゲが竜也の髪に鼻を擦り付けてくるのを黙っている。
「こうやってると、俺たつぼんのこと好きやなーって思うねん」
 言いながら更にぎゅーっと腕に力を込められて、竜也は苦しいってと苦笑する。何だか上機嫌のシゲに影響されたのか、竜也も何だか酷く甘ったるくて幸せな気がしていた。
「何だよ、急に」
 竜也の苦しそうな声に気付いたのか幾分力を緩めながら、シゲはやってなぁ・・と続けた。
「ぶっちゃけた話するとな、別に好きな相手限定や無くても勃つもんは勃つやんか。ビデオでも本でも。そら、一番ええのは本人やけど」
 シゲの言うことは一男性として分かるので、竜也はただ首を縦に振って応えておく。
「せやけど、好きな相手にだけやんか。こないな風に、ただ触りたいなーて思うん。セックスになってもならなくてもええから、ただ触りたいなーて思う時があるんは、俺は好きな相手だけやから」
 だから今、ものごっつ恋人気分や。
 うっとりした様に呟いたシゲの告白に、竜也は頬が熱くなるのが分かる。
 竜也も正直男のサガとして、恋人がいようがいまいがエロ本をオカズにしたりエロビデオを借りてくるのは理解できるから、こんな風にただ性欲を駆り立てるためでなくただ体温を分け合うように触れ合うのは、何だかセックスをするよりも特別な相手とすることだと思ってしまう。
 なので、シゲの言ってることも理解できるような気がして、竜也はシゲの腕の中で身体を反転させた。
「うん?」
 竜也が自分の方を向きたがっているのが分かったのか、シゲは腕を揺るめて竜也と向き合う姿勢をとる。
「うん、触りたい」
 そして竜也が優しく金の髪を梳いてやると、シゲは気持ち良さそうに瞳を細めて同じ様な優しい指先で竜也の頬に触れた。


 生きていく上での三大欲求。
 食欲と睡眠欲と性欲。

 君と恋愛する上での三大欲求。
 独占欲と征服欲と接触欲。

 満たされた?






END.











 遅くなりましたーーー!!あぁもう、何を言い訳にもできますまい・・。折角萌えるお題を出していただいたのに、何でこんなに遅くなってんだーー!!
 ごめんなさい!しかも裏って、気付けばかなり久々でした・・。おおう、どうなんだこの出来栄えはーー。
 貰って下さると嬉しいです、葵様ーー。43,000ヒット、有難うございましたーー(この数字が時間を明確に表していて恐ろしい・・・)

 そんでもって、「あんたの書くエ○は、竜也がノリノリでやらしい」と言われる意味がようやく分かりました・・・。うん、ノッてるね、やらしいね、竜也!!