シゲ大学生、竜也猫パラレル。0 ※猫は猫でも、人間のちっさいサイズに耳と尻尾が付いてて言葉も通じるのが、この世界の猫です。 レポートの資料を借りに来ていたシゲは、三上のベッドの下に餌皿が二つ並んでいる事に気が付いた。 それをひょいよ拾い上げ、シゲは資料を探すために押入れを漁っている三上の背中に問いかけた。 「また猫増やしたん?」 「あー?」 三上は肩越しに振り返り、シゲが手にしている餌皿を見てまた押入れの方に視線を戻した。 「あぁ、それか。増やしたわけじゃねぇよ。こないだ竹巳の検診に行ったら、渋沢の野郎に暫く預かってくれって言われた奴の」 竹巳というのは三上の飼っている猫で、会う度にどうしてこんなに躾のいい子が三上のところに居るのだろうかと、日々シゲを悩ませている。 「預かるって、捨て猫かなんかやったん?」 渋沢の所にも一匹誠二という猫がいるが、あの懐っこい猫とは気が合わなかったのだろうかとシゲが首を傾げていると、ようやく目当ての資料が見つかったのか三上が振り返ってローテーブルを挟んでシゲの前に座った。 「病院を嫌がったんだよ。捨てじゃねぇけど、渋沢が新しい飼い主捜してんだ」 「それって・・」 捨てられていたわけではないのに新しい飼い主が必要になる状況にシゲは簡単に思い当たり、嫌悪に眉をしかめた。 「虐待だってよ。クソだぜホントに」 無愛想な顔をしているが、飼われている竹巳がとても綺麗な猫であることが示すように、三上は猫が心底好きなのだ。 目当ての資料を受け取りながら、シゲもまったくやと吐き捨てる。 早く幸せにしてくれる飼い主が現れるといいなと思いながらシゲが資料を鞄にしまっていると、ベランダの窓をカリカリとひっかく音がした。 三上が立ち上がってベランダを開けてやると、いささか汚れた竹巳ともう一匹が部屋に入ってきた。 「あ、シゲ。今日和」 黒く長い尻尾をぴょんと跳ねさせて挨拶する竹巳に笑顔で挨拶を返し、シゲはその竹巳の後ろで怯えたように小さく隠れている茶色い頭を見つけた。 「お前が新入りなん?名前は?」 できるだけ優しい声で話しかけたつもりだったのだが、イントネーションが聞きなれないもので怖かったのか、その猫はますます縮こまってしまう。 けれど限界まで首をすくめながらも、小さな声で 「ごめんなさい・・・竜也、です・・」 と答えた。 「謝る必要ないやん。俺はシゲ。よろしゅうな」 そう言ってシゲがその小さな頭撫でてやろうと手を伸ばすと、竜也は全身をぎゅっと強張らせて硬く目を瞑った。 ぶたれると勘違いしたのだろうと瞬時に悟ってシゲが伸ばした手を止めると、衝撃がこないことを怪訝に思ったらしい竜也がそっと目を開ける。 そして苦笑するシゲと目が合った瞬間、自分の勘違いに気付いたのか顔を真っ青にした。 「ごめんなさい・・!」 その余りの怯えようが可哀想でならなくて、シゲは竜也の目の前でごろんと床に腹這いになった。 「竜也、お前が謝る必要なんて無い。悪いとこなんて一個も無いんやで?きれーな毛並みやし、こないに可愛えし。な?怖ないよ?」 いきなり自分よりも低い目線を取ったシゲを竜也はまじまじと見つめる。そしてそっと伸ばしたシゲの手の平を、今度は拒絶したりしなかった。 そのまま軽く頭を撫でてやると、竜也の身体から僅かに力が抜けていくのが分かった。 シゲはそれが愛しく思えて仕方なかった。自分の両腕に楽に抱えてしまえそうな小さな身体で、どれだけの恐怖を感じてきたのだろう。 シゲは竜也の頭に手を添えたまま、後ろで様子を見ていた三上を振り返った。 「三上さん、俺が預かったらあきませんか?」 目を丸くする竜也と竹巳を他所に、三上はにっ口角を上げて笑った。 「奇遇だな、俺も今、どうやったらお前にやれるかと思ってたところだ」 あ、長かった・・・。 しかも色物にも程があるなーとか。続き、あるにはあるんですが、他のに比べて長いのでこの後は日記でやろうかなーとか思うとまそんでした。 (初出2004,9,19/再録2004,11,17) という経緯によって日記にて「大人・子供10題」に沿って始まったのが猫竜也です。 |