1 嘘つき 「怖いもの」


 竜也が初めてシゲの家に引き取られて来た日、空は生憎夕方から機嫌を損ね、シゲがベッドに入ろうかという時間になると雷が遠くで鳴っていた。
「竜也、一緒に寝るか?怖いんやろ?」
 耳がぺたんと後ろに倒れてしまっている竜也にシゲが尋ねると、竜也はシゲを見上げてぷるぷると首を振った。
 この家に来てからまだ一言も言葉を発していない竜也に苦笑して、シゲは無理強いはしないことにした。人と穏かに触れ合う事に不慣れな様子の竜也が、自分が怖い人間ではないと思ってくれるまで待つしかないだろう。
「せやったら、ちゃんと布団かけて寝るんやで?風邪引いてまうからな」
 ベッドの下に毛布を丸めて作った簡易ベッドを差して言うと、竜也はこくんと頷いた。
 シゲがベッドに潜り込んで三上に借りてきた資料に目を通していると、それまで遠くだった雷が徐々に近付き、一際強烈に閃光を走らせた。
 ピカッ!ガラガラガラ・・!!
「ふにゃーー!!」
 途端に簡易ベッドで丸くなっていたと思っていた竜也は突然跳ね起き、シゲが止める間も無いままに備え付けのクローゼットの中に飛び込んだ。
「竜也?」
 シゲは資料を脇に置いてベッドから下り、そっとクローゼットに近付いて中を覗き込む。
 ガラガラガラ・・・。
 雷はまだ続いていて、竜也はクローゼットに掛けられているシゲの服に埋もれるようにして小さく丸まって震えていた。
 己の膝に顔を埋めて震える竜也に、シゲは失笑を零す。そしてそっと竜也に手を伸ばした。
「たーつや」
 竜也はビクと身をすくませたけれど、伸ばされた腕から逃げるようなことはせず、脇に差し入れられたシゲの腕に抱き上げられるままに大人しくしていた。
「嘘つき。雷、怖いんやろ?」
 涙が滲んでいる瞳を覗き込んで尋ねても、竜也はただ首を横に振る。シゲは竜也の小さな頭を肩に乗せて、背中をぽんぽんとあやすように叩いた。
「ええんよ、怖いって言うても。そんなんで怒らへんし、迷惑でもないで」
 竜也を抱き上げたままベッドに腰掛け、シゲは竜也が落ち着くまで背中を撫でてやっていた。
 その内雷はまた遠ざかっていき、シゲが気付くと竜也がいつの間にかシゲのシャツを握り締めていた。
「竜也、一緒に寝よか」
 膝抱っこにした竜也に、ん?と笑いかけると、竜也は戸惑いを浮かべた瞳で見返してくる。
「竜也の怖いもんから、俺が守ったるから。せやから、怖かったら言うてな」
 どうしていいのか分からない様子の竜也に布団をかけてやりながら、シゲはその細い背中を抱き締めて眠った。



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思ったとおり、犯罪臭いな・・!!(爆。

..2004年9月19日(日)