軍隊パラレル1
水野は机に山を作っている書類をうまく避けて、副官の小島から一冊の書類を受け取る。
一枚目をめくるとそこには画像の悪い一枚の写真と共に、経歴が細かく記載されている。
「南部エイリー第三大隊所属で特務曹長から少尉に二級特進・・。優秀ってことか」
小島は傍らに立ったまま、そうでしょうねと相槌を打つ。
ぱらり、ともう一枚めくると、そこには件の人物の受けた勲章と処罰のことが大まかに載せてある筈のページだ。それにざっと目を通して、水野は眉間に皺を寄せた。
「何だこの、処罰の多さは」
問題の人物は、受けた勲章はそうたいしたものは無く、その代わりに”上官への侮辱罪謹慎五日”だとか”命令無視による杖罰”だとか、諸々書き連ねられている。
「御し難い人物のようですね」
小島が淡々と告げる。水野は何時も大きく表情を変えない副官をちらりと見上げ、深く嘆息した。
「なるほどね、それで俺の評判を落とそうってわけか」
若くして中佐まで上り詰めた己を快く思っていない輩が大勢いるのは分かっているが、だからと言ってここまであからさまに、”部下の一人も御せ無い奴だ”という評判を立てたがっていることを示してくれなくても、と思う。
「逆に、ここで彼を飼い慣らせれば、何の問題も無いでしょう?期待してます」
小島はさらりと言って、それでは呼んできますと礼をして執務室を出て行った。
何の手違いか、本人の辞令の日と書類が届いたのが同日になってしまい、問題の人物について細かな情報収集をするまもなく対面する羽目になった水野は、これも上層部の嫌がらせだとはさすが思いたくないぞと、再び嘆息しながら残りの書面に目を落としていく。
「はぁ・・これ以上面倒が増えるのか・・・・」
何度見てもこれから新しく自分の部下−それも少尉となれば大分近い部下だ−になる男が、頭痛の種になりそうなことは明らかだった。
しかし、士官学校にも通わず志願兵から始まったという彼の経歴の部分で、水野の視線が釘付けになる。
(叩き上げで、こんなにも問題を起こしている男が、僅か二十代で少尉だと・・?)
水野も年齢的には変らないが、それでも水野は士官学校から入った、所謂キャリア組だ。その中でも優秀だからこその今の地位だと自負してはいるが、早すぎる出世と言われ、今回の様に嫌がらせを受けることも多い。
(何者だ・・?)
写りの悪い顔写真を見つめ、水野はもう間もなくやってくるであろう新しい部下を見るのが、少し楽しみになった。
そして五分と掛からない内に、扉がノックされる。
「入れ」
静かに扉を開けた小島の後ろに、金髪の背筋の伸びていない青年が立っていた。
「本日付で西方軍司令部に配属になりました、佐藤成樹少尉です」
落ち着いた声で資料にある名前を読み上げる小島の背後で、佐藤が欠伸を噛み殺したのを水野は見逃さなかった。
けれど、そのおよそ上官に対峙した軍人らしからぬ気の抜けた態度に、水野は不思議と不快感は感じなかった。
「中佐の水野竜也だ、佐藤少尉?起きてるか?」
水野の問いかけに、佐藤は眠そうな目を瞬かせて口元に笑みを浮かべて肩をすくめた。
「あー・・、すんません。春は眠くて敵いませんわ・・・」
「少尉」
途端に厳しい目つきでにらみつけた小島に、佐藤はまたやる気の無い声で
「申し訳ありません、大尉」
と髪を掻き上げながら謝罪する。
こんな突飛な軍人は見たことが無かった。水野は何故か頬に笑みが浮かぶのを感じながら、小島に下がってくれるよう指示をした。
「ですが・・」
まだ佐藤についての情報が不十分な状態で上官と二人きりにすることに小島は眉を潜めたが、水野が深く頷くと大人しく敬礼をしてから部屋を出た。彼女はおそらくこれから、佐藤に着いての資料集めに掛かるのだろう。
「佐藤少尉、少し話しをしよう」
「はぁ、ええですけど」
そして水野は、さて何について聞こうかなと、まるで始めてあった友人に対するかのような思いで、新しい己の部下と視線を交わした。
なんで軍隊パラレルかって、ハガレンにはまったのとアイルランドのIRAについてやってたからで。
あー、楽しかった!続きませんよー、これ(笑)
たまってるパラレルネタをここで出すのも楽しそうだなぁ・・・。
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(初出2004.07.24/再録2004.10.05)