軍隊パラレル3
佐藤は、重厚な椅子に腰掛けて書類を封筒にしまう上司をぼんやりと眺めていた。彼の背後では午後の明るい青空が広がっており、佐藤はその窓を開けて爽やかな風を入れたいなと思った。
「佐藤特務曹長・・と、もう少尉か。ともかく、三日後から西部勤務になるわけだ。いい子にしろよ」
ほら、と手渡される必要書類の入った封筒を受け取り、佐藤は曖昧に笑った。
「まぁ、ほどほどにやりますわ」
大抵の上官なら、口の利き方がなってないだの、敬礼を忘れるなだの言いそうな態度だが、椎名は方眉を上げて笑っただけだった。
この度佐藤特務曹長は、先日の前線での活躍が認められて少尉に昇格した。と、同時に、ここ南部よりも穏かな政情の西部への転任が決まった。
つまり、分かりやすい左遷だ。昇格しておいて何故、と普通なら思うところだが、佐藤の場合は度重なった命令無視のためだろうとすぐに検討がつく。しかし活躍したのは事実なのだから、昇格でもさせて別の所へ飛ばしてしまえ、というのが上のご意向らしかった。
目の前の椎名大佐のではない。この上司は奇特にも自分を気に入っていたようだ。これは彼の上、つまり南部司令部のトップの決定だ。
それを言い渡された時、特に感想は抱かなかった。ただ、ここよりも穏かなところとなると更に退屈で窮屈な日々になりそうだと少しうんざりした。
「時に佐藤少尉?」
呼びかけられて視線を椎名に戻すと、丁度副官の郭少佐が窓を開けたところだった。ふわり、と白のレースのカーテンが風に舞う。
「鳥に餌をやったことは?」
「・・・・・はぁ??」
椎名は机の上で指を組んだまま、にっこり笑ってそんなことを尋ねてきた。
突然のその質問の真意が全く分からなくて、郭少佐の反対側に控える元同僚の黒川に視線を訴えかけても、彼も全く意味が分からないらしく、怪訝そうに眉根を寄せていた。
郭に視線を転じても、軽く肩を竦められただけだったので、とりあえず佐藤は事実のままを答えておく。
「ありませんけど?」
鳥を買った経験は無い、と告げると、椎名は一瞬考えるような素振りを見せて、再度尋ねてきた。
「まぁ、習うより慣れろって言うしな・・・。小さめの動物は好きか?」
分けが分からない。もしかして西部司令部には、ペットでもいるのだろうか?
「まぁ、好きですけど」
実を言えば、動物も子供も嫌いではない。軍人でなければ、どこかの飼育係にでもなろうかと思ったことがあるくらいだ。
内心で折れるくらいに首を傾げつつ端的に答えると、椎名は嬉しそうににっこり笑った。
「じゃあ、期待してるからな」
行っていいぞと手で示されて、お世話になりました、と敬礼をして佐藤は司令室を後にした。
最後の最後で交わすべき会話として何か間違っていたのではないかと、大いに眉間に皺を寄せながら脇に挟んだ書類を抱えなおし、佐藤は窓の無い廊下をブーツの音を響かせながら歩いていった。
軍隊物3。もう言い訳が効かない位にはまっているのがばればれ。
今回は1よりも前。佐藤が南部司令部にいた最後の日。色々設定が生まれてるなぁ・・。
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(初出2004.08.03/再録2004.10.05)