軍隊パラレル4 (『主要任務』その後)


「中佐、おはようございます」
「あぁ、お早う佐藤少尉」
朝水野が出勤して所属する部署に向かっていると、廊下で背後から佐藤に声をかけられた。
そのまま二人で部署に入っていき、先に来ていた人々と口々に挨拶を交わす。
「お早うございます」
「お早う」
他の人間よりは立派な作りをしている自分用の机に水野が腰掛けたと同時に、右腕である小島大尉が本日午前中にこなさなければならない急ぎの書類を手渡してくる。
それを受け取り、一日の職務を開始しようとした途端、若干離れた机から佐藤が立ち上がって水野に声をかけてきた。
「あ、すんません水野中佐。仕事に入られる前に、ちょおええですか」
「なんだ?」
今一徹底されていない崩れた佐藤の敬語を特に気にも留めず、水野は何か四角いものを手に机に近付いてくる佐藤を見やる。
「何だ?」
目の前に立った佐藤は、手にしていた四角いものを水野に差し出した。それは、布に覆われた文庫より一回り位大きなもので、水野はそれが何なのか予想も付かず、訝しげに佐藤を見上げる。
佐藤は水野の怪訝そうな表情も意に介さず、さらりと答えた。
「弁当です」
「「「「・・・・は?」」」」
その間の抜けた声は水野一人からではなく、小島大尉を含めた室内全員分の声だった。しかし佐藤は、一瞬流れた奇妙な空気も気にせず淡々と続ける。
「毎日毎日、俺があんたの昼飯に付き合えるわけないでしょう。今日は昼前から外勤なんで、これ。ちゃんと食べてくださいよ?面倒がって抜いたりしたらあきませんよ」
じゃ、今日も一日適当に気張りますかーと机に戻って行く佐藤の背後で、水野は珍しくきょとんと目を丸くしながらも、素直に書類より先に机に置かれた弁当を持ち上げた。
「・・・・ありがとう」
そしてそれをいそいそと引き出しにしまう上司と、どう見てもチャラけてるとしか思えない金髪の部下とを交互に見やり、小島は内心大きく頷いていた。
先日西方司令部に来たばかりの佐藤少尉に、「水野中佐の昼ご飯に気をつけてやってくれ」とは確かに言ったし、その後佐藤はその見てくれとからは想像し難い位の素直さで水野に昼食をとらせることを任務の様にこなしていたが、まさかここまでしてくるとは思わなかった。
結構拾いものだったのかもしれないと一人満足げな空気をまとう小島を他所に、他の部下たちは一様に
((((男の上司に弁当の差し入れをするか?普通・・・))))
そういう思いを込めた半眼で、鼻歌交じりのシゲを見つめていた。
そして水野は、昼休みには中庭で佐藤少尉お手製の弁当に舌鼓を打ったという。


えー・・。彼らは本当に軍人か?(笑。
軍服を着ているオフィスラブだとでも思ってください。
きっと少尉の弁当にはタコさんとカニさんのウィンナーが入っているはず!!

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(初出2004.08.26/再録2004.10.05)