軍隊パラレル7


「どういうことや」
昼休み、佐藤は司令部内の電話を使って南方司令部の椎名大佐に電話を掛けていた。
目的は勿論、今朝の水の中佐の暴挙―と言っても過言ではない筈だ―について聞くためだ。
「何が。つーかお前、直属じゃ無くなったら一気にタメ口か?いい度胸じゃねぇか」
今朝の出来事を話した途端に浮かれた様な声を上げる椎名に、佐藤は電話越しに渋面を作る。
「水野中佐にどのようなことを吹き込まれてきたのでしょうか、Sir」
わざとらしく馬鹿丁寧に言い換えてやると、電話の向こうで椎名がしのび笑いを漏らした気配が伝わってきた。
腹立たしいことこの上ないなと佐藤が考えていると、椎名は軽く咳払いをしてこう言った。
「俺はさ、ただ学生時代に『好きな相手にキスされたら、お返しはするもんだ』て教えただけだぜ?良かったじゃねぇの?」
その言葉に佐藤は一瞬渋面を和らげようとするが、すぐにある事に気付いて眉間の皺を深くした。
「それって、別に好きの種類関係あらへんのやないですか」
あの上司に、まともな恋愛観念があることも疑わしいと佐藤が愚痴るように呟くと、受話器の向こうで椎名が爆発的な笑い声を上げた。
「あはははは!!あったりまえじゃん!あの仕事の虫、生真面目一本のあいつに、そんな細かな人間の心情なんて分かるわけ無いね!好きは好きなんだよ、単にね」
その言葉に、佐藤は本気で頭を抱えたくなった。
今後あの上司にキスをしても、恐らく怒りは買わないだろう事は実証されたが、だからと言ってそれ以上に進むのは非常にまずいわけだ。
水野はおそらく、その行為に走る佐藤の真意に気付かないというか、それを本当には理解できないだろう。
そんな相手を押し倒したところで、自分が空しくなるだけなのは眼に見えている。
「まじかい・・・」
生殺しにも程があると切ない溜息を吐く佐藤に、椎名は楽しそうに告げた。
「頑張って自覚させてみろよー、じゃな、俺忙しいから」
容赦なくブツ、と一方的に切られた通話の後に耳に残るツーツーという無機質な音を聞きながら、何事かと先ほどからちらちらとこちらを窺っている通信課の職員に、佐藤は弱く笑ってみせた。


佐藤の受難は続く(笑。
時期的には、まだ椎名と黒川が出来てない辺りかと。


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(初出:9月14日/再録:9月28日)