(ヒ)魔王銀さんと、流され勇者新八「1」


「新ちゃん、もうこの村は二月も雨が降ってないの」
「そうですね、姉上」
「この夏場に二月も降らないなんて、農作物は絶望的だわ」
「全くです」
「それというのも、この世界を支配している魔王が天候を支配する鏡を持っているからよね」
「そーですね」
「こっちが約束どおりに供物を差し出してるっていうのに、それを無視して雨を降らせないなんて、本当に非道極まりないわ」
「魔王ですからね」
「・・・・新ちゃん、さっきから返事がおざなりなのは、この姉上の絶望の叫びに対する挑戦なの?」
「いえいえいえいえ、全くその様なつもりは無いのですが、それより僕は何で錆だらけの剣を持たされてるのかが、気になって・・・」
「新ちゃん、実は貴方の生い立ちには秘密があるの・・・」
「え、何この展開。何でここで出生の秘密?ちょっと姉上、そういうのは大抵物語の山場と言うかラスト付近に来るんじゃないんですか!?」
「新ちゃん、あなたは実はね・・・」
「聞けや!」
「実は、あなたが生まれたのはこの町では無いの・・」
「あ、結局語っちゃうんですね」
「ここよりも遥かに北の、もっと寒い地方。そう、現在魔王の城がある辺りに最も近いと言う町・・・」
「えっ、そんなところに僕らは住んでたんですか!?」
「あの時にはまだこの世も平和で、魔王もその力を非道に振るう事無く平穏だったわ。けれど、当時町には年老いた賢者が住んでいてね、彼は魔王がその内暴挙に出るであろうことを予言したの・・」
「大抵の町には、お年寄りはいるもんですし、そういう人は得てして人生の教訓を嫌でも学んでいるから、賢者なんて呼ばれることが多いんですよね」
「新ちゃん?姉上のお話はつまらないのかしら?」
「とんでもないですっ、とても興味深く拝聴させていただいてますんで、どうか薙刀は下げてくださいっ」
「あら、正座までして・・そうよね、貴方の出生の秘密ですもんね」
「はいっ」
「それでね、その賢者は他の事も予言したの。そう、近い将来必ず絶望に包まれるこの世にも、一筋の希望が残されているって!そして一年後、その未来を背負った若者がこの町に生まれるだろうと・・・そして・・」
「あ、姉上、まさか・・・!」


・・・・続く(10話まで)



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