シゲ吸血鬼パラレル。


その日水野は、昇る朝日に眩しそうに瞳を眇めながら相棒である藤代と帰宅の途に着いたばかりであった。
警察のモンスター課に配属されているとはいえ、水野自身は至って一般的な純粋な人間である。
夜行性の多いモンスター相手に仕事をしていると、どうしても昼夜逆転になり気味なのが辛い。
「あー、眠い」
欠伸を噛み殺して藤代がのんびり歩を進める。胸の内ポケットからサングラスを取り出して掛けるのを横目で見ながら、水野は溜息混じりに零す。
「お前はいいよ、これから寝たって体内時計は狂わないんだからな。俺はもう、最近なーんか身体おかしい気がするよ」
普通人間は昼に行動するもんだと愚痴ると、曽祖父だかその前だかが純潔の吸血鬼である藤代がまぁまぁとなだめる様に笑う。そしてふと、路地裏を覗き込んで歩みを止めた。
「どうした?」
水野は数歩先に行ってから立ち止まって振り返り、路地裏に入った藤代を追った。
「おい、大丈夫か?」
藤代は、壁に背を預けるように座り込んでいる男に声を掛けているところだった。
その男は人工的に染めたのだろう金髪を肩辺りまで伸ばし、顔を日の指さない路地の奥に向けていた。
「あー、平気や・・。ちょお、サングラス割ってしもて、日が眩しいだけやから・・」
酔ってるわけではないらしく、案外はっきりと発音してきた男の様子に、水野は肩をすくめて藤代の背中に声を掛ける。
「お仲間みたいだな」
「だね」
純潔でないなら日の元を歩けはするが、太陽が出ている間はサングラスをしないと目が潰れそうになるという混血吸血鬼独特の性質に苦しんでいるらしい男に、水野は歩み寄って肩を貸した。
「立てるか。俺の家が近くだから、とりあえずそこまで行くぞ」
「あんたは?」
間近で水野の顔を覗きこんできた男の瞳はその辺の日本人と変わらぬ黒い瞳をしていたが、その瞳孔はやはり異常に開いている。吸血鬼は、瞳孔の調整能力が弱い種族なのだ。
「モンスター対策課の水野だ、こっちは相棒の藤代。こいつが吸血鬼混じりだから、下手な処置なんてしないよ」
水野の紹介にブイサインで応えた藤代を見上げ、男は微かに笑った。
「おおきに、助かるわ。ほんまに目ぇ開けてられんくて」
水野の肩に片手を回して立ち上がった男は、暗がりになっている路地裏でも辛いのか、限界まで目を細めている。
もしかしたら藤代より血が濃いのかもなと思いながら、逆側で男を支えた藤代と目で合図を交わして、三人は連れ立って水野の家を目指した。


シゲが吸血鬼ハーフかクウォーター。そんな話が浮かんだことがありました。のでここで出してみる。
血が濃いので、よっぽど曇りの日でないと外に出られません。それでもサングラス必須。晴れてる日は引き篭もりシゲ。
藤水じゃないですよ、あくまで相棒ですから。
実はシゲ、水野たちのお仲間です。夜勤専門。

(初出2004,9,14/再録2004,9,28)



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