スイッチ―1


竜也の目に、シゲの部屋の畳に放り出してあった白くて四角いものが映った。
「シゲ、これ何?」
拾い上げながら、床に転がって雑誌を捲っているシゲに尋ねる。
「どれ?・・あぁ、ラブレター?」
あっさり答えたシゲに、竜也の眉が潜められる。
「・・・こんなとこに置くなよ」
真っ白な封筒に可愛らしく女の子らしい、丸みを帯びた文字で「佐藤成樹様」と書いてあるラブレター。
それをシゲに向かって、しまったておけと差し出した竜也に眉は、中心に皺が寄せられている。
「んー、何怒ってるん?」
封筒を受け取った手をすぐに畳みに投げ出して、シゲは寝転がった姿勢で竜也を見上げてくる。
「別に、お前そういう物をぞんざいに扱うなよ、可哀想だろ」
どれだけ女の子が勇気出して渡したか知れないそれが、まるで不必要で無意味なものの様に放り出されていて、竜也は腹が立ったのだ。
竜也がそう言うと、シゲは少し拗ねた様に唇を尖らせて、仰向けに身体を反転させた。
「なーんや、たつぼん、妬いてくれたんやないん」
「はあ?」
何を突然言い出すのかとシゲをまじまじと見つめた竜也は、その眉が閉じられた瞳に生えそろう睫毛が、鼻筋が唇が、シゲの容貌全体が思いの外整っている事に気付いて、ドキリとした。
「あーあ、たつぼんが妬いてくれたら嬉しかったんやけどな」
寝転がって腹の上に手紙を乗せたまま、シゲが歌うように呟いた。
竜也はその言葉に咄嗟に何も返せず、ぱかっと瞼を持ち上げて見つめてくるシゲの黒い瞳に、頬が熱くなった。
「わけわかんねぇよ。俺が何に妬くんだ」
「手紙くれた女の子に」
そしてひらひらと封筒を振ってみせるシゲに、竜也は視線を逸らした。
「有りえない」
竜也は、その白い封筒を見つけた一番最初に、説明のつかない面白く無さが胸に浮かんだことは絶対に秘密だと思った。
この気持ちを何と言っていいのか分からず、竜也の視界の端ではシゲの掲げる封筒の白さだけが目に焼き付いた。


今更ながら、竜也無自覚でシゲがそれを落とそうとしてる感じで。
続かないけど連作にしたい。

next

(初出2004,7,17/再録2004,8,5)