スイッチ―2


昼休み、廊下の先に茶色い頭が見えた。シゲは持っていた包みを持ち直し、軽い足取りでその後ろに迫る。
「たーつぼん」
ぽん、と肩を叩くと、竜也が驚いたように眼を丸くして振り返る。
「何しとんの?図書館?」
竜也の手に文庫本が握られている事に気付いてシゲがそれを指すと、竜也はあぁうん、と頷く。
「相変わらず本好きやねー」
そう言うと、シゲは竜也の空いている方の手を取って、その手の平の上にポン、と持っていた包みを置いた。
「何だよ?」
シゲは、怪訝そうに首を傾げる竜也のその手を包みごと胸の方に押しやる。
「実習で作ったクッキー。女子らが、「好きな人にあげるの」て可愛くラッピングしとったから」
竜也の胸に納まったそれは、見ればどこから持って来たのかリボンまできちんとかけてあって、可愛らしい感じにラッピングされていた。
「だからって、何でお前まで便乗してんだよ・・」
「たつぼん、甘いもの嫌いやったっけ?」
ことんと首を傾げて尋ねるシゲに、竜也は僅かに眉根を寄せて怒った様に呟き返す。
「んなことねぇけど・・。だからって、何で俺にわざわざラッピングする必要があんだよ」
嫌がらせか、と続いた竜也の言葉に、シゲは首を倒したまま意味ありげに笑った。
「俺も、好きな子にあげたかってん」
一瞬の間があってから、竜也の目元にさっと赤みが差した。
「・・・っ」
竜也が何かを言おうと息を吸い込んだタイミングを見計らって、シゲはひらりと身を翻した。
「食べたってなー、愛情たっぷりやからv」
首だけを竜也に向けて、シゲは軽く片目をつぶった後振り返らずに駆け出した。
「シゲ!!」
すぐに背中を竜也の怒声が追ってきて、シゲはくつくつと笑いを噛み殺した。
そしてちょっとだけ立ち止まって振り返り、口元に笑みを浮かべたままで投げキッスなぞをしてやると、竜也の頬は怒りのせいか他の何かの為か、ますます赤みを増した。
「て、めぇなぁ!!」
後者の理由だったら嬉しいんやけどな、などと考えながら、シゲは竜也に向かってひらひらと手を振って自分の教室に駆け込んだ。


はい、確信犯シゲでした。
学校の廊下で投げキッスとかしちゃうシゲってどうですか・・。

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(初出2004,7,20/再録2004,8,5)