1 欠乏症

「準サンが足りないー」
 球拾いをしながら零された呟きを、迅は聞かなかったことにした。
「何で二年だけ宿泊学習なんだよー」
 そんなもの、学園長に聞いてくれと思いながらこれも無視する。
 利央の言うとおり宿泊学習に出かけている二年がいないせいで、今日の部活は何だかスカスカする。けれど、あからさまにつまらないと唇を尖らせる利央にとっては、それ以上の意味があるらしい。
「あー、やっぱ準サンのあの怒声とか蹴りとか拳とかないと、足りないー」
 お前はマゾか、と内心でツッコミを入れながら迅は人知れず溜息を吐いた。二年が宿泊学習に出発した今朝から彼は迅の目の前の席から離れず、延々と準太が足りない二泊なんて長すぎるメールも電話も禁止なんてあり得ない、と管を巻いていた。
 こんな状態があと二日は続くのかと思うと、初日で既に限界を感じている迅は胃が痛くなる気分だった。
 利央の準太欠乏症には、本人が帰ってくること以外治療法など無いのだろう。


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困った時の、お題頼み(笑。一応連作で10題です。