5 我慢できないんだ

 朝練も昼練も放課後練も、いつもと同じ。朝から晩まで野球漬けで、帰宅すれば風呂に入って夕食を食べて寝てしまう生活も、同じ。
(でも、メールできないんだもんなぁ・・・)
 ただ一つ、準太にメールが打てないことだけが、いつもと違う。
 返信は滅多に来ないが、それでも丸一日メール一つしない日は高等部に上がってからは無かった。昨日も、何度かメールを打とうかと思ったが、向こうで携帯がメールの着信を知らせ、それが教師に見つかって準太が怒られても嫌だなぁと思うとそれも諦めた。
 何より、送っても電波が悪くて届かないかもしれないと、利央は何度も携帯を開いたり閉じたりした。”サミシイ”なんて打って、準太が帰宅してから届くなんて間抜けなことにはなりたくない。良いようにからかわれるのがオチだろう。
(あーでも、寂しいなぁ)
 からかいでも良いから、声が聞きたい。乱暴でも良いから、彼に触れて欲しい。
(あ、やばい)
 準太の指先や声を思い出しているうちに、利央の身体が正直に反応を示してしまった。明日になれば帰ってくる、何ヶ月も離れているわけでもない、分かっていても寂しかった。心も、身体も。
 利央はじわりと広がってきた淡い欲をごまかすかのように、勢いを付けて携帯を開いてメール作成画面を選択した。
『お疲れ様、野球できなくてつまんないんじゃない?準サン野球馬鹿だからさー(笑)でも明日までの我慢だもんねぇ、頑張ってねー』
 そんな当たり障りの無い文章を打ち、送信ボタンを押そうとして利央の指はもう一度入力画面へ戻った。画面を下へ下へとかなりスクロールさせ、そこに一言だけ付け加えた。
『オレは我慢きかないみたい』
 気付かれたくないという思いと、気付いて欲しいという期待を半々に、利央は送信ボタンを押した。

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えーと、乙女ですいません。