6 ねぇお願い

 二泊とはいえ、クラスメイトと夜を共にするという非日常はそこそこに気分を盛り上げてくれる。明日にはまた日常に戻るのだと思うと名残惜しい生徒が多いらしく、準太の部屋でも他の部屋の生徒が押しかけ昨日よりも騒がしく何やらごちゃごちゃと語り合っている。
 それに適当に相槌を打ちながら、準太は人口密度の高い部屋に辟易していた。
(人間て暑ィ・・・)
 酸素も心なしか薄い気がして、準太は窓に近付き細く窓を開ける。もしかしたら声が外に漏れて、教師に怒られるかなと思ったが、その教師の部屋は準太達の部屋の真向かいにあり、そこからは何やら宴会を開いているらしい声が届いた。
(おいおい、生徒はほったらかしかよ・・・)
 これならしばらくは大丈夫だろうと呆れながら、一体今は何時だろうと準太は荷物を引き寄せた。荷物の奥にしまいこんでいた携帯を取り出して時刻を確認しようとして、そこに新着メールを発見する。
 瞬時に沸いた期待に内心舌打しながらも、準太は急いでメール画面を開く。
『利央』
 差出人の名前を見て、準太は無意識に頬を緩ませる。やっぱり、二日丸々メールを打たないことはできなかったらしいなと、微かな優越感を感じながらそのメールを開く。
 本文は当たり障りの無いものだったが、それこそ利央の普段のメールだ。わざわざメールを打たなくても良いんじゃないかということまで、一々メールしてくる利央らしい。
 今日くらいはちゃんと返信してやるか、と準太は窓辺に腰を下ろす。そして返信画面を開いて、利央の本文の下がやけに長く改行してあることに気付く。
(なんだ?)
 いつもはそんなに下に間を作らない彼の、その行為を訝しく思い画面をスクロールさせていき、準太は携帯を握り締めて立ち上がった。
「おい、どこ行くんだ?」
 部屋を大股で横切る準太にクラスメイトが声をかけてきたが、便所、と短く答えて準太は廊下に出た。教師が通りかかるかもしれないと思いながら、携帯を耳に当てる。
(寝てるなよ)
 頼むから、とらしくもなく懇願めいた気持ちを抱きながら準太は呼び出し音を聞いていた。

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珍しい、準サンがお電話をかけてますよ(コメントすることが無いからって、何だこれ。