目覚めるまで(4)







 


 今まで何度だって抱きあってきた。それこそ両手の指じゃ足りない位、このベッドでももう片手の指じゃ足りない。しかし、それはいつだって利央にとっては胸の痛みを伴う行為だった。
 準太の心には常に和己がいると思っていたから、彼が与えてくれる愛撫を全部そのまま暖かいものとして受け入れることができないでいた。
 けれど、もう今日からは違うのだと思うと、自然に身体が震える。
「利央?」
 準太が心配気に見下ろして、利央のシャツを捲り上げる手を止める。この間乱暴に抱いたせいかと目で尋ねられ、利央は緩く頭を振って準太の肩を引き寄せる。
「へーき・・・」
 この間の乱暴な行為で萎縮しているのではない証に、利央の声はもう欲情して掠れている。再度角度を変えて口付けられ、口端から零れた唾液を準太の舌が追った。
「なら、いいけど」
 利央に拒絶されない、そのことに安心しつつ、準太は自分の指を彼の口元へ持っていく。
「舐めろ」
 利央は素直に口を開いて、準太の細い指先に舌を絡める。すぐに二本に増えた自ら喉の奥まで指を咥え、利央はその指の間にも舌を這わせる。
 皮膚の薄い敏感なそこを濡れた舌で舐められ、準太は唇から熱い吐息を吐き出した。二本の指に懸命に舌を絡ませる利央は、まるで準太の性器を咥えている時の様に扇情的だ。
「利央、もういい」
 散々利央の口内を蹂躙してから出て行った準太の指は、透明な唾液の線を引いて蛍光灯のしたでテラテラと光る。
 そのままその指先を胸の一点に滑らされ、利央は思わず背中をしならせて唇を噛んだ。
「・・・っ」
 ぬるりとした指先が、ささやかな突起を引っ掻いていく。すぐに芯を持って立ち上がるそこに呼応するかのように、利央の下半身にも熱が溜っていく。
「あ、勃ってきた」
 わざわざ教えてくれなくても、自分の身体のことはよく分かる。太股で刺激されるように押されて、利央は思わず準太の肩を掴んだ。
「やめ」
 てくれと訴えようとした口は、準太のそれに塞がれる。そしてそのまま胸元を刺激されて、更に熱く存在を主張し始めた性器を押しつぶされるかのように太股で擦り上げられる。
「や、あっ」
 布越しに擦れる感触が何とも言えず、利央は準太の肩に縋りながら背を反らせる。快感を追うことには慣れきった身体が、更に素直に解けた心に呼応していつもより貪欲に上り詰めようとする。
 利央の腰は、自然と更なる刺激を求めて揺れていた。
「準サ、もっと、ちゃんと・・!」
 ズボンの中で窮屈そうに張り詰めてきた利央の性器に、準太は口端を上げる。いつの間にか身長も体重も抜かされた後輩だが、それでも己の腕の中で快感に跳ねる姿はいつまで経っても愛しい。そして、自分なりにいつだって愛情を持って彼に触れてきたというのに、彼がそれを全く信じていなかったということは、自分の落ち度もあるとはいえ何だか面白くない。
 だから、準太は目尻を紅潮させる利央の耳元に唇を寄せて、殊更優しく囁いた。
「ちゃんとしてやるよ、初夜だからな」
 そして一瞬の躊躇いもなく利央のズボンの中に手を差し入れ、既に張り詰めていた彼の怒張を握りこんでやる。
「あぁっ」
 激しく扱き上げられて、利央の髪がパサパサとシーツを叩く。いきなりの強い愛撫に、身体だけが上り詰めていくようで恐怖を感じる。
「泣くなって、優しくしてやる」
 こめかみに流れる涙を吸い取って、準太は限界にまで張り詰めた利央の熱からすっと指を離す。
「え、あ・・・」
 まさかここで終わりかと戸惑うように視線を彷徨わせた利央に、そんなわけないだろうと笑ながら準太は彼のズボンを下着ごと引き下ろす。
「汚れるだろ?」
 そして準太は利央の靴下も丁寧に脱がせると、投げ出された長い右足を掴んでその甲に唇を落とした。
「えっ」
 まるで従者が傅くようなその行為に、利央は驚いて上半身を起こす。しかし準太は彼の戸惑いも意に介さず、利央の右足の指一本一本に口付けを落とし、甲に走る血管にも丁寧に舌を乗せた。
「準サン・・?」
 足首から脛までも優しくゆっくりと舐め上げてくる準太の舌に、利央の背筋は粟立つ。左足には彼の長くて綺麗な指が静かに這わされて、丸い膝をそっと撫でられると悪寒にも似た快感が腰を震わせる。
「あ、ん・・・っあ」
 ぴちゃぴちゃと濡れた音を立てながら這い上がってくる準太の舌に、利央の脳髄が沸騰する。まるで焦らされているかのような丁寧な愛撫に、利央は目尻に滲む涙を押さえられない。
「だめ、足りない・・っ」
 懇願の様な呟きに、ようやく太股まで到達した準太がその内側に歯を立てる。その痛みに利央は思わず準太の頭を手で押さえるが、しかしそれが拒絶ではないことは明白で、その証拠に先ほどから最後の刺激を待っている利央自身に準太がようやく到達した時には、彼の指にはその頭を引き寄せるように力が篭もった。
「あ、あぁ・・んぅ・・っう、あ」
 既に頂上まで上り詰めていた快感は、準太の口内の熱さにあっさりと追い詰められる。
「出る、準サン、はなし・・てっ」
「このまま、イけ」
 尊大に命じられて、利央の背筋に一気に鳥肌が立った。上体を起こしたまま、準太の頭を掻き抱くようにして利央は達する。
「あぁ・・・!」
 口内に広がった生々しい青臭さを、準太は眉一つ動かさずに嚥下した。最後の一滴まで吸い上げて離れた準太の口端には、飲みきれなかった白濁した液が溢れている。
 それを指先で拭うと、準太は自分の目元を覆っている利央手を引き剥がす。
「恥かしいか?」
 揶揄するように上がった唇に口付けられ、利央は目尻から涙を流す。この綺麗な唇が、自分の精を飲み込んだのかと思うとどうにも羞恥が沸いてくる。
「こんなもんじゃ、終らねぇぞ」
 準太は楽しそうに喉を鳴らすと、そのまま利央を一度強く抱き締めてその背後にある枕を取り上げる。
「何しろ両思い記念だからな、思い出深いモンにしてやらねぇとな?」
 三年も、自分はただ利央を慰みものにしているのだと思われていたことが、どうにも悔しい。そんなことを考える余地がない位、恥かしがらせて気持ち良くさせてやろうと、準太は利央の足を抱え上げてその腰の下に枕を差し入れる。
「思い出・・て・・・えっやっ、やだっ!準サン!!」
 何だか空恐ろしい笑い方をされたと思っている間に、準太はあろうことか利央の後孔、つまりはいつも彼を受け入れている場所に唇を寄せてきた。
「そんなとこ・・っ、ちょ、やめてっ・・て!」
 ぬるりと舌で襞を掻き分けるようにされて、利央の身体中が羞恥の色に染まる。そしてそのまま指を差し入れられて、ピリッとした痛みを感じはしたものの、そんなことに構っていられないくらい利央の頭はパニックに陥っていた。
 三年、身体を重ねてきた。けれどこんな風にそんな場所を舐められたことは、実は一度もない。利央としては、普通男同士は慣らすのにローションを使うものだと思っていたし、準太にしてみれば利央が余り好きそうではないなと思ってきたからだ。
 それなりに、準太も利央に気を遣ってきたのだ。彼も気持ち良くなれるように色々考えてやってきたというのに、彼はそれも含めて単なる性欲処理だと思ってきたらしい。
「やめない、気持ちいいだろ?」
 それならばもう、遠慮などしない。腰が砕けて翌日起き上がれなくなるくらい、自分の愛情一欠片も疑う余地が無い位、愛してやる。
「折角の初夜なんだし、思いっきり忘れられなくしてやるからな?」
 傷つけないようにゆっくりと指を抜き差ししてやると、身体だけは充分に慣れた利央の腰がびくびくと引き攣れる様に揺れる。
「しょや・・て、いまっさら・・あぁ!」
 二本に増やされた指に入り口を広げられる感触に、利央は喉を反らせて強く瞼を閉じる。粘膜を擦り上げられて、果てた筈の欲がまた頭をもたげ出した。
「初夜だろ?恋人だって、もう疑ったりしないようにしてやるよ。オレがどれだけお前を想ってるか、じっくり分からせてやるからな?」
 埋め込んだ指の周りを舌でぐるりと愛撫されると、利央の腰からはどうにも力が抜ける。
「はあっ・・ん」
 鼻にかかった嬌声が漏れることが恥かしくて唇を手で覆うが、二本に増やされた指に入り口を広げられてそこに舌を差し込まれるともう、声を抑え切れるものではなくなった。
「あぁ、あぁ、うっ・・・あっあーっ」
 恋人だと自分が確信を持て無かったのは、一重に何も言わなかった準太のせいではないかと利央は思ったが、濡れた唾液を流し込まれ、それを掻き混ぜるように内部で指が蠢くともうそんなことはどうでも良くなった。
「いいっ、いいっ、あっ、あ」
 じゅっと音を立てて吸われると、利央の喉からは悲鳴にも近い喘ぎが漏れる。
「好きか?」
 準太の事を尋ねられているのか、それとも今なされている行為のことを聞かれているのか、今の利央の蕩けた脳では判断が付かなかった。しかし、どちらにしても利央の答えは同じことだ。
「ん、好き・・っ、あ、あ!」
 声変わりもとっくに過ぎた男の喘ぎに、感じてる自分も本当にどうしようもないと思いながら、準太は自分の熱も限界まで上がっていることに気付いていた。
「欲しい?」
 埋めていた舌を離して、柔らかい皮膚を通って再び利央の性器に舌を伸ばすと、彼は顔を両手で覆って激しく頷いた。
「早く・・!」
 溢れる整理的な涙を押さえるかのように顔を覆う利央の、指の間から覗く頬が真っ赤で準太は目を細める。蛍光灯を点けっ放しの行為は初めてではないけれど、やっぱりこういう顔が良く見えるのは良いと胸中で一人ごちながら、先ほどからとっくに準備万端で待っている己をズボンの中から引き出した。
「んっぁ・・」
 熟れた後孔に準太自身が押し付けられると、利央の鼻からは甘えた吐息が漏れる。ヒクヒクと準太を飲み込もうと収縮するそこに先端だけを埋め込んで浅い抜き差しを楽しんでいるうちに、焦れた利央が腰に足を絡ませて睨み上げてきた。
「準サン!遊んでないで、早く・・・!」
 強請る利央の目には涙が溜っていて、もっとそれを溢れさせたいと準太は一気に腰を進めた。
「ああぁぁあ・・・っ!」
 散々焦らされ熱く蕩けた粘膜は容易く準太の怒張を受け入れ、それどころかその硬く熱い存在感に利央の背筋は歓喜に震えた。
「あ、あ、いい・・・っ」
 ゆるゆるとかき回されて利央は浅い喘ぎを漏らしていたが、すぐにそれでは足りなくなって大きく足を開いて更に深く繋がろうと腰を揺らす。
「準サ・・・ァ、あ」
「ん、く・・・」
 貪欲に求めてくる利央に素直に応じながら、準太は強く利央を抱き締める。そうすることで自然と深くなる結合に、準太の耳元で利央の喘ぎが一際高くなった。
「あ、奥まで・・くるっ」
 そして後は、ただ互いの熱だけを交感しながら頂点を目差して上り詰めるだけだった。
 


next





 挿入までが、楽しいんだ(最低。