田んぼのあぜ道や土手に多くみかける。
ノネズミがあぜ道や土手に穴を開けるのを、彼岸花の毒性のある球根を植えることで防ぐ、という説がある。

お前に付く余計な虫も、この花が咲いてる限りは近付けない。








彼岸花 5










 新八がガクジと出会ったのは、十三の頃だった。あの頃は自分の不器用さ以上に年齢の問題も邪魔をして、稼ぎらしいものが貰える仕事になど、殆どありつけなかった。当然妙もまだ十六の子どもで、彼女だけの給料などたかが知れていた。
 それでも、姉弟だけで暮らすのならばなんとかなるだけのお金が無いわけでは無かったが、二人はそれに加え父親の残した借金まで背負っていて、生活はいつも苦しかった。救いは、妙がいつも笑顔を忘れない事だったが、その彼女がいつもの気丈な笑顔を浮かべたままで、年齢を誤魔化して風俗店ででも働こうかと思うと言った時には、新八は血の気が引いた。
 今だって、その事を考えれば背筋が凍る。少女らしい時間を全て削って己を守ってきてくれた姉に、あれ以上の犠牲なんか払わせるわけにはいかなかった。
 だから、ガクジと出会った事は幸運だったとすら言える。おかげで姉弟は飢える事無くやってこれたし、今だって同じ状況になってそれしか道が無いのなら、きっとあの頃と同じ事をするだろう。
 ただし、万事屋からは姿を消してから。
 それが、昔と今の新八の違いだ。万事屋に、居場所を見つけてしまった。銀時を愛しいと思い、神楽を可愛いと思うし、定春も大事なのだ。

「で?物騒なモンを持って俺をどうするって?」
 ガクジが立ち上がり、逃げる素振りも見せずに部屋へと戻ろうとする。その背中に木刀の切っ先を突きつけて、新八はケイタイを貸せと言った。
「警察に突き出すに決まってるだろ。恩赦で出てきた男が未成年者の拉致監禁、今度こそそう簡単に出てこられると思うなよ」
 するとガクジは気味の悪い位に素直に懐からケイタイを取り出し、新八に向けて放る。そしてそのまま通報しようとする新八を眺めて、ニヤつきながら戸口に背中を預けた。
「それでも、死刑になるほどじゃあねぇなぁ。俺は塀の中じゃ模範囚だったんだぜ、今回だってそうなる自信はある。だったら案外、早めに出てこられるんじゃねぇかなぁ。少なくとも、お前が生きてるうちにはな」
 最後のゼロを押す前に、新八は静かに顔を上げてガクジを睨み付ける。昔より、視線が近くなった。確実に三年の時は過ぎて、自分の身長が伸びている証だ。それなのに、この男は何も変わっていない。変わっていないのに、世間はこの男に社会復帰のチャンスを与えようとするのだ。
「なあ、そしたら今度はお前がまた相手してくれよ。今回だって本当は俺はお前が良かったんだぜ?なのにお前がつれないから、あいつが運悪く捕まっちまって刺青なんか彫られてついでにケツまで掘られちまったってわけだ」
 品の無い笑いを漏らすガクジに、新八は握っていた木刀の柄に更に力を込める。
「人のせいに、するな。お前が下衆なのは、誰のせいでもないだろ」
「言うねぇ、その下衆に足開いてたのはどこのどいつだよ。全く、お綺麗になったもんだねぇ、おい。そんな品行方正にしか見えない今のお前がさ、昔やってた事なんて当然あの銀髪頭は知らねぇんだろ?あぁ、そういやお前あいつとデキてんの?やっぱり一度覚えたら男の味ってのは堪んないもんなのかねぇ」
「黙れ!」
 片手で木刀を振上げて、ガクジの頭目掛けて横になぎ払う。手加減する気は全く無く、壁が若干抉れて漆喰が落ちた。そのまま頭ごと嫌な笑みを浮かべる顔が無くなればいいのにと、新八は舌打をする。
「おお、こえーこえー」
 ガクジは屈み込んで、ひゃっひゃっと笑う。
「黙れ、ガクジ。あの人たちに余計な事は言うな、僕はもう昔の僕とは違う」
「へー、それで昔の事は無かった事にしてくださいとでも、言うつもりか?無理だろ、いつか知られるに決まってる。例えば次に俺が出てきたら、またお前に会いに行くぜ?その時まだあの銀髪と一緒にいれば、今度こそ何かタダナラヌ関係だったことなんてばれるに決まってる」
「黙れ!」
 叫びながら、新八はガクジの言う事が正しいとは分かっていた。誰も知らなくても、誰が口を閉ざしても、自分のやってきた事は変えられない。それでも、新八は嫌なのだ。自分を壊れ物の様に、恋愛に奥手な子どもの様に優しく扱ってくれる銀時を、とうの昔にそれも彼と出会う前から裏切っていたなんて事を知られたくない。
(エゴだ、分かってる。それでも)
 こいつがいなければ、あの当時の自分を知る人間はいなくなる。
 ふと、新八の頭にその事が浮かんだ。
 妙も知らないのだ。当時得ていたお金は、怪しまれない程度に小分けにして渡していた。元々友達と遊ぶ余裕なんて無かったから、親しくしていた友達もいない。本当に、目の前のガクジと己だけが知っている事。
「なあ新八、秘密を抱えて生きるなんて苦しいぜ?ぜぇんぶ吐き出して、楽になったらどうだ?そんでまた、あの仕事すればいいじゃねぇか。お前向いてたぜ?絶対。あんな金の入りが悪そうな仕事なんかより、よっぽど楽でその上キモチイイんだぜ?辞め難いなら、俺が言ってやろうか。あの銀髪に、ここにいる無害そうな少年が、実は昔・・・」
「黙れエエェェエエ!!」
 ここでこいつを消してしまっても、構わない。新八の脳髄が沸騰した。
「新八!」
 ガクジの脳天目掛けて木刀を振り下ろそうとした瞬間、その切っ先は一人の声によって阻まれた。


「畜生・・どこ行きやがった・・・」
 銀時と神楽は定春が駆け去った方向へ走っていたが、街中でいくらでかいとはいえ全力疾走する犬を追うのは難しい。あっという間に見失い、銀時は脇腹を抑えて立ち止まった。
「定春ぅー!」
 さすが戦闘民族である神楽は疲れを見せてはいないが、不安そうに眉をしかめて定春の名を呼ぶ。
「くそっ!」
 空を仰いで鋭く息を吐き、銀時は流れてくる汗を乱暴に拭う。道行く人たちが二人を怪訝そうに眺めて通り過ぎていくが、それを気にしている余裕は無い。
 もっと問い質しておけば良かった。ガクジと叫んだあの男と新八の間に、何があったのか。
 言いにくい事である事は明らかだったし、自分もまたそんな過去を持つからこそ、無理に聞く気はしなかった。過去にどんな事があれ、今の新八を信じていれば大丈夫だと、馬鹿みたいに思い込んでいた。
 馬鹿だった。大丈夫じゃないのは、新八だったのに。普段余りにも所帯染みてて、自分より余程大人びた発言をするからといって、新八が十六の子どもであることには変わりない。
 銀時が己の過去をそれなりに乗越え受け入れるには、それ相応の時が掛かった。新八の年になど、自己嫌悪に潰されない為に自分を正当化して誤魔化すだけで精一杯だった。
「銀ちゃん、どうするアル」
「探すに決まってんだろーが!」
 あそこまで周りを見失っている新八に、木刀を振らせるわけにはいかない。あの少年の武士道は、こんなところで折れてはいけない。
「落ち着け、あいつの名前は分かってるんだ」
 そして己は、それなりに情報源を持つ万事屋だ。人探し物捜しはお手の物、それが万事屋の売りだった筈だ。
 銀時は自分にそう言い聞かせて、一つ大きく深呼吸した。
「よし。ここいらを根城にしてる情報屋に当たってみる、走るぞ」
 ガクジと言う名が偽名だとしても、最近恩赦で出てきた男となればそれなりに情報は流れているだろう。神楽も神妙な顔つきで頷き、傘を抱え直す。
 二人が銀時の知り合いである情報屋の元へ向かおうとしたその時、前方から聞き慣れた犬の声がした。
「定春!銀ちゃん、定春アル!」
「新八は!」
 去っていた時と同じ勢いで突っ込んできた定春が、周囲の人間を蹴散らして止まる。神楽を見て嬉しそうに尻尾を揺するが、その背中に新八の姿は無かった。
「こいつぁ」
 その代わり、定春の背中にしがみついていたのは探していた伸介だった。
 定春の背中にぐったりとうつ伏せになっている少年の顔を上げて、銀時は預かっていた写真を取り出して見比べる。間違いない、若干やつれてはいるが本人だ。
「定春、こいつどこで見つけたアルか!新八は今もそこにいるアルか!?」
 伸介の手から定春の毛を引き剥がして、銀時は背中から彼を下ろす。その時、その手の甲に赤い花の刺青がされているのを見た。
 無言で、眉をしかめる。母親の話で、こんな分かりやすい目印が出てこなかったのはおかしい。話の通り、見るからに地味な優等生という外見の伸介に、それは余りに不釣合いだった。
 という事は、これは行方不明の間に新たに刻まれたものか。
「銀ちゃん!こいつがいたとこにまだ新八がいるって、定春が言ってるアル!」
 神楽が相変らず銀時には分からない方法で、定春の意志を悟ったらしい。案内するアル!と興奮して定春の背中によじ登ろうとする神楽を、銀時が制した。
「神楽、お前はこのガキ病院に連れて行け。そんで、こいつの母親にも連絡しとけ。定春は、俺が連れて行く」
 無造作に神楽に押し付けられた伸介は、それでもピクリとも動かない。外傷は見当たらないが、分からない。不良とは程遠い子どもの肌に、刺青を彫るような奴の元に一週間。何があったかは分からないが、それだけで銀時の背筋に虫唾が走る。
 そんな男と過去に何かあったらしい新八が、今もそいつと共にいる。
「どうしてアル!私も行くネ!」
「駄目だ」
 どんな事情があるか知らないが、新八は神楽に絶対知られたくはないだろう。銀時も、そんな新八の薄暗い過去など神楽には知って欲しくない。多分新八は自分にも知られたくないと思っているだろうが、そこは諦めてもらおう。己は万事屋の社長なのだし、何より自分は我侭だ。新八に一人で苦しい思いをさせるなんて、まっぴらだ。吐き出さずに抱え込んで昇華できるのならそれでいい、しかし、抱え込めずにこうして暴走する位なら。
「ちったあ子どもらしく、甘えて寄り掛かれってんだ」
 怯えなくて良い、どんな過去があったって、自分がもう新八を手放すことなんてあるはず無い。それを言って、あの丸い頭を思い切り拳で殴ってやりたい。
「神楽!新八は必ずお前に殴らせてやっから!病院で待ってろ、病院着いたら万事屋の留守電に場所入れとけ!」
 銀時は腰を木刀がそこにしっかりと差さっている事を確認して、定春に跨った。
「行け!」
 定春は今度もまた、状況が切羽詰っている事を察しているかの様に素直に走り出した。
「銀ちゃん!絶対、絶対新八殴らせるアルヨー!!」
 伸介を脇に抱えて、神楽は通りの人間達が何事かと目を見張る中で叫んだ。
 定春の白い姿が消えるまで立っていた神楽は、その姿が見えなくなると同時に込み上げてきたものをぐっと嚥下する。鼻の奥がツンと傷んだが、今はそんなことを気にしている場合ではない。
 銀時に任されたことは、この少年を病院に連れて行くこと、だ。
「大丈夫、銀ちゃんなら何とかしてくれるアル。新八も無事に戻って来て、すぐに元の万事屋三人組ネ」
 大丈夫、大丈夫、と数回繰り返して、神楽はぐっと顎を突き出した。さぁ、病院に行かなければ。
 ところが、神楽は病院の場所を知らない自分に気付いた。
 何度と無く万事屋が世話になっているのは大江戸病院だが、詳しい行き方は覚えていない。ここから近いのか遠いのかも分からない。タクシーで行こうにも、当然ながらお金は無い。まさか酢昆布数箱分で、乗せてくれるタクシーは無いだろう。
 仕方が無い、適当にタクシーに乗り込んで依頼人へのツケにしよう。
 万事屋独特の教育が行き届いた賜物でそう考えた神楽は、人形でも抱えている程度の無造作な仕草で脇の伸介を抱え直す。
 タクシーを拾って、病院に行って、えぇと銀ちゃんは後何をしろと言っていたっけ?そうだ、依頼人である母親に電話をして、万事屋にどこの病院かを留守電にいれて・・・。
 不意に、誰もいなく薄暗い万事屋で鳴り続ける電話と、そこから流れる自分の声を想像して、神楽は上げかけていた手を止めた。留守電に吹き込まれる声は、多分、とても情けない声をしてるんだろう。
 誰もいない万事屋、想像するだけでまた鼻の奥がツンとなる。
 駄目だ、ちゃんと任された事をやらないと。
 そう思い直して、神楽がタクシーを停め様と一歩踏み出した時、背後から間延びしたやる気の無い声がかけられた。
「チャイナァ、こんなとこで誘拐拉致たぁいい度胸じゃねぇかィ」
 振り返らずとも分かった、不良警官沖田総吾だ。
 こんな時に、と盛大に舌打ちをして神楽は肩越しに振り返る。やはりそこにいたのは沖田だったが、彼がこんな所まで管轄にしているとは知らなかった。
「仕事もしないでブラブラしてる奴に、とやかく言われる筋合い無いネ。私仕事中ヨ、お前邪魔アル。どっか行け」
「仕事してまさぁ、だからこそテメェのその犯罪を見逃す訳にはいかないんでサァ。ほれ、お縄を頂戴しなせぇ」
「うるっさい!!ガタガタ言ってんじゃネーヨ!さっさと失せるアル!」
 今沖田と小競り合いをしている心の余裕など無い神楽は、燃える瞳で沖田を睨み付けた。可愛らしい少女の姿とはいえ、その戦闘レベルの高さを知る沖田は一瞬本気で殺気を感じたが、すぐに神楽の顔がくしゃりと歪んだのを見て、刀の柄に伸ばした手を止めた。
「仕事って、いつから万事屋は誘拐に手を染めたんで?」
 沖田の口調から、間延びした呑気さが消えた。
 いつも顔を合わせる度に殺しても良いとすら思って喧嘩をする神楽は、言葉以上に沖田の気配を悟る事に敏感になっている。この些細な口調の変化が、彼の意識がふざけたものから真剣なものへと変化した事を示していることを知っていた。
「・・・こいつ、行方不明で捜索願い出されてたアル。それを探し出した新八がその犯人と何か揉めてて、銀ちゃんが私も行くって言ったのに病院に連れてけって、定春も連れてってしまったネ。だからさっさと病院にこいつ突っ込んで、その母親にも電話して、万事屋に病院の場所の留守電入れておかなきゃならないアル・・・」
 なるほど、と沖田が呟いた独り言は神楽の耳には入らなかった様だ。ただ俯いて、不貞腐れた顔をしている。でもこれは、彼女が不安を感じている時の表情だ。
 神楽が沖田の気配を悟る様に、沖田もまた彼女の分かりにくい天邪鬼な表現の真意を読み取る事にいつの間にか長けていた。
 話の要領は得なかったが、とにかく何かまた揉め事に巻き込まれているらしい。しかもその中心は、あの眼鏡君。
(そりゃあ、心配でしょうねィ)
 普段はかなりぞんざいな扱いを受けている印象の新八だが、その実万事屋で重要な軸を支えていると沖田は見ている。彼がいるから、銀時も神楽も我侭放題やりたい放題していられるのだ。
 犯罪が絡んでるとなれば、自分が少々ここで道草を食ったとしてもそう怒られはしないだろう。沖田はそう踏んで、俯く神楽を無視してタクシーを一台停めた。たとえ怒られたとしても、自分が仕事中に余計な事をするのはもはや日課なのだから、大した問題ではない。
「チャイナァ」
 扉を開けるタクシーに乗り込んで、沖田がいまだ俯いたままの神楽を呼ぶ。神楽は怪訝そうな顔を上げて、ずり落ちる伸介を抱え上げる。
「貸し、一つな。病院行くんだろぃ」
「・・・・銀ちゃんが、人に何か貸す時は返ってこない覚悟で貸せって言ってたネ」
「安心しろィ、トイチで取り立ててやらぁ」
「警察がそんな暴利貪っていいと思うのか、汚職警官コノヤロー」
 手を借りるのが嫌なのだろう、憮然とした表情をしながらも乗り込んできた神楽といつも通りの軽口を叩き合いながら、沖田はここから一番近いと記憶している病院の名を運転手に告げた。


 そのアパートが見えてきた時、定春が鋭く鳴いた。それで、銀時はそこが新八のいる場所だと分った。
 定春が足を止める前に飛び降り、アスファルトの上で受身を取って転がりながら銀時は唯一つ、新八の名前だけを胸中で叫んでいた。
 間に合ってくれと、具体的に何にとは自分でも分らずにアパートを見上げて、そこに二つの人影を見つける。
 間違いなく、こちらに背を向けているのは新八だった。木刀を抜いている。
 銀時は駆け出して、靴音を響かせて階段を上がる。己の靴音で二人の交わしている会話の内容までは聞き取れなかったが、新八の叫びだけは聞き取れた。
「黙れエエェェエエ!!」
 階段を上りきったところで、新八が木刀を振上げていた。遠慮のない、殺意の乗った剣。
「新八!」
 ガクジの脳天目掛けて木刀を振り下ろそうとしていた新八が、その呼び声に反応して切っ先の方向を僅かに変えた。ガギンッ、と硬い音がして剣先が壁を抉る。
「銀、さん・・・?今の、聞いて・・・」
 新八は放心した顔で、こちらを見た。そして銀時の瞳に何を感じたのか、その顔に絶望が広がる。
「あぁ、何だ、ご主人様の登場か」
 新八の足元に屈んでいる男が、揶揄する口調で見上げてくる。これがガクジか、と銀時は睨め付けた。一度しか見ていないが、それでも印象に残る男だった。不愉快、という意味で。
「ははっ、アンタ、今の話聞いてたのか?」
「ガクジィ!」
 新八が再度木刀を振上げる。
「新八!」
 銀時が瞬時に飛び込んで、新八の木刀を握る手を片手で止める。
「てめぇの剣は、こんなことに使う為の剣じゃねぇだろう。目ェ覚ませ、馬鹿」
「へーえ、強いんだなぁ、アンタ」
 粘つく声で笑うガクジをとりあえずは無視して、銀時は静かに新八を見下ろす。新八は焦点の定まらない瞳で銀時を見上げ、そして、崩れた。
 身体が、では無い。何か、彼の中の何かがその時確かに崩れたのだ。次の瞬間、新八の口から悲鳴が迸った。甲高いその声に思わず耳を塞いでしまい、銀時の手が新八から離れた途端、彼は銀時を突き飛ばして逃げ出した。
「新八ィ!」
 今度こそ逃がして堪るかと足を出しかけた銀時だったが、その背中に聞こえたガクジの忍び笑いに思わず振り返った。
「ひゃっひゃ・・・遂にイッちまったかねえ?くくっ・・・はは、哀れなガキだ」
 薄く貧相な肩を揺らして笑うガクジを肩越しに振り返った銀時の瞳には、普段からは想像も付かない程の鈍く昏い光が宿っていた。


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 ちょっと和みに沖神でも・・・(何で)予定外!!