文句あるか、これが青春だ!







愛しさが加速して、僕らはそっと涙する。


 竜也にデートの後に泊まりに来いと言われ、では泊まる為の荷物も持って行かねばならないのかと考えた時、正直シゲはげんなりした。
 一泊だけの荷物とはいえ、普段から財布しか持たずに出かける為、荷物を持ちながら歩き回るのは面倒だと零したところ、全部貸してやるから手ぶらで来いと言われた。
 本当に良いのかと念を押したところ良いと言われたので正直にその通り何も持たず、誕生日プレゼントとして買った枕を竜也の代わりに持つ位はして水野家を訪れると、何度か会った事のあるいつ見ても若く見える母親の真理子が笑顔で二人を出迎えてくれた。
「お帰りなさい、お夕飯までもう少しだからお部屋で遊んでてね」
 まるで小学生に向かって話す様な口調だったが不思議とそれに不快感は感じず、ただ穏やかに笑ってくれる真理子にシゲも愛想良く返事を返して、二人分のホットミルクティーを乗せた盆を携えた竜也と共に二階に上がった。
 絨毯の敷かれた床の上に座り込んで暖められたカップを両手で包むと、じんわりと指先が熱で痺れた。意外に冷えていた事を今更自覚しながら、シゲは数回息を吹きかけてミルクティーを喉に流し込む。
 向かい側で同じ様にしてミルクティーの揺れる液面を覗いている竜也が、今でも甘いものが好きだと知ったのはまだ付き合い出す前のこと。友達として遊ぶ様になってからお土産と称してコンビニケーキの類を持参すると、竜也は嬉しそうに良く笑っていた。
「寒くなると、ミルクティーとか旨いよな」
 夏場はコーラの方を好んで飲むシゲがふいにそう言うと、竜也はからかう様にコーラにホットは無いからなと笑う。
「あったらまずいやろなぁ・・」
「飲み物じゃねぇよ、それ」
 喉が渇いていたのか身体を温めるためか、竜也はミルクティーをほぼ三口で飲み干して机の上に置いたお盆にカップを戻した。
 まだ飲みかけではあるが床に置くと零す恐れがあったのでシゲもそれに倣い、そして傍らに置きっぱなしだった包みに手を伸ばした。
「これ、今渡してしもうてもええよな?それとも、明日まで待つ?」
 一応正式な誕生日は明日だけれど、竜也の部屋にあるものを達也が使わないというのもおかしな話である。
 どうすると首を傾げたシゲに、竜也は手を伸ばした。
「んじゃ、誕生日おめでとさん」
 はい、と少し大きめの包みを両手で持って差し出すと、竜也はまるで賞状を貰う時の様に恭しくそれを受け取る。
「ありがとうございます」
 深々と頭まで下げるその態度がおかしくてシゲが思わず小さく笑うと、受け取った竜也も顔を上げて笑った。
 シゲは丁寧な所作で包み紙を剥がしていく竜也の手元を見ながら、冷めてきたミルクティーを一口飲んだ。冷えたミルクティーは何だか甘さが増した気がして、普段飲み物には余り砂糖を入れないシゲにとって何だか新鮮な甘味が舌に残る。
「今日から使お」
 包み紙を剥がして中身を取り出した竜也は、肌触りもきちんと考慮されているようなその表面に頬を摺り寄せてから、今までの枕を下ろしてそこに今手にしたばかりの枕を鎮座させた。
 毎晩365日使える物で、しかもそうそう使えなくなったりしない物を初めてのプレゼントで貰えた事が、竜也は非常に嬉しかった。
 もしかしたら、そういうプレゼントは別れる時には却ってしこりの残る物になるかもしれないという後ろ向きな思いがちらりとよぎったりもしたが、そんなことは今考えるべきではなかった。
「ありがとう、シゲ。嬉しい」
 嬉しいと思う、今好きだと思う人間からプレゼントを貰えて嬉しくて堪らない、それだけ感じていれば良い。
 どういたしましてと笑ったシゲが、ベッドに上半身を乗せて肩越しに振り返っていた竜也に覆い被さるようにキスをした。
 拒むつもりは毛頭無くてそのまま舌をすんなり受け入れた竜也に、シゲがキスの合間に好きだと零した。
「うん、俺も」
 そして僅かに出来た隙間を縫って仰向けに体勢を直して、二人は向かいあってキスをした。
 今までも何度もキスをして吐息を絡ませ合って来たけれど、そこにベッドがあったことは一度も無く、二人分の体重に軋む音がやけに生々しく二人の聴覚を侵す。
「ん・・」
 鼻から抜ける様な声が竜也から漏れて、シゲの腰と脳髄がジン・・と痺れた。
「たつぼん」
 用事なんて無くても何度でも呼びたいその名を呟くと、竜也が鼻先で緊張感が抜けると笑った。
「シゲ、好きだよ」
 付き合う前は、口にするなんて考えもしなかったし頭に浮かびもしなかった言葉が、今はすんなり口先に昇ってくることが心底不思議だったけれど、竜也は自分のその変化を後悔したことは無い。シゲが、本当に自分の事を好いてくれると思うから。
 求めるフリをしては躊躇するシゲにそろそろ飽きてきたのかと疑った心が、こうやって抱き合うだけで伝わるシゲの心拍数に溶ける。
 ドクドクと、自身の胸を通して伝わるシゲの鼓動に竜也の頬は自然に緩む。
「うん、ありがとお」
 求めた相手が好きだと返してくれる事がこんなに嬉しかったなんて、回りが所謂健全な男女交際を始める時期には既に不健全な交際を中心にしてしまっていたシゲにはやたらと新鮮で、新鮮すぎて軽くパニックになることがある。軽く考えて触れてきた相手と同じ手順で触れていこうとする自分が、咎められる様な気になることがある。
 けれど、今は大丈夫だとシゲは惹かれるままに竜也の首筋に唇を押し付ける。
「くすぐった・・」
 竜也の薄手のセーターの奥から彼の鼓動が早くなってくるのが伝わってきて、互いにそうしたいという望みがあるんだと安心できた。
「・・・ちょい、待て」
 なのに、セーターの裾を割ろうとシゲの腕が伸ばされた瞬間、竜也のそれが留めてきた。
「なに」
 盛り上がりかけていた雰囲気をいきなり壊されて声が低くなるシゲに、竜也はいいから待てとシゲの下から這い出す様にベッドに上がって胡坐をかいた。
「お前が上なわけ?」
「・・・あ」
 どこか不機嫌そうに眇められたその瞳に、シゲは翼にその辺はきちんと話し合えと言われた事を思い出した。下手をすれば自分より男前で、そこに惚れたと言っても過言ではない竜也なのだから、当然女役をするのにも抵抗があるに違いない。
「嫌なん・・・?」
 竜也が望むのなら自分がそちら側を担う事を考えてもみようとは思うが、自分のそんな姿で竜也がその気になれるとは到底思えない。
 竜也は少し考え込む様に目を泳がせて、最後にちらりとシゲを見る。
 シゲはベッドの下に腰を下ろして、ベッドの上で見下ろす竜也にお伺いを立てる様に見上げている。それを見下ろす竜也の目元がふと和らいで、シゲは怪訝そうに眉根を寄せた。
 竜也はそのまま四つん這いになってシゲに首を伸ばし、その髪をくしゃりと掻き上げた。
「いいよ」
「・・・・ほんまに?」
 そのまま髪を梳いて頬に下りる指先に瞠目しながらシゲが呟くと、竜也の唇が軽く音を立ててシゲの唇に触れた。
「後でな、すぐに夕飯だし」
 そのまま不安定な体勢で深いキスに興じていた二人の間に、真理子が優しげに呼ぶ声が挟まれるまで大した時間は掛からなかった。


 真理子とその妹の百合子、それに竜也の祖母を交えて五人でリビングに出した食卓を囲み、竜也の脇ではホームズが行儀良く出された餌皿からのみ食事をしていて、シゲは心からその団欒を楽しんだ。
 真理子お手製のケーキが出てくる頃に残業を終えた孝子も帰宅して、シゲは久しぶりと言われて抱き締められてしまった。思わず鼻の下を伸ばしかけたシゲだったが、竜也が冷ややかな笑みを浮かべている事に気付いたので苦笑するに留まらせておいた。
 疲れた時には甘いものだと豪語する孝子に、ダイエットはどうしたと切り返して殴られる竜也を見やりながら、それでも二人とも顔には笑みが浮かんでいてシゲも何だか暖かな気持ちになる。
 決して自分が母と二人暮しであることを不幸だとか寂しいとは思わないが、やはり大人数で騒ぐのも悪くは無いなとシゲは終始笑っていた。
 子供にはまだ早いというワインを一本孝子と百合子が飲み干して、二人がやたらと陽気な笑い声を上げる頃に、一人呆れ顔をしながら席を外していた祖母が風呂場から戻って来て、用意ができたから先に入りなさいとシゲを促した。
「え、そんな、ええですよ。押しかけた俺が一番風呂なんて貰えません」
 根元まで金髪に染めてピアスが左右で合計六個空いているシゲは、時折そんな一面を見せる。玄関で靴をきちんと揃えて脱いだりもするそのギャップが可笑しくて愛しくて、竜也は恐縮した様子で祖母に断るシゲに笑う。
「いいよシゲ、入って来いよ。お前客なんだからさ。タオルと着替えっつってもジャージだけど、出しといてやるからさ」
 竜也の言葉に水野家の女性陣が全員深く頷いて、シゲは一瞬迷う素振りを見せたが、結局はにかんだ様に笑ってありがとうございますと口にした。
 一旦二人で部屋に戻り、ジャージを手渡す。シゲの方が若干身長が高くはあるが、サイズ的には変わらない筈だと言い添えた竜也に、シゲは自分の方が脚が長いとのたまって蹴りを食らった。
 シゲが湯気を立てながら出てきた後は、子供から順番と竜也が風呂に追いやられた。
 部屋に一人残されたシゲはボスンとベッドに寝転んで、シーツから微かに昇った竜也の家の匂いに瞼を閉じる。
 耳元でやけに心臓の音が大きく聞こえる。緊張しるんだと頬に熱が上るのを感じて、シゲは誤魔化すように勢い良く上体を起こす。そしてベッドを降りて部屋の隅に放った自分の服を手に取り、ズボンのポケットから財布を取り出した。
「・・・・ハズいわぁ・・」
 中に何段か付いているケース入れの一つから、見慣れた筈の夜のお供を取り出す。そのゴムの製品は何度も使って来た筈なのに、何だか気恥ずかしくてシゲは素早くマットの下にそれを隠した。
 いそいそと準備をしている様な自分が何だか無性にいたたまれなくて、シゲは肩に掛けられたタオルでガシガシと乱暴に濡れた髪を拭う。
 翼から教わった男同士の手順なんてものを頭で反芻しながらベッドにうつ伏せていると、軽い足音が階段を昇ってくるのが聞こえた。
 全神経をそちらに集中させつつも顔はシーツに埋めたままでいると、扉の開く音がする。
「・・・シゲ?」
 呼びかけにも顔を上げないシゲを不審に思った竜也が近づいて、ふわりと自分と同じシャンプーの匂いが掠めシゲは強く目を閉じた。
「寝てんの?」
「・・てへん」
 ころんと頭を横向きにして竜也の方を見やると、階下でドライヤーを当ててきたのか僅かにしか湿っていない髪の竜也が居た。
「何してんの、んな死体みたいになって」
 ダイイングメッセージとか残す?そう言って笑みを作った唇から白い歯が覗いて、シゲは黙って頬に手を伸ばした。
「ん・・・」
 改めて注視するとやっぱり長いなと思わせる竜也の睫毛が微かに震えて、シゲは口付けながら身体を起こす。同じ様に口付けながらベッドに上った竜也は、歯列を割ってシゲの舌が入り込んできたところでその肩を押しやった。
 また中断するのかと夕方のことを思い出したシゲがはっきりと眉根を寄せると、竜也は目元を若干紅潮させながら慌てるなと言ってベッドの上で手を伸ばし、照明の紐を引いた。
 素早く三回紐を引かれた照明は、素直にその役目を終えて沈黙する。
「豆電気くらい点けへん?」
 明るいところに慣れた目は突然下ろされた闇に順応できず、二人は憶測で互いに手を伸ばす。
「嫌だね」
 シゲの腕が竜也の脇腹に当たり、竜也の手はシゲの肩に当たった。そのまま互いを抱き寄せてシゲの肩に竜也が頭を埋める格好になって竜也が呟く。
 恥ずかしいとかそういう可愛らしい理由なのだろうと思い、シゲがその柔らかな髪に頬を摺り寄せると、くぐもった声が後を続けた。
「電気代もったいない」
「・・・・・・そうですか・・・」
 ムードもへったくれも無い台詞に脱力したシゲの肩口で竜也はおかしそうに笑い、頭を傾けておもむろに目の前にぼんやり浮かぶ首筋に唇を這わせた。
 それが、スイッチだった。

「んー・・・っ、う・・」
 肩に置かれた竜也の手が、ギリ・・とシゲの皮膚を引っ掻く。闇に慣れた目は向かい合って膝立ちになった竜也の苦しそうな表情をしっかり捉えていて、シゲは進めた指をそこで止める。
「きつい?」
 女ではないのだから自動的に受け入れる準備をしてはくれないのが男同士のセックスで使う個所ではあるが、潤滑剤を使っても尚異物を阻むそこにシゲは少々困惑する。
 元々、異性とセックスしていた時にも相手は大概慣れていて、初めての相手をしたことが無いのが実情だ。だからやたらと苦しそうな竜也の表情に、シゲはまるで自分が痛いかのように顔を歪めた。
「止めた方が、ええんやない?」
 目尻に生理的な涙を浮かべた竜也は気丈にも首を振って否定したが、シゲが僅か指を進めようとするだけでその喉から引きつった様な悲鳴が漏れた。
「・・いっ!」
 ぎゅう、と防衛本能が働いたのか間接をきつく閉められて、シゲは今度こそはっきりと眉間に皺を寄せた。
「・・いき・・からっ」
 その表情に何か勘違いをしたのか、竜也はシゲの肩に噛み付いて続けろと呻いた。
「て、言われても・・・」
 正直言って、指一本さえ痛がる竜也に自分が納まるとは到底思えないシゲは、翼に言われたことも頭をよぎってゆっくろ指を引き抜いた。
 潤滑剤のお陰か抜くときにはあっさりと引けた指に、竜也の喉からは抑えきれない安堵の溜息が漏れ、そして次の瞬間には涙の浮いた瞳でシゲを睨みつけてきた。
 その表情に軽く溜息を吐きながら、シゲは手元に引き寄せておいたティッシュボックスから数枚引き出して指先を拭う。
「無理やって、最後までは。姫さんだって三本は入らないと本番絶対きついって言うたし」
「・・・・お前は何を聞いてるんだよ」
 そしてあの人も何をさらっと答えてるんだと眉を顰めながら、竜也はそれでもシゲの肩から手をどけなかった。
「お前が、したいって言ったんじゃねぇか」
 だからこうしてるのにと不服そうに呟いた竜也のその態度に、自分が散々引きつった悲鳴を上げたくせにとシゲもまた頬を強張らせる。
「言うたけど、けど、こんまんま挿れたら絶対切れんで。そんなん、俺かて気持ち良ぉ無いわ」
 シゲが言ったのは、竜也にそんな痛みを与えながら無理にセックスなんてしたくないという意味で。始めに強請り始めたのは自分のほうだけれど、決してただ自分だけが気持ち良くなりたいからではない。
 竜也に触れて、深く繋がりたいのは山々だけれど、それよりも竜也に笑って欲しかった。始めから気持ち良くなれるわけは無いと分かっているけれど、それでも出来る限り負担は減らしてやりたい。
 そう思っての言葉だったのだが、目の前で竜也が暗闇でもそうと分かるくらいに青ざめたのを見て、シゲは相手が何か誤解したのだと悟る。
「・・・ごめん」
 案の定、竜也はシゲから視線を逸らして謝罪の言葉を口にする。
 ゆっくりと背中に回された腕に離れようとした身体を固定されて、竜也はせめてもとシゲの肩から手を下ろす。
 女の様に、初めてでも相応に自然と準備をしてくれる身体ではない男の身体が嫌だと、生まれて初めて竜也はそう思った。
 望んでいるのに、この身体は開かない。心にはもうかなりの深さまでシゲが入り込んでいるとこの三ヶ月で思い知らされたのに、身体はそれを異物だと拒絶する。
 歯痒かった。言い出したのはシゲだけれど、望んだのは自分も同じだ。寧ろ中々キス以上に進まないシゲに焦れていたのも多分自分の方で。それなのに、いざとなると全然思い通りにはならない身体。心と間逆に一向に潤わない身体がいっそ腹立たしい。
「たつぼん、何か勘違いしてへん?俺別に、やっぱ女の方が面倒が無くてええとか、思ってへんよ?」
 その言葉に弾かれた様に顔を上げた竜也に、シゲはああやっぱりと血の気の引いてしまった竜也の頬にそっと口付けた。  逃れるように揺れた肩を無視して腰を抱き寄せ、腹に当たる感触で竜也が興奮を示していないことを感じる。
「たつぼんが辛いだけなら、最後までしたないだけ。別に、ほんまに初回で最後までできるとか思ってへんし。ヤらして言うてはいたけど、ほんまはもっと触りたいだけ」
 普段は布越しになっている、この胸とか腹とか背中とか。滑らかな竜也の肌に唇を這わせて、シゲは気持ちいいと呟いた。
 滑る他人の柔らかな唇の感覚に、竜也の身体が恐怖でも痛みでもなく強張る。
「なあ、たつぼん、も少しちゃんと準備しよ?そんで、それまで一杯触らせて」
 胸に埋められたシゲの髪がさらさらと肌を滑って、竜也は思わずその頭を掻き抱いた。腕を回した裸の背中の感触が気持ち良いと、シゲの湿った髪に鼻を埋める。汗とシャンプーの香りが胸を満たして、竜也の肌に温かみが戻ってくる。
 痛みと緊張で冷えてしまっていた竜也の身体が、ただ抱き合っている内にじんわりと温かみが戻って来て、シゲはその心臓の音をただ聞いた。
「触ってもええ?」
 背中に回した手を丁寧に背骨を辿って上に持ち上げると、耳元で竜也が少し笑った。
 急ぎすぎたんだ、と竜也は胸中で自嘲した。シゲの気持ちが離れていかないか不安だったとか、女に負ける気がしたとかそういうんじゃなくて、ただ、想いだけが深まって身体も同じだけ深く触れたいと思った。けれど、それにはまだ身体の準備ができていなかった。
「触って。そんで、俺も触る」
 まだ見て無い個所は互いにたくさんあって、触れてない肌も存分に残っている。それなのに相手の内部を、一番熱いものを感じようなどと、まだまだ早いと誰かに笑われている気がした。
 誰に?神様に?だとしたら、その神様はきっと翼の様に綺麗で酷薄な笑顔をしているだろう。
 お互いの身体から顔を上げた二人は、出来る限り肌を密着させたままキスをした。
「たつぼんのイイトコ、開発したるなー」
「親父くせえ。だったら俺も、性感帯は首vとか言わせてやるよ」
 暗闇の中互いの顔だけが確認できる距離で笑い合って、その夜はただ無邪気でじゃれあった。欲望の兆しを見せた互いのそれを、胸や唇、鼻と同じ様に擦り合わせたのは、ただ相手が愛しかったから。
 必死で息を殺して声を殺して互いに果てた後は、笑い声を堪えるのに苦労した。
 シゲが見た竜也が、竜也が見たシゲが、少しも苦しそうでなく暖かそうに紅潮した頬で幸せそうに笑っていることが、心の底から幸せだと思った。
 体温を分け合うように身を寄せ合ってベッドで忍び笑いを漏らし、シゲがふと気付いたように部屋の壁掛け時計に目をやった。
「あ、過ぎてる。おめでとさん、たつぼん」
「ありがと」
 言われた台詞に一瞬瞠目した竜也は、すぐに目を細めてシゲの二の腕にキスをした。
「それ、俺にも使わせてくれるんやないの?」
 他人の肌が気持ち良くてどうしても緩む目元を隠しもせずにシゲが竜也の頭の下の枕を指して問うと、竜也はそれを抱えるようにしてうつ伏せになる。
「俺の匂いが染み込むまで使ってから、貸してやる」
 白く浮き上がる肩に掛け布団を引っ張り上げながら、シゲはその頬に指で触れた。
「すんごい台詞。楽しみにしてますわ」
 これから毎日竜也の安眠に役立つであろう枕を選んで良かったと、シゲは素直にそう思った。
「寝よう、明日昼間ッから翼さんと遊ぶんだから」
 自分に宛がわれたのは今まで竜也が使っていた枕で、こっちには十分竜也のシャンプーの匂いが移ってると、散々裸を晒した後だというのに何だかドキドキしながら、シゲは頷き返す。
「体力使うわな」
 同時にお休みと口にして、二人は狭いシングルベッドで寝返りも十分に打てない寝床で、それでも幸せに目を閉じた。




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 はい、おめでとう竜也!!
 本番至ってなくてすいません、別に表だからという理由ではなくて、最初から男同士で上手くいくか、そこで失敗してこそ青春だろ!とわけの分からない主張をしてるからです、私が。
 だってこの企画のタイトル「これが青春だ!」とか言ってるし!(青春って、そういうもんか・・?