14.胸には愛を、君には嘘を。(2) シゲは竜也の上着を捲り上げ、傷一つ無いその背中に真っ直ぐ通る背骨に歯を立てる。 「・・っつ」 竜也の口元から堪える様な声が漏れる。 シゲは、倒れたイーゼルと落ちたキャンバスとただ一つ静寂を保って立つ椅子との間に竜也の身体を縫い止め、露にした背中の上から下へ真っ直ぐと舌を這わせた。 「ぅあっ」 冷たい外気に晒された背中に生暖かいシゲの舌を感じて、竜也は身を震わせる。竜也の胸に這わされた手は、するりと竜也の上着の下を通ってその冷たい指先で竜也の首筋に触れた。 「冷たい?」 震える竜也の身体に触れながらおかしそうな響きを含んでそう尋ねたシゲに、竜也はただ銅貨を握り締める。 シゲにそのまま上着を脱がされ、竜也は体温が急速に下がっていくのを感じた。 「すぐに熱くしたるよ」 それを下に敷かれて仰向けにされ、頭のすぐ脇に置かれたランプが覆い被さるシゲの顔を浮かび上がらせる。 それは、竜也の知らない男の顔だった。 からかいながら叱咤しながら、それでも竜也に優しく触れたシゲではなかった。 「い・・っ」 シゲが鎖骨の辺りに噛み付いて、薄い皮膚は敏感に痛みを訴える。シゲはすぐに慰撫するようにそこに熱い舌を這わせ、また別の場所へ噛み付いた。 「ぃて・・っ」 そうしながら、手は脇腹を通り過ぎて着衣の上から竜也の性器に触れる。 まだ何の快感も示していない竜也のそこをシゲはするりと撫で上げる。 「・・・ぁ!」 上半身に落とされる尖った犬歯の痛みとは裏腹に、下半身へのその愛撫は酷く優しく続いた。宥めるように優しく擦り上げられ柔々と揉みしだかれて、竜也の心音はドクドクと大きく脈打ち始める。 「気持ちええやろ?」 「ふ・・ぁっ」 布の上から先端に爪を立てられ、酷すぎない焦れた快感に竜也の腰が知らずうねる。 握り締めていない手で床に着いたシゲの腕に触れると、シャツを通してシゲの肌が汗ばんでいるのが分かった。 「あっぁ・・っ、あ」 竜也の胸に汗の玉が浮き始めるのをオレンジの炎の下で見つめ、シゲは竜也のズボンに指を掛けた。 シゲの吐き出した息は白く、浅く早く繰り返される竜也の呼気も夜気に白く広がって消えていく。 「へぇ、中々ご立派ですこと?」 揶揄するようにシゲは呟き、その言葉が竜也の鼓膜を淫靡に震わせた。 シゲは竜也の膝を軽く立たせると、そこに身を沈めて勃ち上がった竜也の性器に舌を這わせた。 「うぁ!」 ぬめった舌の熱が、周囲の気温が低い分余計高く感じる。 逃げを打つ竜也の腰を抱えて、シゲは竜也の勃ち上がった性器に丁寧に舌を絡めていく。 「っあ・・っあ、あぁ、ぁ・・っ」 くぷくぷと溢れ出してきた先走りを舌先で先端に塗り込める様にすると、竜也の腰が高く浮いて鼻にかかった甘い嬌声が室内に響いた。 「イク?」 苦味を味わいながらシゲが吐息を吐きかけると、竜也の内股が震えた。 「や・・、も、あぁっ」 片手が耐えかねるようにシゲの髪を掴むが、シゲはお構い無しに口内に全てを咥え込んでそれを吸い上げる様な愛撫を加える。 「はな・・っ、あ!」 竜也の手がシゲを引き剥がそうとした途端、一際強く愛撫を加えられて竜也はあっけなくシゲの口内に果てた。 「あーあ、たつぼんの方が気持ち良くなってどないすんの?」 口内に広がった竜也の精液を手の平に吐き出しながら、シゲは身体を起こして竜也を見下ろす。 「は・・ぁっ」 達したばかりの竜也は恍惚とした瞳でシゲを見上げ、腕で身体を抱くようにして震えていた。 「寒いん?」 いくら熱の出る行為をしているとはいえ、息の白い室内で、しかも床で裸体を晒していては、いくら身体が発熱しても追いつかないだろう。 シゲは身体を起こして汚れていない方の手を伸ばし、下に敷いた竜也の服で竜也の身体をくるむようにすると、竜也の手にその服の端を握らせて汗ばんだ竜也の前髪を掻き上げて額に口付けた。 「もう少し、な」 涙の浮かんだ瞳で竜也がシゲを見返すと、シゲはその目尻に溜まった涙を舌で舐め取った。 そして再び身体を沈め、露になったままの竜也の下肢を浮くほどに持ち上げた。 「・・・っ」 何を意図した行動なのか瞬時に理解した竜也は一瞬身体を硬くするが、シゲの濡れた指が秘孔に触れ、そこを軽く突付く様にしながらシゲは竜也の内太股に噛み付いた。 「力抜いて」 「・・・は・・ぁ」 噛み締めていた唇を僅かに解いて身体を弛緩させようとする竜也の呼吸に合わせて、シゲは竜也の内部に指を埋め込んでいく。 「あっ、あ・・つぅ!」 背筋を駆け上がる異物感に、竜也は握っていた上着をますます強く握り締める。 「たつぼん、力入れたら痛いやろ?」 指一本を収めきったところでシゲは動きを止めて、苦笑しながら萎縮した竜也の性器をもう一度舐め上げる。 「あっ」 そのまま性器を咥え込んだシゲに、竜也は喉を反らせて上擦った声を上げる。硬くて所々浮いた床板の上に、竜也の茶色い髪がぱさぱさと打ち付けられる。 シゲが竜也の性器を何度か舐め上げると、竜也のそれははっきりと欲情の証を見せてくる。それに連動して力の抜けてきた秘孔に、シゲは徐々に埋め込む指を増やしていった。 「あ、あ、あ・・ぃ!」 三本の指が入り込み、ばらばらに竜也の内部を掻き回す。 狭い入り口を広げられる痛みと性器にもたらされる痺れるような快感に、竜也はどうしたらいいのか分からずにシゲの肩に脚を絡めた。 「も、いい・・っ」 性器に軽く歯を立てられ二度目の絶頂を迎えそうになった竜也は、シゲは一度もその欲望を吐き出していないことに思い至って、次の行為をシゲに促した。 「せやね。そろそろ、ええかな」 シゲが身体を起こして口角を上げた時、オレンジの炎が最後の力を振り絞って鮮やかに燃え、そして尽きた。 「あぁ、油が切れたな」 突然真っ暗になった部屋に、シゲの吐き出す息が黒く影を作った。 「ま、丁度ええやろ」 そしてシゲは表情の見えなくなった竜也の足を抱え上げ、手を太股に滑らせてその奥にある秘孔を探り出す。 「ふぅ・・っん」 そこに己の欲をあてがって、意識して息を吐く竜也の揺れる吐息を聞いた。そして身体を沈め始める。 ぐっと秘孔を押し広げてくるシゲの性器の熱を感じて、竜也は肩に思い切り爪を食い込ませた。握った銅貨が手の平の中心に強く当たる。 「い・・・っつ!たつっ、締めんな!」 シゲの苦しげな声が聞こえ、竜也は咄嗟に真横にかろうじて見えるシゲの腕を掴んだ。 「っ・・」 腕に走った痛みにシゲは眉をしかめ、一旦侵入を諦めて竜也の肩を擦る。 「息、吐いて。そう、ゆっくりでええよ。そのまま、な」 腕に食い込む竜也の爪が徐々に力を抜く頃を見計らって、シゲは一気に竜也の内部を貫いた。 「・・・・!!は・・っあ!」 内臓を押し上げられる様な感覚に、竜也はつま先をぴんと張ってその衝撃に耐えた。 「・・く・・うっ、きつ・・!」 異物を噛み切ろうとでもするかのような竜也の内部にシゲは呻き、竜也の呼吸が整うまでただその状態で待った。 その内に段々暗闇に目が慣れてきて、見下ろす竜也の顔がぼんやりと見え始める。 限界まで眉根を寄せ、口で必死に浅い呼吸を繰り返す竜也のその表情に、シゲは堪え切れずに必死で息を整えようとしている竜也の口を自分のそれで塞いだ。 「ん・・っ!」 驚いて眼を見開いた竜也は、眼前に思っていたより整ったシゲの容貌を見て、慌てて目を閉じた。 シゲの舌が竜也の口内を余すところ無く貪っていく。今まで受けた数回のキスなんかとは比べ物にならない位、そのキスは竜也の呼吸を奪うかのような激しさだった。 「・・ふ」 角度を変える間に竜也が息を吐き出して、その甘い吐息にシゲはまた舌を絡めていく。 その内に竜也の内部が怪しく蠕動し始め締め付けが弱まってくると、シゲは軽く腰を前後させて竜也の内部を寄り広げようとする。 「あっ・・ぁ」 竜也の巻き付けている服の上から、シゲは竜也の肩にキスをする。そして徐々に腰の打ち付けを強めていく。 「あ、あ、ぁあ・・っく」 広げられ擦られる感覚に快感は鈍かったけれど、シゲの指が性器に絡んで竜也の快感を煽ってくれる。 「あ・・っ。たつ、ええ・・っ」 シゲの濡れた様な声も、竜也の聴覚からの快感を増長させて。 「や、あぁっ、も・・!」 竜也が内股に力を入れた瞬間シゲの熱が体内から一気に引き抜かれ、竜也は自らの精を吐き出した性器にシゲの白濁した欲望がかかるのを感じた。 竜也は握り締めた銅貨の固さを感じながら、この熱だけを抱いて今ヴァイオリンが弾きたいと切に思った。 next(15)
|