シゲは、腰掛けているソファから水野の背中を見つめて、人知れず嘆息した。水野はシゲに完全に背を向けて、がちゃがちゃとやや乱暴な音を立てながら食器を洗っている。 (ほんまに・・・。分かりやすいなぁ・・) シゲは再度歎息すると、テレビのリモコンをローテーブルに放り出して、キッチンの水野の背後に立った。 「まだ怒ってんの?」 「別に」 ぶっきらぼうな返事。向けられない顔。水野もこの態度でその台詞が通じるとは思ってないだろうが、それでも黙々と神経質なくらい丁寧に食器を洗い続ける。 「じゃあ、拗ねてんの」 シゲの呆れを含んだ声音に、ほんの少し水野の肩が揺れる。しかしそれだけだった。シゲはその頑なな態度に少々苛ついてくる。 (俺が何したっちゅうねん) 心当たりは無い。今日は特に水野をからかったりもしていないし、普段通りにふらりと水野宅へ立ち寄り、水野しかいなかったので夕飯まで作ってやった。 (せや、感謝してもらってもええくらいやん) それなのに、食事が終わった途端に水野は不機嫌モードに突入してしまったのだ。 「あんなあ。構って欲しいなら、ちゃんと理由説明し。そうやないなら露骨に態度に出すなや、感じ悪い」 がちゃんっ。一際大きな音を立てて、水野が皿を取り落とした。そして彼はそのまま固まってしまった。シゲは訝しげに眉根を寄せて、水野の言葉なり行動なりを待つ。すると、水野はぼそりと呟いた。 「ごめん・・」 以外に素直なその言葉に、シゲは軽く目を見開いた。水野は泡の付いた手を自分で凝視する。 「本当に、何かあったわけじゃないんだ。ただ、何か最近落ち込み気味でさ」 水野の口から小さいため息が漏れて、シゲは急に優しくしてやりたくなった。水野の襟足あたりに手を伸ばし、そこの髪を軽く逆撫でしてやる。水野の肩がぴくんと揺れた。 「何で?」 「分かんないけど・・」 水野は手の泡を見つめながら、首から鳥肌が立ってきそうな感じをやり過ごそうと試みる。しかしシゲはさらに指を生え際あたりの奥まで絡め、そっと梳き始める。 「ちょ、シゲ・・。やめろ」 「何で?」 そう言いながらシゲは、ふっと息を漏らす。優しすぎるその仕草に、水野の耳朶が赤くなる。シゲはふと、いたずらっ子のような笑みを頬に刻んだ。 「せや、そんならたつぼん、気分転換したらええやん」 「え・・?て、おいっ、何してんだ!?」 「気分転換」 するっと腰に回された腕に驚いて、水野は反射的にそれを引き剥がそうとしたが、自分の手が泡だらけなことに気付いて躊躇する。それにいい気になったシゲは、髪を梳いていた手で水野の後ろ襟を引き下げ、頚椎の付け根に唇を押し当てた。 ぬるりとした舌の感触に、水野の背中が粟立つ。 そしてシゲは実に楽しげで簡潔に、こう提案してきた。 「しよ」 うなじに唇を押し当てていると、水野の髪からシャンプーの香りがする。何の変哲も無い筈のその香りは、例えば薬局で微かに鼻をくすぐられるだけで、シゲを欲情させた。 (末期やね、俺も・・・) 内心苦笑しながらも、今直に水野に触れてその匂いを嗅いでいると、否応も無くシゲ自身が反応してくる。 「や・・、うそ・・・」 腰に当たり始めるシゲの欲望の証に、水野は衝撃を受ける。 (本気か?だって、ここ、キッチン・・!) 水野の常識の範囲内では、ベッド以外でするなんてことは想像すらできない。そのままおろおろと逡巡している間に、シゲの手は水野のシャツをめくり、もう一方はエプロンの上から下肢に触れてくる。 「シゲ!」 煌々と電気が付けられる中で、シゲの手がヤらしい手つきで水野自身をなぞる。水野はシンクの縁を泡の付いた両手で握り締めた。 「気持ち良くしたるよ。落ち込んだ気分なんか、忘れてまうくらいに。場所も新鮮やろ?」 というか、激しく恥ずかしいだけだと思うのだが。案の定、水野はあまりにも自分の許容量を越える展開に、ただ全身を強張らせて唇を噛み締める。恥ずかしさの余りに視線を下げれば、シゲの愛撫で硬度を持ち始めた己自身が目に入る。さらには、背骨を一つ一つ冷たい指の腹で辿られて、水野は膝が震え始める。 「恥ずかしい?」 「ったり前・・!」 「その方が感じるやろ?たつぼんは」 「・・っ」 水野は否定しようとしたが、それより先に水野自身がシゲの手の中でより成長したのを自覚して、首まで赤くした。 「たつぼん、もうちょっと耐えてな」 水野の膝が震えていることに気付いたシゲは、苦笑しながら背中に回していた手を腰に回して支えながら、かちゃかちゃと水野のズボンのバックルを外しにかかる。 「シゲ・・まじで・・・・?」 怯えを含んだその声音に、シゲは止めてやるどころかもっと苛めてみたくなった。 「まじで」 短く答えると、シゲは水野のズボンを何の躊躇も無く引き下ろした。水野の息を呑む音が聞こえた。 水野はもうただ耐えるだけで精一杯で、ここがキッチンで明る過ぎるとか、自分の今の格好が、下だけ脱がされて上はエプロンまでしっかりしたままの何だか卑猥な格好であるとか、泡の付いた両手がぴりぴりしてべとべとして気持ち悪いとか、そんな浮かんでは霧散していく考えに、一々構っていられなかった。 シゲのとんでもない行動で、水野の理性は崩壊寸前だった。シゲは今両手で水野の双丘を割り開いて、その中心に舌を這わせているところだったのだ。 「シゲェ・・っ、それ、ヤだ・・!」 何とかして逃れようとしてみるものの、シゲはそこから顔を上げようとはしない。 「ひぁっ」 それどころか、熱い舌先をさらに奥まで差し込まれて水野は嬌声を上げる。入り口をめくり上げ、シゲの舌が水野の中にまで侵入してくる。 「やだ、やだ・・、シゲっ!このっ・・へんたいっ」 「失礼な奴やな」 水野がやっとの思いで叫んでやると、シゲはようやっと一旦そこから顔を上げる。しかし水野の臀部を撫で回すことだけは止めない。 「本当の変態やったら、ここで舌なんか使わんと、ジャムとかで慣らすくらいのことはするやろ、キッチンやし。それ考えたら俺なんか普通やで」 水野は、勝手に基準を入れ替えないで欲しいと思った。そもそもそんなところ、ローション以外で慣らすことも可能だなどということは、今まで水野の頭に掠めもしなかったのだから。 「まぁ、今度はそれもやってみたいけどな」 やっぱり変態じゃねぇか! 吐き出そうとした言葉は、歯を臀部に軽く押し当てられて喘ぎに変わる。 「いっあ!」 そのまま濡れた感触が中心にまで戻ってきて、水野は思わず腰を揺らした。その痴態にシゲは満足げに笑み崩れ、そこに舌と一緒に指も添えてきた。 「やあぁ・・!」 指で入り口を広げ、唾液をそこに残すようにして舐めた後、シゲはまるで独り言のように呟いた。 「そろそろ、ええかな?」 「・・変態・・」 水野の可愛くない台詞は聞かなかったことにして、シゲは立ち上がると放っておかれた水野の欲望に、エプロンの上から手を伸ばすと同時に、己のそれもズボンから引き出した。 「んっ」 ぐりゅ、と押し当てられる異物感に水野は眉を寄せる。瞬時に緊張の走った身体をリラックスさせてやるために、シゲは布越しに水野自身を握りこむ。 「ふっ・・う」 水野の呼吸が荒くなってくる。シゲはそのままゆっくりと、水野の中に身を差し入れていく。 「・・・・う」 いつもと違う体位に水野が緊張を捨て切れないせいか、シゲは普段以上の締め付けに呻いた。焦らすように水野自身を擦り上げ、布越しの独特の刺激に水野の意識が散漫になってくる。 「っあ・・!」 「く・・うっ、きつ・・」 全部水野に飲み込ませ、シゲは一息ついた。水野の中がきつくシゲに絡んできて、まだ動きにくい。水野の肩越しにシゲが荒く息を吐き出した時、シゲの目に泡の付いたの水野の両手が目に付いた。 「気持ち悪くないん?」 シゲが尋ねると、声の響きが鼓膜を震わせてくすぐったい。水野は背中を駆け上がってくる悪寒に耐えながら、自分が食器を洗っていた途中だったことをようやく思い出した。 「あ・・?」 視点の定まらない瞳で、水野がシゲを振り返る。シゲは苦笑して、シンクの淵をしっかり握っている水野の手をそこからはがしてやる。 「べたべたするやろ?」 両手を持ち上げ、水道の蛇口をひねる。そして丁寧にお湯加減まで調節しながら水野の両手を洗ってやっていると、水野が徐々にシゲに身体を摺り寄せてくる。 「なした?」 「響く・・・」 ぼそりと蚊の鳴くような声で告げる水野。シゲはすぐにあぁ、と笑う。 「これ?」 「やっ・・」 シゲがほんの少し水野の身体を揺らすと、水野の中のシゲが存在を主張する。シゲは水野の両手を綺麗に拭いてやりながらも、くすくすと笑った。 「丁度良かったんやない?ええ感じに締め付けてきよったで」 ゆるゆるとシゲが中を掻き回すと、水野は短く、 「へんたいっ」 と叫んだ。 立ったままのセックスが意外に難しいことを、水野は学んだ。足がもたない。シゲが中で水野のポイントを攻め立てれば攻め立てるほど、快感は増すが膝の震えも増してくる。 「あっあっ・・だめ・・っての・・!ぅあっ・・あ・・。立って・・らんな・・!」 「頑張れや・・・たつぼん」 無責任なことを言ってくれる。シゲが腰を支えてくれてもぎりぎりなのだ。意識が快感に集中できなくて、もどかしい。 (シゲだって、疲れないか?) 思わずそんなことを考えてしまうが、水野の手はシゲに縋り付いて離すまいと爪を立てている。 「けど、気持ちええやろ?」 「はふ・・っうっ・・」 水野は必死で首を振るが、シゲの片手に捕らえられている水野自身はとっくに限界まで張り詰めて、エプロンの地の色を濃くするように先走りを流している。感じて顔を上げられなくなると、これが嫌でも視界に入ってくるのも、限りなく恥ずかしかった。 「もう・・少し・・・な・・っ」 シゲの荒い息が首筋に吹きかけられる。水野はより強くシゲの腕に爪を立て、片方でシンクの縁を握り締めながら、崩れそうになる足を何とか踏み止まらせて、シゲの方にだけ意識を集中させた。 「んあっ、あ、あ、あっ。ふっ・・は・・あ!シ・・ゲ・・」 切なげに水野がシゲを呼ぶと、シゲがぴったりと背中に胸をつけてきて、さらに奥を穿ってくる。 「いっ・・あ!や、あ」 「うっ・・は・・。気持ち、ええ?」 やや乱暴に張り詰めたモノを擦り上げられ、布越しに先端に爪を立てられる。 こくこくと頷く水野に、シゲがすこし残念そうに囁いた。 「カメラ無いんが、残念・・・っ」 「何・・ってんだ・・よ!」 「やって・・」 自分、物凄いエロイ格好しとんの分かっとる・・? 言われた瞬間、水野の内壁がきつくシゲを締め上げる。シゲは少々辛そうに眉根を寄せながら、それでも口の片端を上げる。そのまま、シゲは快楽の頂点に向かって腰を強く打ちつけ始める。そして水野の耳元で続けた。 「下だけすっぽんぽんで男のモン咥えとるくせに、上は完全に着たまんま・・。さらにエプロンまで、自分のもので濡らしとるんやで?見えとるやろ・・っ?」 「----!」 瞬間、一番感じるところを攻められて、水野は喉を大きく反らせる。 「いやん、そないに締め付けんといて。たちぼんのえっちv」 乱れた息で茶化すように囁くシゲ。掠れた声が艶かしくて、水野の理性は崩壊した。 「た〜つぼん。終わったで」 シゲが水野の部屋を覗き込む。水野は布団を頭から被って、無反応。どう見たって完全に不貞寝である。 「ちゃんと証拠隠滅しといてやったさかい、心配すんなや。エプロンも捨ててきたで〜。明日燃えるごみの日でよかったやん、つかあれは生ごみになるんかな」 シゲは軽くあははと笑ってベッドに腰掛け、水野の肩をぽんぽんと叩く。水野は生々しいその発言に、耳を塞いだ。もう二度と、キッチンには立てない気がした。 「せや、たつぼん。今度は本気で考えてみる気ない?」 何をとほんの少し顔を覗かせた水野に、シゲは至極真面目な顔で、国家機密でも話し合うかのような形相で尋ねてきた。 「ハメ撮り」 それから約一週間、水野はシゲと口をきかなかった。 Lv2で既にこんな、マニアックな片鱗を・・。爆。 予定では、シゲのFが入る筈だったのですがねぇ・・。収拾付かないためカット。そして気付けば、私フィニッシュを連続カットしている・・。 何か、色々痛いです・・。ワンパターンだあぁぁぁぁ!号泣。 それでも懲りずに次回予告。笑死。 「水野の逆襲!?危うしシゲ!」 (誇大表現が、著しく含まれます) |