天国の夢はもう見ない。    3.







 シゲは水野の顎から手を離すと、僅かに腰を下ろす場所をずらして、水野のズボンからワイシャツの裾を引き出そうとする。
「シゲ、やめろ!!」
 水野は上半身を捻って、何とかシゲの腕を取ろうとするが、それよりも素早くシゲの手の平が背中に滑り込んできて、他人の手の平の温度に水野の背筋がふるりと震えた。
 そのままシゲはワイシャツをたくし上げて、水野の背中を外気に晒す。
「・・っ」
 落ち始めた雨粒が、シゲの頭の被さらないところに落ちる。温い水滴に、水野は今自分の状態が現実であることを実感して、激しく暴れだした。
「シゲ、シゲっ。やめろ!ふざけんな!!」
 足をばたつかせ、腕を振り回す。
 水野のその反撃に怯んだのか、シゲは一瞬水野の上から身体を浮かせるようにした。
 その隙を見逃さず、水野は不利なうつ伏せ状態から身体を反転させて、起き上がろうと試みた。
 しかし。
「ふざけてへんよ?」
 シゲは水野の体が仰向けになったところで、再び水野の腰に乗っかってきた。どうやら、水野がうつ伏せではシゲも都合が悪かったらしい。
「や、ちょ、マジで・・!」
 シゲはそのまま腕で胸を押してくる水野を無視して、ワイシャツの裾を全て引き出すと、そのままズボンのベルトに指をかけた。
「シゲ、何怒ってんだよ!!」
 性質の悪い仕返しとしか思えないシゲの行動に、水野は困惑する。けれどシゲはただ肩眉を上げて首を傾げて見せただけで、水野のベルトをあっさりと外して、更にはホックまで外してしまう。
「・・・かげんに・・・っ」
 ぶん、と振り上げた腕は、あっさりシゲに掴み取られる。そしてそのまま、胸元でシゲの片手で押さえ込まれてしまい、水野の抵抗は半減する。
 頼みの脚も、シゲが太股辺りに乗っているので振り上げられない。
 散々身を捩ったせいで、背中がコンクリートに擦れて痛かった。
 シゲはどうにかして逃げ出そうとする水野の、萎縮しきったその性器をいきなりぎゅっと握った。
「った・・・!」
 思わず逃げを打って、後頭部をごんとコンクリートに打ち付けた。茶色い色素の薄い髪は、降り始めた雨のせいか全身に噴き出す冷や汗のせいか、額にべったりと張り付いてくる。
「・・ぅあ・・・っ」
 乱暴に扱き上げられて、水野は苦痛に呻く。
 シゲは背中を雨が濡らしていくのを感じながら、露になった水野の下腹部を見つめる。そしてへその辺りにキスを落とした。
 シゲの舌は綺麗に鍛えられた水野の腹筋から滑らかに滑り落ちて、それに伴って、空いたほうの手でズボンのファスナーを下ろしていく。
 生暖かい他人の舌の感触に、水野は背骨に震えが走るのを感じたが、それが嫌悪からなのかどうなのか、シゲには分からない。
 ただ、握りこんだ水野の性器がぴくりと反応を示したことは分かった。
 そして、握りこんでいた水野の性器にもシゲはキスをする。
「・・!!!?」
 水野のことだから、そんなところを他人に触れられることはおろか、こんな風にして見られたことも無いのだろう。
 そう思うと、シゲの頬には笑みが浮かぶ。
 雨は、最初の数分細かい粒を落としただけで、後は粒も確認できない霧雨になってしまった。
 自分の背中を濡らすのが雨なのか、汗なのか、シゲには判断が付かず、ただ目の前の水野の頭の脇でコンクリートが色を変えるのを見て、雨が降ってきたのかとぼんやりと思っただけだ。
「・・ぁっ、うあ・・。や、め・・・」
 先端にキスをして、まるで水野の性器とディープキスをするように、全体に舌を這わせてみる。
「・・っあ・・うっ」
 当然のことながらまだ幼い色をした水野の性器を指で擦り上げて、それを追う様にして舌を這わせる。
 水野は股の内側を震わせ始めた。
「や・・、あ、あ、あっ・・・ぁ」
 他人にそんなところを弄ばれるという初めての体験に、快感からか驚愕からか、水野の腰が僅かに浮いた隙に、シゲは水野のズボンを膝まで引き下ろす。そしてすぐにまた、水野を押さえつけるようにして覆いかぶさる。
「や・・ぁ、だ!シゲ・・・っ」
 灰色を濃くしたコンクリートに、白いワイシャツが広がる。白いワイシャツは、時間をかけて徐々にコンクリートの濃い灰色を浮かび上がらせ始める。
 水野は空いているほうの手でシゲの肩に爪を立てるが、シゲの身体は何の反応も返してはくれない。
 その内、シゲの肩に置いた手は、引き剥がすためなのか縋るためなのか、水野にも分からなくなってくる。
「ふ・・ぅっ」 
 シゲの口内の奥まで性器を咥え込まれた瞬間には、水野は鼻に掛かる甘ったるい声を漏らしていた。
 生暖かいぬめった口内の感触が、水野の性器に絡みつく。まるで生き物のように舌が水野の性器を上下して、シゲが唇の端から漏れる唾液をすすり上げる音が、いやに淫猥に水野の耳に響いた。
「あ・・っ、あ、う・・っ」
 シゲは水野を拘束していた腕を開放して、水野の震える脇腹を撫で上げた。
「・・っ」
 手の平にしっとりと張り付くような感触は、きっと雨で濡れているせいだと思った。
 水野は腕を開放されても、もうそれでシゲを押しやろうという考えは頭に浮かんでこず、ただ何故か顔を隠さなければと思い、シゲの肩からも腕を外して、両腕を交差させて自分の顔を覆った。
「たつぼん、気持ちええん?」
 笑いを含んだシゲの声に、水野は何故だか泣きたくなった。
 すっかり勃ち上がってしまった水野の性器に指を絡めながら、シゲは身体を起こして水野を覗き込む。
 溢れ出す先走りを先端に塗りこめるようにしてやれば、水野は体全体を震わせて小さく呻く。腕の隙間から覗く頬は桜色に上気して、灰色のシゲの視界にはその色だけが鮮やかに映った。
「ええ?」
 シゲは再度訪ねるが、水野はただ首を横に振る。
「そう?」
 シゲは返答など期待していなかったかのように呟いて、再び身体を倒して水野の下腹部に舌を這わせた。
「あぁ・・っん」
 既に限界ぎりぎりまで追い詰められた水野は、再び降りてきた生暖かいシゲの舌の感触に喘いだ。
 シゲは水野の性器を口に含むと、指と舌で水野を追い上げる。
「あっあっ、あっ・・・。うぁ・・っ、や、だ・・っぁ」
 水野は激しく頭を振りながらも、それでも身体は快感に飛びついて腰は揺れ始めている。
 シゲが一際強く水野の性器を吸い上げたとき、水野は始めてのその奔流にどうやって耐えたらいいのか分からず、あっさりとその精をシゲの口に放ってしまった。
「ふ・・あ、ぁ・・」
 何度か腰を突き上げるようにして震わせ、水野が全てを吐精する。シゲはそれを口に含めたまま起き上がり、腕の隙間から覗く、茫洋とした水野の視界の前で、それを手の平に吐き出して見せた。
「さすがに俺でも、男のを飲むんわなぁ・・」
 からかうように笑うと、水野の頬は一層紅潮する。
 そのまま水野が正気に返ってしまう前にと、シゲは水野の制服のズボンを完全に抜き取って、水野の両脚を高く担ぎ上げた。
「・・・!?やだああぁぁっ」
 驚いた水野は激しく脚をばたつかせたが、シゲはその様子に全く頓着せずにいきなり、水野の精液で濡れた指を一本、水野の秘孔に突き刺した。
「・・・・・っっっ!!」
 あまりの出来事に、水野は思考がショートするかと思った。
 シゲはそのまま、硬くすぼまっているそこに差し込んだ指を乱暴に抜き差しする。
「や、め・・・っ」
 たかが指一本に、内臓全てを圧迫されるかのような感覚に、水野は吐き気さえ覚えながら、引きつるような痛みに身体を強張らせる。
 水野の精液を潤滑剤代わりにして、シゲはただ黙って指を抜き差しする。
 二人に降り注ぐ雨は確実にしっとりと二人の身体ぞ濡らし、二人から体温を奪っていたが、それ以上に水野の身体は、先ほどの興奮の色を収めて青ざめて震えていた。
「やだ・・っ、やだ・・・ぁ!」
 くちゅくちゅと響く音と、シゲの無言の視線が怖い。
 シゲはコンクリートに爪を立てて震える水野に、優しい笑みすら浮かべた。
「ごめんなぁ、たつぼん」
 一言、心が全く篭もっていない声音で告げて、シゲは水野の秘孔に納める指を一気に増やした。
「ひっ・・・・ぃっっ」
 瞬間、めり、と水野の秘孔が僅かに裂けて、水野は脳髄まで突くようなその痛みに呼吸を止めた。
 もう、背中や肩のコンクリートの硬い痛みなど感じない。
 ただ、シゲが侵入しているところだけが熱く、そこ以外の場所の熱を全て奪っていったみたいだった。
「あ・・っう・・、くぁ・・ぁ!」
 水野の内壁は何とか異物を吐き出そうと収縮するが、シゲはそれも全く無視して更に奥を広げるようにして指を埋め込んでいく。
 裂けたところから、ほんの少し血が滲む。
 シゲはそれに、欲情した。
「・・・・」
 シゲがぺろりと自分の唇を舐めると、そこにはまだ、水野の精液の苦味が残っている。
「ひ・・ぃっあ・・っ、いった・・・!」
 喉をひくつかせて悲鳴を上げる水野に、シゲは自分のズボンのファスナーを引きおろした。
 ジジ・・・という新たな音に、水野は更に身体を硬くする。そして続いて指で押し広げられた秘孔に当てがわれたモノの感触に、いくら未経験とはいえソレが何であるのかは容易に想像がついて、水野は激しく体中を振り回した。
「いやだああぁぁっ!」
 埋め込まれたままの指が、内壁を激しく引っかいたが、そんなことはお構い無しに水野はパニックのまま暴れた。
「・・っ」
 シゲはその様子に小さく舌打ちをして乱暴に指を抜き去り、暴れる水野が逃げようと背を向けた瞬間に、最初のようにして背中を押さえつけて、その行動をやめさせた。
「・・ぁっ」
 ひゅうっと気管の閉まる音を聞くと同時に、水野は腰を高く持ち上げられ、そして、
「・・・っっっーーーーー!!」
 水野は声にならない悲鳴というものが、本当に存在することを身を持って体験した。
「・・っく・・!」
 当たり前のことながら萎縮しきっている水野の秘孔は、シゲを受け入れるはずも無く、シゲはただ食い千切りそうに締め付けてくる水野の秘孔に、強引に押し入ることしか出来ない。
「−−っ、−−−−−!!」
 水野は瞳を大きく見開いて、目尻からとめどなく涙を零し、喉の奥から言葉にならない悲鳴を上げ続ける。
 シゲはそんな水野の様子に、自分にこんな加虐性があることを初めて知った。こんな状況で勃ち上がる自分の異常さに、初めてその時に気がついた。
 けれど、この行為をやめようとは思わなかった。
 そして頭の片隅で、きっともう水野は自分を許しはしないだろうということを考え、考えながらもそれを自分は喜んですらいることにも気付く。
 サドなのかマゾなのか、嫌われたいのか嫌われたくないのか。
 自分で自分が分からなくなってくる。
「−−−−っ、あ、−−−っ!」
 ただ強引に押し入るだけのその行為に、水野の秘孔から血がじんわりと滲み出てくる。
「あ・・・っ、は・・・っっ」
 息継ぎを必死で繰り返す水野に、シゲは全てを収めきることは諦めて、先端だけで抜き差しを開始した。
「ひ・・っ、ぅ・・っあ・・・ぁ!」
 奥歯を噛み締め唇を噛み切りながら、水野はその激痛に耐えた。
 出し入れされるシゲの性器に引きずられるように、水野の太股に紅い線が引かれた。それは僅かながらもコンクリートにまで流れつき、灰色を濃くするコンクリートに染み込んで、そこは黒く変色した。
 シゲはもう考えることを放棄した。
 何故とか、何の為に、とかはどうでもいい。
 ただ、こうすることで自分が今一番望んでいるものが、与えられるような気がするのだ。
 それだけだ。
 ソレが何なのかさえ、どうでも良かった。
 湿ったコンクリートに付けた膝が、ズボン越しにも濡れてくる。
「う・・・っ、く・・・っ!」
 水野の苦しげな呻き声を聞きながら、シゲはその茶色い髪の掛かる項に突然キスをしたい衝動に駆られた。
「・・・!?」
 突然首筋に触れた柔らかい感触に、水野は目を見開くが、それに何の意味があるのかなんてことまでは、もう考えられなかった。
 ただ、終わって欲しかった。悪夢のように、友人だと信じていた男に犯されるこの状態に、早く終わりが来て欲しかった。
 屋上には雨の振る音さえ響かずに、ただ水野の苦しげな呻き声だけが響く。
 しかし、永遠かと思われたその空間は、存外あっさりと打ち破られた。

 ・・・・キーンコーンカーンコーン・・・・。
 びくりとシゲは身を竦ませた。
 そして、突然耳元に掠めるような雨音が飛び込んでくる。繰り返されるチャイムに、シゲは自分の状態を改めて見下ろした。
 水野の背中が見える。捲り上げられたワイシャツから露になるその白い肌は、赤く擦れて痛々しい。
「・・・・っ」
 突然水野は、身の内から圧迫感が消え失せるのを感じた。ずるり、と何かが引き抜かれる感覚に、激しい痛みが伴ったが、水野は悪夢が終えたことを実感した。
 ぐらり、とバランスを崩して落ちる水野の身体を眺めながら、シゲはどこか遠いところのフィルムを見ているような気がした。そして、機械的に自分の後始末をした。
 水野はそのまま数分、コンクリートが濡れて立ち上らせる独特の匂いを嗅いでから、何とか身体を起こそうとする。
 シゲはその様子を見て、無言で水野の腰に手を回した。
 びくり、と怯える水野に何も告げず、シゲは腰の立たないらしい水野にズボンを履かせ、ワイシャツの裾も丁寧にズボンに入れる。
 ただじっとシゲの指先を見つめていた水野は、身支度が整えられると立ち上がろうとしたが、どうにも腰が立ちそうに無かった。
 腰の痛みとあらぬ所の痛みが、今このことは現実だと水野に知らせてくる。
 酷く惨めで泣き出しそうで、黙って座り込んで硬いコンクリートを見つめる水野に、シゲは静かに呼びかけた。
「立てへんやろ?・・・送るわ」
 優しいとさえも取れるシゲのその声音に、水野は一瞬痛みも我も忘れた。
 バキィッ!
 水野は渾身の力をふり絞って、シゲを殴り飛ばしていた。
「・・っざっけんな!!」
 シゲが顔を上げた先に浮かんでいたのは、激情の瞳。雨に濡れて冷えた頬もその時ばかりは薔薇色に染まり、涙の流れた跡も、いっそのことそれは美しかった。
「・・・」
 シゲが無言で水野を見返す中で、水野は糸が切れたように膝から崩れ落ちた。
       





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   すいません・・。強○ネタになってしまいました・・。
 本来強○ネタを好むわけでは無いのですが、こう、「愛ゆえの大暴走」的な強○は平気、というわけの分からない女です・・・。
 すいません、ちゃんとフォローはします!ハッピーエンド前提ですから!