あの日準太が宣言したとおり、利央はその後誰ともベッドを共にしたりしなかった。乱暴に抱かれた身体は、本来受け入れるようにはできていないところに無理をさせたお陰で様々な場所が痛み、それどころではなかった。加えて、一番好きな相手にあんな扱いを受けて、それ以外の誰と交わる気になるだろうか。 (もう、終わりなのかな) それなのに、あれから一切準太からの連絡が無いことに胸を痛める自分は本当に間抜けだ。バイト帰りコンビニに寄ってアルコールを購入し、未成年かどうかも確認されなかったことに苦笑する。 世間なんて、自分には何の興味も持っていないんだ。 馬鹿みたいに、そんなことにすら孤独を感じてアパートの階段を昇る。 玄関を開ける直前に携帯が震えて、慌ててポケットから探り出すとそこには「高瀬準太」の文字。手の中で震え続ける携帯に背筋を硬直させて、利央はディスプレイを凝視する。 声が、聞きたいと切に思った。けれど、指は恐怖ですくんだ。 この間の事を、何も無かったかのように流されたら自分はその場で泣き崩れる自信があった。そこまで気に掛けてもらえていないのかと、絶望するだろう。 けれど、逆に謝罪されるのも怖かった。お前が何をしようと自分には関係無いよなと確認をされるようで、辛いだろう。 結局、通話ボタンを押す勇気が出ない内に携帯は静かになり、その後数分扉の前で阿呆みたいに突っ立っていてもメールも来なくて、利央は白い息を吐き出して鍵を取り出した。 狭いキッチンの水切り籠に伏せっぱなしの準太用のカップを見ないように部屋に入り、コンビニの袋をベッドに投げ出して利央は深く深く息を吐き出した。 何事も無かったかのように振舞われるのも、謝罪されるのも辛い。それならば、きっともう彼が自分を見てくれること以外に解決策は無いのだろう。 分かっている、本当はずっとそうだったこと。 本当はずっと、自分だけを見て欲しかったのだ。自分だけを好きになって欲しくて、仕方が無かった。でも好きだから、準太に幸せになって欲しかったのも本音だ。和己と幸せになってくれたなら、泣いて泣いて泣いて、それでもその後で祝福できただろう。自分の中で諦めは付かなくても、それでも笑ってあげられただろう。 それでも伸ばしてくれた腕を拒むほど強くは無くて、準太が楽になるならと抱かれることを選び、抱かれている間だけは準太の目は自分に向いていると喜んだ。 (偽善だ) 利央は手の平で目を覆って、瞼に強く押し付けた。 準太の為なんかじゃ、無かったくせに。自分を抱いているうちに彼が自分を好いてくれないかと、いつもそれを願っていたくせに。 和己のことも好きで、嫌いになんてなれなくて、準太に好かれているあの人を思う度に罪悪感と絶望を感じて、それでも準太の腕を振り払えなかった。 自分が、悪い。 準太に抱かれるのなら、きっぱりと心と身体を切り離さなければならなかったのに。それができないのなら、あの腕を受け入れるべきではなかった。 (でも、好きなんだ) 好きだから、どうしたって期待もするし望みも持つ。振り払えるわけが無くて、泣くと分かっていても一瞬の幸福に浸りたかった。 目尻に浮かんできた涙を押さえつけるように手の平を強く強く押し当てて、利央は唇を噛んだ。 (好きなんだ) ただそれだけを思っていた高校生の自分に、あの時準太の腕を振り払えるわけなんて無かった。自己弁護だと分かってはいるけれど、自分くらいあの頃の自分を庇ってやらなければ可哀相だ、と過去の自分に同情する。 しかし、今の利央はもう高校生の子供ではない。 まだまだ親に扶養される身ではあるけれど、それでも自分で選んで決める分別はあの頃より付いている筈だ。だから。 (もう、連絡はしない) これ以上、準太が自分を見てくれる可能性がないのに、身体の関係にしがみつくわけにはいかない。準太も、あんな歪んだ所有欲を持っていては、いけないのだ。 (なんて、また偽善だ) もう、自分が耐えられないだけだ。 偽善もやせ我慢もかなぐり捨てて、残ったのはただの保身。それでも、そうすることで自分も準太も何か進める筈だと信じて、利央は大きく息を吸った。 このところ溜息ばかりこぼしていた利央の肺に、新鮮な空気が満ちる。 「よし」 しばらくは辛いだろうし、慎吾辺りに泣きつくかもしれないけれど。それでも、このままダラダラと閉じた関係に留まっているよりは、余程ましだ。 そう決心した利央は、コンビニで購入したアルコールを手繰り寄せて、一人で自分に乾杯した。 携帯に残っている彼のメモリまで消すことはできないけれど、それでも離れようと決心できただけでも上等じゃないかと笑った。 暫くは、平和な日が続いていた。慎吾は相変わらず準太のバイト先に遊びに行っているようだが、彼から特に準太が変わったなどとは聞いていない。 それが少し寂しくもあり、まだそんなことを感じてしまう自分に失笑しながら利央は穏やかに日々を重ねていた。 気付けば季節はクリスマス間近で、チラホラ彼女が欲しいと叫びだす友人が増えだした。今年はさすがにまだいらないなぁと思いながら適当に話を合わせ、相手がいなかったらクリスマスは寂しく飲んだくれようななどと肩を叩き合う。 心に、平和が戻って来たと思う。穏やかで波風立たず、安心して声を上げて笑う。 準太と関係を持っていた頃は、今日は彼が来るだろうか連絡はあるだろうかとつい考えてしまい、そわそわと落ちつかなかったものだ。 それはそれで恋愛の楽しみというものだろうけれど、それに疲れていた利央にとってはこうして何も無い日々が回復時間となっていた。 (こういうの、いいなぁ) 思えば準太のことを長い間好きだったせいで、利央の心はいつも落ち着かなかった。一喜一憂に忙しくて、こんな風に何の期待にも揺れずにすむ日々というのは、意外に楽しいものだった。 刺激が無いと言えばそれまでだけれど、それが今はありがたい。 実を言えば準太からは、あれから二度ほど連絡があった。けれど、気付かない振りをして出なかった。急ぎの用事ではないのだろう留守電には何も入っていなかったし、メールも無い。もしどうしても連絡を取らなければならないのなら、慎吾辺りが介入してくれるだろうと勝手なことを考えている。 (だって、今はまだちょっとね) せめて年明けまでは穏やかに暮らしたいと思いながら、利央は久しぶりにバイトの無い日にまっすぐ部屋へ帰ってきた。 階段を上り、漏れそうになる鼻歌に機嫌を良くしながらポケットの鍵を探って顔を上げると、扉の前に寒そうに肩をすくめた準太がいた。 「準、サン・・・・・」 久しぶりに紡がれた名前は、利央の耳に返って胸が熱くなった。まだこんなにも囚われていると泣きそうになりながら、顔を上げた準太もどこか頼りなげな表情をしていることに気付く。 「なに、してんの?」 極力声が震えないように努力して絞り出すように問うと、準太はダウンジャケットの襟に首を埋めて、電話、と呟いた。 「え?」 「電話、お前が出ねぇから、来た」 だったらメールでも良かったのに、と目を見ないで返すと、それじゃ意味がないと準太の足が所在無さげにコンクリートを蹴る。 「えと、じゃあ、入る?」 寒風の通り過ぎていくこの場所で話すのはさすがにまずいだろうし、準太の頬は寒さのせいで真っ赤で、もしかして長い間待たせていたのかと思うと、帰れとは言えなかった。 「悪い」 彼がそんなことを言うのは初めてで、利央は一瞬驚きに目を見開いたけれど何も言えず、ただ無言で鍵を開けた。 何も言わずに準太が靴を脱いで、利央の後ろから部屋に上がる。今までは率先して上がりこんでいた準太にしてはこれも初めてで、何か利央の背中に緊張が走る。 「何も、出ないけど」 コーヒーすら出す気分ではなくて、利央の声音は硬い。準太は俯いて別にいいよと、その口元には失笑の様なものが浮かんでいた。 利央がベッドに腰掛け、準太は床に腰を下ろす。テーブルを挟んだ僅かな距離が、如実に二人の今の距離を表していた。 そのままどうにも形容しがたい空気が流れ、利央は困惑してエアコンのスイッチを入れたりして場をごまかした。 用事があったのは準太の方なのだから、彼が口を開かないことには話しが進まない。どうしようと利央が視線を彷徨わせているうちに、準太はようやく口を開いた。 「悪かった」 その言葉に耳を疑って思わずマジマジと準太を見下ろすと、彼は唇を噛み締めてもう一度同じ言葉を繰り返した。 「お前、電話に出ねぇし、でもメールとかじゃ軽すぎるし。だからって、そのままにするのも、嫌だったし」 長い付き合いの中で、準太から利央に謝罪したことなど数回しかない。準太が先輩で利央が後輩だという理由以上に、それが二人の自然な形だと思っていたからなのだが、だからこそ改めて準太の口から謝罪の言葉が出ることに利央は驚きを隠せない。 彼が、何の事を謝っているのかは分かる。けれど、まさか謝られるとは思っていなかった。 「このまんま、終わりかなって思ったら、それも困るし」 困るのはこちらだ、と利央は唇を噛んだ。 こんなのは、ズルイ。ここで自分が彼を許したら、またあの身体だけの関係が始まるのだろうか。それは嫌だ。ようやく、ちゃんと終わらせようと決心したのに、何故彼はこんな風に引き止めるかのようなことをするのだろう。 卑怯だ。 「だって、準サン」 自分はもう終わらせたいのだということを、きちんと口にしなければ駄目だと決心した利央が口を開きかけたのと同時に、準太が顔を上げて利央はドキリとした。 こんな風に真っ直ぐに見つめられたことは、無い。こんな風に真剣に、ただ利央だけを見ている様な準太の顔は、知らない。 「なあ、何で他の奴と寝た?」 真摯に酷く誠意に満ちた、静かな準太の声が部屋に満ちた。 「何で、て・・・・」 好きでもない人間を抱くのはどんな気分かと思っただけだ、なんてさすがに言い難い。 すると言い淀んだ利央に何を勘違いしたのか、準太は深く嘆息してその黒い髪を掻き上げた。 「そんなに、女扱いしてたか?オレ」 (・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい?) 準太に女扱いをされていたかと言われれば、絶対にNOだ。それどころか、女の子を相手にするのならもう少し優しくしてあげた方がいいんじゃないかというような、抱かれ方もした。 「いや、それは、無いんじゃない、かなぁ・・?」 準太が何を口走り始めたのか分からなくて、利央は首を傾げながら答える。すると準太は眉根を寄せて、正直に言えよと低い声音で零す。 「そうじゃなきゃ、何で今更女を抱きたいなんて思うんだよ。女役に飽きたからじゃねぇのか?そりゃお前だって男だし、女役ばっか嫌かもしんねぇけど、だったら何でまずオレに言わないんだよ」 ちょっと待て、と利央は心の中でツッコミを入れる。 女役をやらせていたということ以前に、何か根本的な問題があっただろう。準太は別に好きな人間がいたのに、利央を抱いていたという問題が。彼は何故そこに触れないんだ、女役が嫌だ云々の話の前に、するべき話じゃないのか。 「いきなり女と寝たとか浮気報告されて、オレが切れないとでも思ったのかよ」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・浮気?」 浮気というべきものでは、ないだろう。だって、浮気というものは双方が付き合っていて初めて成り立つものであって、そうではなければ単なる寄り道というかセフレの増殖というか。 何だか予想外の台詞ばかりを並べ立てられて思考回路が付いていかない利央に、準太は更に追い討ちをかける爆弾を落としていく。 「浮気だろ?それともお前、心が伴ってなきゃ単なるつまみ食いとか言うんじゃねぇだろうな。そんな考え方、俺は認めねぇからな」 単なるつまみ食いで自分を抱いてきたのはあんだろうと言い返してやりたかった利央だが、準太が落とした爆弾はこれだけでは終わらなかった。 「ったく、まさか付き合い三年目で浮気されるとは思わなかったから、パニクった。しかも利央のくせに」 (・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ちょっと、待て) 今度こそ利央は固まった。今準太は何と言った?自分の幻聴でなければ、”付き合って三年目”と言った。確かに、準太と性的な関係を結んでからはそのくらいだが、しかし、それは単に届かない和己への想いの昇華行為だった筈で、準太はそのつもりだった筈だ。少なくとも、利央はそう思ってきた。 「あの、準サン?」 このままでは自分の思考回路が凍結すると判断した利央は、まるで小学生のように手を挙げた。 準太は徐々に調子が戻ってきたのかいつもの様に少し睨む様な視線で、何だよと不機嫌そうな声を上げる。 「あの、さぁ、確認したいんだけど、さァ」 まさかねぇと引きつった笑いを浮かべながら、早まる動悸は抑えられない。 「んだよ、さっさと言え。言い訳でもあんのか」 それよりも、もっと根本的なことが確認したい。 「オレと準サンて、付き合ってたの?」 瞬間、場の空気が凍ったことを利央は肌で感じた。準太は眼を見開いて穴が開く程利央を見つめて、珍しいことにぽかんと口を開けたままだ。 しかし、珍しいものを見たと嬉しがる余裕は無く、彼のこめかみに青筋が立っていくのをしっかり見てしまう。 「・・・・・・・・・・・・・なんだって?」 ヒクヒクと震える彼の口端に、利央の肩も知らずに震える。地を這うような声音が怖くて、利央は瞬きを繰り返す。 「お前、まさか、ここ三年間、このオレを単なるセフレだと思ってたんじゃねぇだろうなぁ・・・?」 そんなおそろしいことは考えていなかったが、しかし準太のこの態度を見る限りでは、もしかしたら自分たちは本当に付き合っていたのだろうかと利央は軽く混乱する。 「それは思ってないけど、でも、和サンの代わりかなって・・・・」 「はぁ?」 それこそ、何言ってんだこいつ、という風に思い切り眉根を寄せた顔をされて、利央は何だか居た堪れない。 「和サン?何でここで和サンが出てくんの」 もしかして、もしかしたらという期待なのか不安なのか分からない感情が腹の奥から沸いてきて、利央は喉を震わせた。 「利央、なんでだ」 いつの間にか準太は机を越えて利央の膝元まで寄って来ていて、黒い瞳に覗き込まれて利央は睫毛を伏せる。 「だって、準サン、中学生の頃から和サン好きだったじゃん。だから、高校で和サン卒業しちゃって、寂しいから、オレはその頃から準サン好きだったし、だから、その、代わりかなーって」 ずっと?と尋ねられて、利央は頷いた。ずっと、三年間ずっとそう思っていた。自分は準太にとって和己の代わりで、だから女の子と寝たってそれは全然準太には関係の無いことだと思った。だって、自分たちは付き合ってなどいないと思っていたから。 そこまで準太から目を逸らして話してしまってから、そっと視線を戻すと、準太は利央の隣でベッドに突っ伏して呻いていた。 「あの、準サン?」 まるで呼吸もしていないかのようにベッドに倒れこんでいる準太に不安を感じてそっと声をかけると、彼は一呼吸置いた後勢い良く身体を起こした。 「馬鹿か、お前はーー!!!」 そして耳を掴み挙げられ間近で叫ばれ、利央の頭に準太の声が反響する。 「なんで和サンの代わりに、お前を抱かなきゃならねぇんだよ!和サンに失礼だろうが!つーかお前、中学生の話をどこまで引きずってんだ!」 「準サン、耳、いたい・・・・」 準太は利央の耳を掴んだまま彼の顔を自分に向けさせ、よく聞けよとすごんだ。その目はすっかり据わってしまっていて、利央の背筋に冷たい汗が流れる。 「確かに、中学生の頃は和サン好きだったよ。憧れだったんだかそうじゃなかったんだか、ワカンネェけど。でもな、だからってオレはそれを引きずりながら、どうでも良い奴抱いたりしねぇ。和サンのことは、ちゃんと終わってるんだよオレの中で。つか、あの人今慎吾サンと付き合ってんだろ?」 それを聞いた途端、利央の胸がずきりと痛んだ。 「じゃあ、準サン、慎吾サンと和サンが付き合い始めたって聞いた日、何でおかしかったのさ」 いきなり専攻の話など出してきたりして、明らかにあの日の準太はおかしかった。それは和己と慎吾が付き合い始めたことがショックだったからじゃないのか。 それを問い詰めると準太は嫌そうな顔をしたが、それをここでごまかせば利央がまたあらぬ誤解を抱くと判断して渋々といった様子で口を開いた。 「あれは、違う。お前が専攻で悩んでるらしいぞって慎吾サンから聞いて、オレは知らなかったし何も言われてなかったから、腹が立ったんだよ」 その言葉に、利央の瞳は驚愕に見開かれる。だってこれでは、まるで準太が慎吾に嫉妬したようではないか。 ここまでの話は全て利央にとっては寝耳に水で、今一信じられない。自分に都合のいい夢を見ているのでは無いかと思うけれど、目の前の準太の耳朶が赤くなっているのを見て、夢じゃないのかなと思う。 「もしかして、準サンて、オレのこと好きなの?」 今まで何度も望んで、何度も打ち砕いてきたこと。準太が自分だけを見ればいい、自分の事を好きになればいいと何度願ったかしれない。 「おっまえなぁ・・・・今までの話の何を聞いてたんだ?今更それを聞くのか、あぁ?」 準太は照れ隠しなのか利央の両頬を指で伸ばすけれど、利央はそんな痛みなど感じずにただ目頭が熱くなるのだけを感じた。 「あって準はん、ほんなこと、ひよことも・・・」 伸ばされた頬のせいで間抜けな口調になってしまったけれど、瞳に浮かんだ涙に準太は一つ嘆息して頬から指を放す。そして、その少しかさつく指先で利央の目元を拭った。 「だって準サン、一言も言ってない。好きだなんて、言われたこと無い。だからオレ、ただ抱かれてるだけなんだって思った。朝起きたらいっつもいないし、そこまで一緒にいたいわけじゃないんだって、恋人じゃないから仕方無いっていっつも言い聞かせて、でも連絡くれれば嬉しいし来てくれれば凄い嬉しかったし、だから、いっつも嬉しいのか悲しいのかわかんなくて」 だから、好きでもない相手でも普通に寝てしまえるのか試したくて、女の子と寝たのだと利央は白状した。 準太は嫌そうに眉をしかめたけれど、涙を懸命に堪える利央の姿に諦めたようにその表情のまま抱擁をくれた。 「悪かったよ、言わなくても通じてるかと思ってた。まさか、今更オレが和サンに惚れてるとか阿呆なコト考えてるとは、思わなかったし」 泣きそうになっている分利央の方が体温は高い筈なのに、抱き締めてくれる準太の腕を酷く暖かく感じた。 「アホって言うな」 鼻をすすりながら準太の肩に顔を埋めると、彼は耳元で楽しそうに、 「でっけぇガキ」 と笑った。 「お前はオレの恋人だよ、もう三年前からずっと」 そんなことは知らなかったと文句を言う利央に、準太はうんごめんと繰り返した。 だから、あの日あんな乱暴に抱かれたことがショックだったと呟くと、準太も辛そうに悪かったと返した。 「準サン、好きだよ」 準太は和己が好きだからと思い、ずっと言えなかった言葉。三年間ずっと飲み込んできた言葉をようやく吐き出すと、準太は瞠目した後嬉しそうに破顔した。 「知ってる。だから、オレは付き合ってるんだって確信してたから」 でも、自分からは伝わってなかったんだよなと準太は苦笑して、利央の口端に軽く口付けた。 「滅多に言わねぇからな、刻み付けておけ」 そう前置をしてから、準太は利央の唇に己のそれを重ねた。そして、その口内で舌を絡ませてから僅かな隙間でそれを紡いだ。 「好きだよ」 それに応える様に利央は準太の舌を自ら求めて絡め、のしかかる彼の重みにこの上ない幸福を感じながらそのままベッドに倒れこんだ。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・オチはギャグ(爆。えーと、つまりは三年越しの利央の勘違いだったという。準サンはずーっと付き合ってるつもりだったのに伝わってなくて、利央に浮気までされちゃって可哀相すぎる(爆笑。 でもなんてーか、準利って私の中でこんなイメージ。準サンは言葉が足りなくて、利央は確かめることができなくて、結局お互い矢印出てる期間が長い長い。 準サン、日本男児は背中で語ってくれていいんだけど、言うことは最初に言っておこうね!(笑。 表は後一話、エピローグのようなものを書きます。で、ここからは裏に一話書く予定なので、少々お待ち下さい。 |